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147話 私にとって大切な人かな

 一時間目の授業が終わると春人たちの周りに生徒が殺到した。

 だが無理もないだろう。朝にあんなものを見せられれば。


「なにがあったの桜井さん!?百瀬君と何があったの!?」


「なんか……すごい変わったよね。あ、いい意味でだよ。いい意味で」


「地獄に落ちろ百瀬」


「百瀬……死ね」


 多くの質問が飛び交う。美玖へは女子が今朝の件について目の色を輝かせ迫っていた。それと比べて春人ときたら……殺気立った血走った目をした男子たちが今にでも襲い掛かろうとしていた。

 そんな命の危険を感じている春人の横で美玖は楽し気に会話をしている。


「実ははる君とは昔から仲いいんだよ。ちょっと事情があって隠してたけどもういいかなって」


「へー、幼馴染ってこと?そうかぁだから二人っていつも仲良さげに話してたんだね」


「でも幼馴染にしてはなんだろう……距離が近い?そう、距離が近いよね!」


「そうかな?」


 わからないといった様子で首を傾げる美玖。

 この反応に一人の女子生徒が興奮気味に身を乗り出す。


「そうだよー!皆もそう思うよね!?」


「うん、確かに」


「まあ、今日は特にそう思うよね。普段もまあまあ近かったけど」


「だよねだよね!」


 女子たちの中で盛り上がり始める。春人たちの関係を勘ぐっているのだろう。こうなると美玖はどう返すのだろうか。

 春人は隣の話が気になり聞き耳を立てる。


「うーん、特に何かあるってわけじゃないけど、でも――」


 美玖がこちらに視線を向ける。だがそれも一瞬だ。すぐに皆に視線を戻して――。


「私にとって大切な人かな」


 話を聞いていた女子や男子、そして春人はその言葉にドキッとしてしまった。


 周りの視線も気にせず美玖へ視線を向けると美玖もこちらを見て、にひっと笑みを作る。このやり取りもまた二人の関係にただならぬものがあると勘ぐらせるネタとなる。


(勘弁してくれよ……その表情ほんとに)


 最近よく見せるこの表情に春人は弱い。

 悪戯好きな子供のようでありながら女性としての魅力的な部分も併せ持った笑顔。こんな笑顔を向けられれば誰であろうと意識しないわけがない。しかもこれが春人にだけ向けられるものだとなると……。


「それどういう意味――」


 ――キーンコーン。


 女子生徒の言葉を遮るようにチャイムが鳴り始めた。

 正直疲れてきたので春人としては救いのチャイムだった。


「えー!いいとこなのに!」


「あ~あ、また後でだね~。ほら戻ろっか」


「くそ……どうして百瀬ばかり……」


「羨ましい……ほんとっ、に羨ましい!」


 未だに二人への興味が絶えない様子だが生徒達も仕方ないと自分たちの席へと戻っていった。一部怨嗟の籠った視線を春人に向けながら。


「ふぅ……なんかすごかったな」


「あはは、まあ、気持ちはわかるけどね」


「だな」


 春人が同じ立場でもそうするはずだ。


「……あのさ」


 こちらの様子を窺うように美玖が視線を向ける。


「よかった?これで」


「これでって?」


「だから……皆への対応としてというか……大切な人って言っちゃって」


「あー、そういう」


 人によってどう受け取るかわからない言葉だ。正直に気持ちを表に出し過ぎたと後悔しているのかもしれない。

 でもそんな心配しなくていいのにと春人は苦笑した。


「いいんだよ。美玖がそうしたかったんだろ?なら何も間違ってない」


 そう何も間違っていないのだ。

 これ以上美玖の気持ちに我慢はさせない。そう決めたのだからこれくらいのことは覚悟していた。


「……うん」


 美玖の口から声が漏れる。前髪で目元は見えなかったが緩んだ頬で何となく感情が推し量れる。

 春人もこの反応が見れただけで覚悟した甲斐はあったというものだ。

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