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「不屈の冒険魂」 [ISAO]The indomitable spirit of adventure online【Web版】  作者: 漂鳥
第6章 2つの解放クエスト

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61 情報提供

 



 次に話は、「狂鳥ハルピュイア」の話題に移った。


 ハルピュイアか。


 確かハーピィの親玉ってやつなんだよな。持っている地図を合成すると、「ダカシュの関」の北東の山にハーピィの群れが棲みついているはずだ。


 そして、その監視のための砦は…ここ。



「ダカシュの街の東側から街を出て、この隘路を進んだ先に『ダカシュの関』があります。途中の、この青いマーカーの地点までは安全エリアであることを既に確認済みです。」


「その辺りに補給基地を作る必要があるわけか。狭いな。」


「戦場になるのは、おそらくこの赤いラインの向こう側。こちら側から視認した限りですが、南北が急峻な傾斜地になっていて、北側の山にハルピュイアの棲家がありそうです」


「遠くに映っている、人工物に見えるものはなんだ? 」


「これがおそらく『ダカシュの関』と呼ばれるものではないかと推測されています。残念ながら、この距離からは詳細は確認できませんでした」


「戦闘に入ってから、そこがどう関わってくるか……だな。ただの壁ならいいのだが。やはり、まだこのレイドについては情報が足りないな。」



 砦を調べに行く前にこちらへ戻って来ちゃったのが惜しいな。確認は取れていないが、チャティフ村で聞いた話では、砦にはNPCの兵隊が駐屯しているっていう設定だったはずだ。レイド中はどうなるんだろう?


 チャティフ村から南へは、河川の増水で今は行くことができないと釘をさされた。


 でも砦のある西へは?


 地図をくれたくらいだから、行ける可能性はある。だけど、1人でハーピィの群れを相手するのは厳しいんじゃないか? 山越えだし、結構距離もある。何かいい方法はないかな?



「グラッツ王国への到達者は、まだ名乗り出てこないんだろ? 一体どこにいるんだか。」



 えっ!? 何? なんの話? 名乗り出るとかって。



「先行情報が秘匿されたままでレイドを開始するのは、不安が伴うわ」



 秘匿!?


 なんだそれ? そんなつもりは毛頭ない。ないんだけど、今の状況だとそうなっちゃうのか。わっ、俺、ヤバくない? ここで申し出ておかないと、あとでもっとヤバい事態になるのは、火を見るより明らかだ。



「あの、発言してもいいですか? 」



 うっ。部屋中の人が振り返る。集まる視線が痛い。



「ユキムラさん、どうぞ」


「グラッツ王国への到達者を探しているんですか? 」


「そうだが? レイド開始のアナウンス時から、ずっと協力を呼びかけている。それがどうかしたか? 」


「すいません。俺、シークレットクエストで、ずっと隔離されたエリアにいて、そこから戻って来たばかりで。探されていること自体を知らなかったんです」


「……つまり、それは。君が、グラッツ王国への到達者ということでいいのかな? 」


「はい。ワールドアナウンスのタイミングからすると、おそらくそれは俺のことだと思います」



 うわっ! 急にザワザワしちゃったよ。どうなる俺。



「マジかよ。ここに来て爆弾発言だな。それが本当なら、入手した情報の提供はしてもらえるんだろうな」



 情報提供か。どこまで話せばいいかな。


 さすがに、シークレットクエストの内容についてまでこと細かに話すのは躊躇われる。神獣界や冥界に行ってきました…とか、それこそ大騒ぎになりそうだし、いろいろとあとが怖い。レイドに直接関係がありそうなことだけに話を絞らないと。



「シークレットクエストの過程で飛ばされたのが、グラッツ王国だったんです。でも、入れたのは小さな村までで、その先にあるというグラッツ王国の王都へは、通行止めになっていて行けませんでした」


「ふむ。何か今回の解放クエストに関する情報はあったのか? 」


「村の長老NPCが、ハーピィを監視するために、元関所だったグラッツ王国の砦に王国軍が詰めていると話していました」


「では、先ほど映っていた人工物が……」


「位置的にも、おそらくその砦だと思います」


「周辺地図は入手されましたか? 」


「村から砦までの地図は見せてもらえたので、そこまでは持っています」



 行ってきたけど地図はありませんとか、とても言える雰囲気じゃないな、これは。長老に地図を見せてもらっておいてよかった。



「砦には行かなかったのか? 」


「険しい山越えになる上に、ハーピィの群れが襲ってくるというので行くのを躊躇っている内に、またこちらに飛ばされてしまって」


「じゃあ、グラッツ王国へは、ほぼ行って帰って来ただけといった感じか」


「そうです。当時は、こちら側への戻り方が分からなくて、それを探すのでいっぱいいっぱいでした」


「いくら神殿の人でも支援職だもんな。1人じゃ攻略は無理か」


「しかし驚いたな。ユキムラ君が行き来した方法で、他のプレイヤーはグラッツ王国へ行けると思うかい? 」


「俺と同じようなシークレットクエストを拾えれば可能性はあると思いますが、先着1名の限定クエストだったので、俺の辿った道を踏襲するだけでは、恐らく無理なんじゃないかと思います」


