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「不屈の冒険魂」 [ISAO]The indomitable spirit of adventure online【Web版】  作者: 漂鳥
第6章 2つの解放クエスト

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69 トレハンCW

⚠︎【注意】今回はISAO以外の他ゲームに関する話です。

 


 いよいよトレハンCWの正式ゲームが配信される。


 雅弘との約束を果たすべく、早速ログインすることにした。あのチケットのおかげで、お笑いデートは大成功だったしな。さっさと片付けて、礼を済ませてしまおう。



 《ゲームを開始します。


『Treasure Hunters of The Cristal World』の世界に降り立ちます。よい旅を。》



 *



 中央に、背の高い黒いオベリスクのある四角い大広場に出た。広場には、赤茶色の石畳が整然と敷き詰められていて、ガス灯風の街灯にはカラフルなフラッグがはためいている。


 広場の周囲を囲む建物も統一感のあるタイルで装飾されていて、かなり近代的な建物が目立つ。


 初日とあって、俺と同じようにゲームを始めたばかりのプレイヤーが次々と現れ、待ち合わせでもしていたのだろうか? あちこちから賑やかな喧騒が聞こえてくる。


 ここは最初の街「オルレイン」。中央大陸にある街だ。


 誰と約束があるわけでもなく身軽な俺は、小鳥AIの指導通りに、まずはハンティングギルドにハンター登録をしに行くことにした。


 ハンティングギルドは……メニューMAPで位置を確認すると、すぐそこだ。ギルドに向かうプレイヤーの流れに乗って建物に近づくが、人が多くてすぐに進めなくなった。


 これは困ったな。



 《ピコン! 》



 《ユーザーの皆様にお知らせいたします。


 現在、ハンティングギルド内は大変混雑し、入場制限をしております。臨時に、仮登録エリアを設置いたしましたので、お急ぎの方は是非そちらをご利用下さい。


 仮登録はギルド前広場一帯で行うことが可能です。ステータス画面上の「仮登録バナー」で仮登録後、現実時間1週間以内に、ハンティングギルドで本登録を済ませて下さい。》



 気が利いているな。とりあえず仮登録でいいだろう。



 《ハンター登録[仮登録]をしますか? 》


 《【ハンター登録証[仮]】が交付されました。ただいまのランクは「アイアン」です。》



 これでもう街の外に出て行けるはずだ。


 装備は…大丈夫。チュートリアルの時のまま、初期装備を身につけていた。


 雅弘から事前に仕入れた情報では、初心者フィールドは「東の草原」。


 じゃあ行くか。



 *

 *

 *



 狩りを始めてしばらく。うーん。手応えがないな。


 ISAOの初期雑魚はもうちょい強かった気がするんだが。戦闘職と支援職の違いかな? 武器の違いもあるだろうけど。あるいは、ISAOではずっと支援職をしていたから、違和感を感じるのかもしれない。


 東の草原に出て、遭遇した敵を順次斬り倒していったが、最初期の敵のせいかあまりにも弱いので随分先まで進んできてしまった。これは、初心者親切設計なのかな。


 目の前には、次のフィールドだと思われる暗い森が見えている。


 …… さすがにこれ以上はやめておくか。


 状態異常攻撃がないのは、初心者フィールドだけだって小鳥AIが言っていたし。



 街へ引き返そうと踵を返そうとしたところで、



 《PS Encounter! Great Hunting Chance! 》



 アナウンスと同時に、気配を感じて背後を振り返ると、やけに棘棘キラキラした、赤くて巨大な塊が、もの凄い勢いでこちらを目掛けて突っ込んでくるのが見えた。



 うわっと! 危ないな。



 でもこの身体(アバター)、幸いなことにAGIが高いんだよ。相対速度に補正が入り、スピードの落ちたモンスターの突進を横に跳んで躱し、クルリと体勢を整えて赤い巨塊に向き直った。


 改めて観察すると、巨塊には4本の脚が生えていて、ずんぐりとした頭も確認できる。全体の形は猪っぽいかな。


 しかしその質感は明らかに異質で、生身の動物とは全くかけ離れていた。毛皮の代わりに多角柱の結晶が剣山のように飛び出している巨躯。尖った鼻と口の左右からは、曲刀状の鋭い牙が上向きに突き出している。


