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109話 どことは言わないがあまり小さいとか言わないでおこう

『さあさあ、やってまいりました!毎年の恒例イベント学校名物大食い勝負の開催でーす!』


 放送部の実況にイベントを見に来ている生徒が声を上げ大いに盛り上がっている。本当にこの学校の名物なのだろう。校舎の窓からも見学で顔を向けている人がいる。


『今年も大食い自慢の生徒がたくさん出場して――おお?ちょっと気になる出場者がいますね!学校でも噂になる美少女、桜井美玖さんが今回大会に出場してくれていまーす!しかもメイド服姿ですよ!いやー、サービス精神旺盛ですねー!私もいろいろお世話してもらいたいです!』


 放送部の実況に生徒達からも笑い声や男どもの野太い歓声が上がる。


「ひでえ実況だな」


「あはは……まあ、いい広告だよね。でも私たちのクラスの宣伝にもなるし」


「それを言われちゃあな。俺もなんも言えないけど」


 放送部の美玖いじりを聞きながら春人たちはステージ上に用意された長机に肩を並べていた。


「にしてもすごい人気だな。これはイベントのせいか?それとも美玖のせいか?」


「どうなんだろうね。イベント自体毎年の恒例らしいし元々の人気かな」


 中庭には今も人が集まってきている。

 確かにイベントの人気もあるだろうが美玖の出場を聞きつけた生徒たちが押し寄せているのは明らかだろう。


 心なしか男子生徒の集まり具合が多い気がする。


「ちょっと、二人で世間話してないでいいからなんであたし呼ばれたのか説明してくれる?」


 春人の隣に座る香奈が不満を顔に貼りつけジト目を向ける。


 今回、春人たちのチームの三人目に呼ばれたのが他でもない香奈だ。


「なんでって、大食いと言えば香奈だろ?」


「そんな人を大食い専門みたいに扱わないでほしいけど」


「でも実際他に思いつかなかったんだよな。頼むよ。俺を助けてくれ」


「なんでこんなことになってるのかも説明されてないのに助けろとか勝手だなー」


 いまだに不満そうな顔を浮かべていると隣の机から谷川が声をかけてくる。


「なんだよ百瀬、誰を集めるのかと思えば桜井と水上か。勝つ気あるのか?」


「はー?谷川あんた何をそんな偉そうに」


「なんか俺を負かせて恥をかかせたいらしいぞ」


「何それバカじゃないの。でも……こうなってる原因は何となくわかった」


 谷川の挑戦的な言動で香奈もある程度は理解してくれたらしい。話が速くて助かる。

 谷川は春人に勝ち誇るように浮かれたにやけ面を向けてくる。


「これは勝負あったな。お前の人望の無さを計算に入れてなかったけど嬉しい誤算だ」


「誰が人望ないって?まあ、事実だがな」


「春人君……」


 春人もなぜか誇らしげに谷川に言い返すので美玖が哀れみを込めるような視線を向けてくる。

 自虐で言ったがその視線は結構効くからやめてほしい。


「でもいいのかお前。そんな余裕こいて?」


「は?なんでだよ。こんなんもう勝負にならんだろ」


 谷川の両サイドには相撲部の二人組が並んでいる。それに比べ春人の方は美玖に香奈。サイズ的にもどう見ても食べる量が違うように見える。


 そんな怪訝な顔を作る谷川に春人は不敵に笑みを作る。


「あんまりなめんなよ。うちの秘密兵器はすごいからな」


「なんだよ秘密兵器って」


「ちょっと、それあたしのこと言ってんの?」


 勝手に盛り上がる春人たちに香奈が眉根を寄せる。


「は?水上?秘密兵器が?ふっ、百瀬もついに頭おかしくなったか」


「はぁー?」


 谷川のバカにするような態度が癇に障ったのか香奈が盛大に顔を顰める。


「それどういう意味さ?」


「どういうも……だってそうだろ。そんな小さい身体のどこに入るって言うんだ」


「小さい……」


 ピクっと肩を揺らした香奈から何やら不穏な気配が立ち込める。身体を小刻みに振るわせて今にでも何かが破裂しそうだ。


「……春人協力してあげる。あいつぶっ倒そう」


「え、お、おお……」


 思わぬ方法で香奈のスイッチが入りやる気になってくれて春人も嬉しいのだが……。


「なあ美玖。香奈に小さいとか言ったらまずいのか?」


「あー……そうだねー。身長とかもだけど……まあ、いろいろと気にしてるからね」


 こっそり美玖に耳打ちし香奈についての情報を入手する。今後身体的なことで香奈を揶揄わない方がいいだろう。

 谷川と会話を交えていると放送部から大会の説明が始まった。


『それではルール説明に移らせてもらいます。ルールは単純、制限時間二十分の間により多くのカレーパンを食べたチームが勝ちとなります』


 よくある大食い番組とかのルールと同じだ。難しいことなどない、ひたすら食べて食べて食べ続ければいい。


 説明が終われば放送部の生徒はステージ上へと問いかける。

 心なしかステージ上の出場者たちの空気も引き締まっていた。


『皆さん準備はいいですね?――それでは今年も大食い大会――試合開始ですっ!』


 放送部の合図とともに甲高い機械音が響き渡る。


 同時に谷川のテーブルで動きがあった。

 相撲部の二人がカレーパンを二、三口で一つ平らげすさまじい勢いで皿を空にしていく。


『おっとー!相撲部の一年生ペアがとんでもない食べっぷりでカレーパンを消化していく!』


 見てて気持ちいい食べっぷりに実況にも熱が入る。さらに実況を聞いている中庭に集まってきた人達も盛り上がっていく。


『これは他の選手早くも厳しい展開に――って、えぇぇええっ!?』


 実況の驚愕するような叫びに一瞬場がどうしたのかと固まる。

 だがその理由も放送部の実況が教えてくれる。

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