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108話 頼む。目立つから本当に止めてくれ

「ごめん!本当にごめんね春人君!」


 美玖は起きるなり春人に謝罪していた。ペコペコと頭を下げてくる。


「気にしなくていいぞ。朝から働きっぱなしで疲れてただろうしな」


 あまりにも必死に謝られるものだから春人はおかしくて苦笑いを浮かべてします。


 美玖が寝てたのはほんの十分程度だ。

 寝てたといっていいのかも怪しい時間だし本当にこれくらいの時間どうってことない。


 むしろ美玖の寝顔が見れて春人としては得をしたと思っていた。


 それでも居眠りしていたことが恥ずかしいのか美玖はずっと落ち着きなくスカートなどをいじっている。


「美玖が動けそうなら移動するか?」


 折角の文化祭でこのままここにいるのも勿体ないので春人は移動を提案する。


「あ、私は大丈夫。もう動けるよ」


「なら……どうするかなぁ」


 春人は文化祭のパンフレットを見る。すると中庭で何やらステージをやっていることに気が付く。


「ステージか……なんかいろいろ見れるみたいだし行くか?」


「うん、いいよ」


 美玖からの了承ももらったので春人は「じゃあ行くか」と口にし歩み始める。二人は並び中庭へと移動する。


 校舎三つにコの字で囲まれた中庭は中央に大きなステージ、屋台なんかも道に沿ってずらーっと並んでいてザ・文化祭といったような雰囲気となっていた。


「おー、本当の祭りみたいだな」


「ねぇー、チョコバナナにたこ焼き、ヨーヨー釣りなんかもあるよ」


 やはり祭りというだけでテンションが上がる。春人は少しわくわくとしながらあたりを見て回る。


「美玖、何か食うか?」


「さっき食べたしなー。あまり食べ物系はいいかも」


「なら、遊ぶ系にするかな」


「春人君が食べたいなら買って来てもいいんだよ?」


「んー……そうだなー。クレープとか食べたいかも――」


「見つけたぞ百瀬!」


 食べたいものを吟味していると突然名前を呼ばれ春人は訝し気に振り返る。


「……なんだ谷川か」


 春人の視線の先――名前を呼んだのは谷川だった。確か不良学生と間違われ先生に連れてかれてたはずだが無事に解放されたらしい。

 そんな谷川はなぜか睨みつけるような鋭い視線を春人に向けていた。


「なんだよじゃねえ!聞いたぞクラスの奴から!」


「ん?」


 一体何を聞いたというのか。春人は心当たりがなく首を傾げるがそんなことはお構いなしに谷川から爆弾が降下された。


「お前!桜井とデートとか羨ましすぎるだろ!」


 谷川の恨みつらみの籠った声が中庭に響き渡った。

 これには春人も冷や汗を垂らし顔色を変える。


「お前バカ野郎!声がでけえ!」


 春人も谷川に負けず劣らず声を張り上げる。

 こんなに騒いでいれば周りの生徒はなんだと興味を向けてくる。

 しかも谷川の口にした言葉は本当にこの場では冗談じゃない程の衝撃を与えた。


「桜井ってあの?デートって言ってなかった?」


「聞こえたけど間違えだろ。他の桜井とか」


「え、あそこにいるのって桜井さん?ってことは本当に誰かとデート!?え!誰!?誰!?」


 一瞬にして中庭中に美玖の話が広まった。


(こうなるだろうが谷川のバカが!どうすんだよこれ!)


 すでに春人たちを囲むように人だかりができている。

 美玖のデート相手に皆興味があるんだろう。


(あー、美玖のデート相手俺ですよ。期待してた皆ごめんね)


 耳に「まさかあれ?」みたいな言葉がよく聞こえてくる気がする。皆春人の姿にがっかりしているのか意外といった言葉が飛んでくる。

 春人は勝手にダメージを受けながら、今回の元凶を睨みつける。


「お前なんてことしてくれてんの?」


「うっせーよ!あーなんて羨ま――怪しからんのだ!」


「素直に羨ましいって言っとけばいいだろ。つうかさっき盛大に言ってただろうが」


「くっそー!すべてが勝ち組の言葉に聞こえてきやがる!」


「もう用がないなら行くぞ。つうかもう行かせてくれ。視線が痛いんだよ」


 春人は刺さるような視線を先ほどから感じていた。好奇な視線はまだいい。明らかに殺気が混ざっている。


「いや逃がさん!お前にはここで一度痛い目に遭ってもらう!」


「なんだよ。もうすでに結構きついんだけど」


「お前ら出番だ!」


 谷川が手を叩くと後ろから大柄の二人組が表れた。

 その二人は春人も知ってる。


「えーと……相撲部の佐々木に伊藤。どうした?」


 同じ一年の生徒だ。相撲部の部員なだけあって相当身体がでかいので一年の中では結構有名だったりする。


「は?もしかして相撲でもしろと?」


「ふふ、俺がそんな暴力みたいな方法でお前に痛い目合わせようと思ってると思ったか」


「普通に考えてそう思うけど」


「百瀬!この後のステージで開催されるイベントを知らないとは言わせんぞ!」


「いや知らんし。つうかお前なんかしゃべり方おかしくね?」


 妙に大げさに気取った感じを出している谷川に春人は冷めた目を向ける。


(マジでなんなのこいつは……)