 どうやらこれがトレハン名物のprecious(プレシャス) stone(ストーン) monster(モンスター)(PSM)


 ……貴石でできたレアモンスターみたいだ。



 土を掻き、方向転換した猪が土煙を上げながら、再度一直線に突っ込んでくる。先ほどよりかなりスピードに乗っているが、不意打ちじゃなければ、この程度の突進を回避しつつ反撃するのは簡単だ。


 迫る赤い猪に向かって、こちらからも走り出す。


 よし! ここだ! 間合いを見計らって、助走から片足で踏み切り、前方に向かって高く跳ぶ。そして、両手で振り上げた刀を猪の太い首元を狙って一閃。



 〈 ギャリンッ!! 〉



 固い手応えがあり、斬りつけた場所が陥没し、赤い破片が飛散する。


 その勢いのまま、残った足を真上に振り上げ、猪を支点にしてそのまま前転。空中ブリッジの姿勢からストンと着地して、振り返る。


 深くは切り込めなかったが、首元の結晶は今のでかなり破壊できたはずだ。


 傷つけられたことで激昂し、雄叫びをあげながら突っ込んでくる猪を再度躱し、先ほどと同じ部位を狙ってまた刃を振るう。



 《Critical Hit !!》



 よっしゃ! 今度は深く入った。HPもかなり削れている。


 猪モンスターは、その巨躯に相応しく、高いHPとパワーを有していた。でも、攻撃パターンは割と単純で、繰り返される激しい突進を躱せさえすれば、確実に攻撃を入れられた。


 身体が驚くほど軽い。


 種族特性ってやつらしいが、跳躍・倒立・回転・重心移動が、頭でイメージした通り意のままにできる。これがアシスト機能ってヤツか。不思議な感覚だけど、回避が楽っていうのは助かるな。


 その後、HPを半分くらいに削ってから、赤い結晶猪は、口から火を吐く特殊攻撃を仕掛けてくるようになった。でもそれも、射程が長いだけで一直線に放たれるだけだ。射線を読み切ってしまえば回避は簡単で、難なく躱し続けながら首の急所を狙って着実にHPを削っていった。


 これでとどめだ!


 上段から勢いよく振り下ろした斬撃が、その太い首の骨を断つゴキン! という確かな手応えを感じた後、猪は光となって姿を消した。



 《3 Level UP! 》


 《「Scarlet Stone」GET! Congratulation! 》


 《☆「PSチケット」GET! 》



 なにかチケットがドロップした。


 あと赤い貴石も。あまり強くはなかったが、あれでも一応特別なモンスターみたいだから、報酬は多少期待したい。チケットを早速引いてしまおう。



 《PSチケット 1枚 使用しますか? 》



 色とりどりの宝石が回転し、弾け散る召喚演出とともに、目の前に一振りの刀が現れた。宙に浮かぶその刀に手を伸ばす。


 ・【数珠丸】[刀]★★★★★ 闇特効(中)+


 触れると同時に、目の前に現れた透明パネルに刀の情報が表示される。刀が出たのは、たまたまか? それともこのゲーム、メインスキル関連の装備が出てくるっていう親切設計?なのかな?


 ★の数が5つっていうのは、おそらく初心者が手にする武器としては多い方だ、それに闇特効も付いている。きっといい刀なんだろう。


「数珠丸」っていうと、あの恒次のか? 初期エリアで手に入る装備にしては大袈裟な銘だと思うんだが、まあゲームだしな。分かりやすい名前が付けられているのかも。



 早速、装備変更した。



 これで、随分と攻撃力が上がるな。しばらく武器は買い換えなくてもいいかもしれない。


 レベルは3つも上がってLV8。


 さて、じゃあ引き返そうか。そろそろハンティングギルドも空いてきただろう。ドロップした素材を売って、防具とポーションを買って、一気にレベル20を目指すか。



 *

 *

 *



 《オルレイン・ハンティングギルド》



「本登録と素材の買取りをお願いします」


「ここに仮のハンター登録証をかざして下さい。……はい、これで本登録完了です。仮登録証にあった討伐済の記録から、常設討伐依頼の受注と完了報告ができますが、どうしますか? 」


「受けられるものは全てお願いします」


「ではもう1度、登録証をここにかざして下さい。………討伐ポイントが付与されました。もう少しでランクアップできそうですよ。素材は、③番・買取りカウンターにご提出下さい。引き換え番号が発行されますので、あちらの掲示板にその番号が出ましたら、⑤番・清算カウンターまでお越し下さい」


 なんというか、効率的? いろいろ細かいところでISAOとは違うな。受付職員も全然違う。


 ここの受付に座っているのは、受付嬢ならぬ受付バニー。


 バニーガールじゃなくて動物のウサギの方。全身クリーム色のフワフワウサギだ。長い耳がペタンと垂れていて、とても可愛らしい。女性やケモナーに人気が出そうだ。


 ウサギに指示された通りに、買取りカウンターに向かおうとすると、



 《ユーザー名「小次郎」よりPVPの申請がありました。受諾しますか? 》



 えっ!? PVP? なんで俺?



「おい! 早く引き受けろや。チーター野郎」



 柄が悪いな。……俺をチーター呼ばわり? なんだこいつ。


 それに、このPVP条件、新手のタカリか?



「お断りします。俺はチーターじゃない。それと、敗北時、全所持品譲渡ってなんです? あなたは何も賭けていないのに、俺だけ失うんですか? 一方的でおかしいですよね。これじゃあ、タカリじゃないですか」


「うるせえ。普通にやっていて、そんだけ引き運強いわけないだろ? ズルしてんじゃねえぞ、卑怯者め。さっさと受けろよ」



 [いいえ]だ。ポチ。



「なに拒否ってんだよ! ふざけんなよ! 」



 《ユーザー名「小次郎」よりPVPの申請がありました。受諾しますか? 》



「早く受けろや、おらっ。今度拒否ったらタダじゃおかねえぞ! 」



 しつこいな。


 こういう手合いはまともに相手しない方がいいな。



 [いいえ]だ。……それと、………あった。[GMコール]ポチポチ。



「おいこら、てめえ、どういうつもりだ! 」



 怒鳴って詰め寄ってこようとする相手と俺の間を遮るように、目の前の空間が急にボヤけて滲んだ。


 ……そこに現れたのは、白い翼が生えたピンク色のフワフワウサギ……それも妙に愛らしい。



 《GM権限により裁定中: ログの 調査をしています。しばらくお待ちください。



 **************************++++*********************************************+*********************

 ******************+******************************************+******************************************+*********************



 調査終了。



 ユーザー名「小次郎」の「不適切行為」を確認しました。即時ペナルティ発生。強制ログアウト。ログイン停止期間、現実時間で2日間。


 実行します。》



「おいっ! 待て! 待てよ! 」



 〈ブゥン! 〉



「小次郎」という名のユーザーが目の前で滲んで消えた。俺と似たような名前だったから、ちょっとドキっとしちゃったよ。



 《この度は、ご通報ありがとうございます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。》



「いや。迅速な対応で助かった。ありがとう」



 《お詫びの印に、「ギルド訓練所利用スペシャルチケット」をお送りしました。ご活用下さいませ。では、失礼致します。》



 現れた時と同じようにウサギはサッと滲んでかき消えた。


 ……とりあえず問題はなくなったな。


 でも、素材の売却が済んだら、今日はこれで止めておくか。なんだか今のでやる気がなくなったし。



 *



 掲示板の前で精算を待っていると、



 《ピコン! 》



 メール? 誰からだ?