 こんな人が多いところでよくやると春人は少し感心してしまう。


「次のイベント――学校名物大食い勝負だぁー!」


 谷川が叫ぶと後ろの相撲部二人組も手を上げて「だぁー!」と一緒に叫び出す。


「本当に帰っていいかな……?」


 谷川たちのテンションと真逆に春人のテンションはどんどん下がっていた。


「お前ここまで盛り上げてんのに冷めたこと言うなよ!」


「いやだって……俺どうでもいいし」


「どうでもよくない!これは“百瀬春人を陥れる会”の立派な活動なんだ!」


「そういえばあったなそんな軍団……」


 春人も夏休み中に知った。


 谷川が会長として君臨しているおかしな組織の存在を。

 聞けばいつもおいしい思いをしている春人を何とかして懲らしめたいという意思を持った人間が集まっているらしい。


 本当に春人にとっては迷惑な話だ。


「それで、なに?俺を陥れたいのに何で大食いが関係してくんの?」


「お前の運動神経がいいのは知ってるからな。スポーツじゃまず勝てない」


「なら他にも勉強とかあるんじゃないか?」


「俺はバカだからそれでも勝てないんだよ!」


「あー……なんかごめんな」


 気の毒になってつい謝ってしまった。


「まあ、なんだ。それで大食いで恥でもかけと?」


「そうだ!これならお前も勝てんだろ!なんたってこっちは会員随一の大食いを連れてきたからな!」


 自信満々に谷川が後方の二人に手を向ける。確かにこの二人なら優勝だって狙えそうだ。

 それでも春人が付き合ってあげる必要なんて微塵もないわけで。


「そもそも俺出ないけど。大食い」


「そこは俺が勝手にエントリーしといた」


「お前ほんとに何してんの?」


 勝手にとかそんなの聞いてない。春人は面倒くさそうに眉根を寄せる。


「つうか本人じゃないのにエントリーなんてできんのか?」


「そこは会員が文化祭実行委員にいたからちょちょいと」


「その実行委員連れてこい。そいつには少し話がある」


 春人はその名前も顔も知らない実行委員の生徒にどう責任を取ってもらおうかと画策し始める。


「百瀬いい加減諦めろ。もう逃げ場はないぞ」


「いや穴だらけだろ。こんなん逃げようと思えばいくらでも逃げれるぞ」


「大食いはチーム戦だ。三人一組だから百瀬も早く人数を揃えるんだな」


「いや、話聞かねえな!だからやるなんて言ってねえぞ!」


「ここで逃げるのはかっこ悪いぞ?」


「別にかっこ悪くても何でもいいんだけど……」


 春人はもう付き合いきれんと美玖に視線を向ける。


「悪い。あほに掴まって変なことになった。放っておいてもう行こう――」


 美玖を連れてこの場から消えようと思うがなにやら美玖の様子がおかしい。


「デート……やっぱりデートに見えるよね……でも私たちまだそんなんじゃ……」


 小声でぶつぶつ呟いているが、デートと言う単語が何度か聞こえてくる。そして美玖は恥ずかしがるように俯いてもじもじと身体を揺らしていた。


(なんでこの子こんな状況で照れてんの……)


 そして他にも気づいていなかったことがあった。


 集まってきた生徒たち。

 思いのほか盛り上がっているらしい。


「なんか次のイベントであの百瀬が勝負するらしいぞ」


「百瀬って動画の子?へーちょっと楽しみ」


 春人は春人で最近少し有名になっている。この騒ぎに拍車をかけてしまったようだ。


「うわぁー……すんげぇ消えにくい雰囲気」


 先ほどまでは別に逃げてもなんて考えていたが周りの空気がどうもそうはさせてくれそうにない。

 周りの期待に満ちたような目が春人の意志を揺らぎらせる。

 数十秒考え春人は本当に遺憾ながら観念してため息を零す。


「はー……わかったよ、もう何でもいいから受けてやる」


「おお!流石百瀬!こういうところで男気みせてくれる!」


「お前がそれ言うか……まあいいや、確認だけど三人一組なんだよな?」


「ん?ああそうだぞ」


「そうか。オッケー了解だ」


 春人は少し口角を上げる。

 やるからには全力でやらせてもらうつもりだ。


 スマホを取り出し春人はある人物へ連絡を入れる。

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