 《よう、昴。こっちじゃ「源次郎」って名前か。随分渋い名前だな。これから、招待した連中に声をかけてレベル上げしようかと思っているんだけど、よければこっちに来ないか? 》


 タイミングが悪いな。誘ってくれる雅弘には悪いが、今はちょっとな。


 《いや。誘ってくれたのに申し訳ないが、今日はもうログアウトするからやめておく。じゃあな。》



 雅弘には悪いけど、みんなで和気あいあいとかできる気分じゃないし、断らせてもらった。


 さっきの騒ぎでモチベがダダ下がりだ。



 *



「ねえ。高瀬くん来るって? 」


「悪い。駄目だった。今日はもうログアウトするって」


「えーっ。そんなぁ。瑠美、高瀬くんとお話したかったのに」


「瑠美が遅刻したんだから、しょうがないんじゃないの? ゲーム開始からもう結構時間経ってるよ」


「瑠美、今朝は6時起きで頑張ったんだよ。でも、キャラメイクが終わらないし、その後、チュートリアルがあるのを忘れてたんだもん」


「なんで6時起きで、こんな時間までかかるのよ。リセマラでもしてたの? 」


「髪の色とか目の色とか、これっていう色がなかったから、カラーパレットをいじってたら、いつの間にか時間が経ってたの」


「色だけ? 他にもいろいろお直ししてたんでしょ? 」


「もう! 佐江ちゃんたら、意地悪言わないの! 」


「ごめんごめん。でも、それだけ気合い入れても、高瀬くんはガードが堅いから、厳しいんじゃないかなぁと思って」


「あれだけ格好いいんだもん。一筋縄でいかないのは仕方ないよ」


「まあまあ、お二人さん。盛り上がってるところ悪いけど、高瀬が駄目だったし、他の男子二人を呼んでもいいかな? 高瀬ほどじゃないが、この二人もルックスは悪くないし、人柄も俺が保証する」


「私は元々そのつもりだったからいいわよ。経済学部の早田くんと法学部の一橋くんでしょ? 」


「そうそう、その二人。瑠美ちゃんはどう? 」


「高瀬くんを諦めたわけじゃないけど、佐江ちゃんがいいって言うなら、私もいいわよ」


「よし。呼んだらすぐ連絡つくと思うから、ちょっと待ってて」




 *-----*-----*-----*-----*-----*-----*




 トレハンCWを予定より早く切り上げたので、ISAOにログインした。


 やっぱりISAOは落ち着く。


 そういえば、ISAOで絡まれたのは、「ユキムラ」のあの1件だけなんだよな。


 相手も、武将愛が強過ぎただけでタカリとかじゃなかったし。勝負の後、あのユーザーの妹だっていうプレイヤーが、凄く申し訳なさそうに謝ってくれたのを覚えている。


 あれ以来、大きなトラブルはない。しつこく質問してくるといったマナー違反程度がせいぜいだ。


 これが有料ゲームと無料ゲームの差なのかな。


 運営の対応が、やたら早くて手慣れた感じだったのも、トレハンでは、ああいった事例が日常的だってことかもしれない。ゲームを始めてすぐにあんな絡まれ方をするなんて、ギスギスしていて嫌な感じだ。


 ISAOが、当たりゲームってだけかもしれないけどな。


 ちゃんとしたユーザーが多いし、攻略以外でゲームを楽しんでいる人も多い。


 ……運営は鬼畜だけど。


 問い合わせても「仕様です」ばっかりで、分からないことが多いし。



 でも、ギルドの受付に関しては、ISAOは素晴らしい。


 AIが非常に柔軟で、NPC好感度が上がると、それに比例してフレンドリーな対応に変わるし、個人的な会話もしてくれるようになる。……それに綺麗なお姉さんが多い。


 もちろん、イケメンや渋いオヤジの男性受付もいるが、そちらには女性プレイヤーが並んでいるので、俺はほとんど行ったことがない。


 トレハンCWのウサギは可愛かったが、俺はケモナーやモフラーじゃないので、それだけだ。



 *



「格★」上げ目的で、施療院の仕事をしながら、そんなことをツラツラと考えていた。


 ⑥次職も視野には入ってきたからな。みんなも生産で「格★」上げしてるし、俺も頑張ろうっと。



 2月になったら、またデートだし。……楽しみだな。


 何を着ていこうか?


 カジュアルでも、ちょっとオシャレをしていきたい。


 ……雅弘に聞くか。


 あいつ、いつもセンスのいい格好をしてるしな。それにTPOもよく分かってるし。


 よし! 明日会ったら聞いてみよう!


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