「そうか。シークレットクエストと聞いた時点でそうじゃないかとは思ったが」


「もうちょい、ヒントくれねえか? 飛ばされたとか言っていたが、グラッツ王国には転移か何かで移動したのか? 」


「そうです。でも、直接グラッツ王国に転移したわけではなく、クエストの誘導でインスタンスエリアに強制転移したら、そこがグラッツ王国と繋がっていました。帰りもまた同様に別のインスタンスエリア経由で転移して戻って来ています」



 これからはショートカットで演出を省略できるらしいが、経路的にはそういうことだよな?



「転移か。時空属性の出現が先触れで、今後そういったスキルが出てくるのかもしれないな」



 おいおい。まだ見つかってなかったのかよ、時空属性のスキル。知らなかった。あのキャラメルに興味を持たれたのはそのせいか。



「レイドを始める前に砦の情報が欲しいところだが、ユキムラ君は、またグラッツ王国へ行くことは可能なのか? 」


「時間はかかりますが、恐らく行けると思います」



 結局、村のNPCとはあのまま別れてしまったわけだし、砦の調査にも行っていない。こうして、ダカシュ側からの調査結果を聞くと、あの砦が今回のレイドと全く無関係とは思えない。



「まだ先のことだが、巨人のレイドが終ったら、グラッツ王国へ行ってきてもらうことになるかもしれない」


「そうですね。俺も中途半端なまま、こちらに戻ってしまったので、もう一度行こうとは思っています」


「そうか、では会議の続きに戻るが……」



「うぉっ! いったいどうしたポム! 」



 声のした方を振り向くと、さっきおやつをあげた赤い妖精がピカピカ点滅するように光っていた。


 これって……あれじゃないか?


 うちの子たちは、いきなりピカーンって変身したけど、本当はこういう予兆というか途中経過があるものなのかもしれない。持ち主さんに聞いてみよう。



「今まで、この子にSTRバフのおやつってあげていましたか? 」


「ああ。俺が食べるときは、だいたい一緒に食べてた。それ以外にも見ると欲しがるんで、時々与えていた。でも、オレンジの皮を剥いて食べることがほとんどで、こんな上等な菓子はあげたことがない」


「オレンジを直接ですか。でも、相当な量を食べていたのなら、そろそろ頃合いかもしれませんね」


「頃合い? なんのだ? 」


「進化です。妖精の」


「妖精って進化するのか? 」


「ええ。うちの子たちは2人とも進化済みです。他に俺のフレの妖精も、何人か進化した子がいますよ」



 妖精の進化情報は、生産職仲間には流している。確かニーズヘッグ戦の前だから、結構時間は経っていると思うが、まだそれ程広まっていないのか?



「それ、生産職の間じゃあ、旬な話題だぞ。毎日毎日、DEX上げのベリー菓子の注文がくるって、料理人のフレが悲鳴をあげている」


「知らなかった。じゃあ、ポムはあともうちょっとで進化しそうってことか? 」


「そうだと思います。あとどのくらいかは分かりませんが、もう少しバフ菓子を食べればいけるんじゃないでしょうか? 」


「そうか。ポム。もうちょっとだって。貰った菓子を食ってみろ」



 ポムって可愛い名前だな。うん? メレンゲもいい名前だぞ? 白くてふわふわっとして、美味しそうじゃないか。


 赤い妖精は、持ち主さんの勧めるまま、素直にモグモグとお菓子を食べている。



「お、きたか?」



 妖精の身体が、赤い光を放ち始めた。


 周りの注目の中、ポムちゃんは無事進化を果たした。……うちの子は、燐光が増したくらいであまり見た目は変わらなかったんだが、この子の変化は派手だな。



「ポム! なんかカッコよくなったじゃないか!」



 赤い妖精は、橙色の焔のように髪が揺らめき、顔つきも先ほどより凛々しくなったように見える。羽にも火の粉が舞うようなCGが付いたし、衣装も進化して随分と変わった。


 ビキニアーマー風の衣装は、妖精というよりプチ・アマゾネスといった風情だ。



「炎武妖精だってよ。いかしてるぜ、ポム! 神官さん、おやつありがとうな」



 持ち主も喜んでいるようでよかった。



 *



「なんだか今日は驚くことばかりだな」


「そうですね。妖精の進化については、情報としては聞き及んでいましたけど、実際に見たのはこれが初めてです」


「俺もだ。バフ料理に関しては、ああして気付かれてしまった以上、このあとユキムラ君から、差し障りのない範囲で教えてもらうしかないか。しかし、時空属性の扱いについては揉めそうだな。」


「そこはレオン、あなたが上手く仕切るしかないでしょうね。ここで誰が見ても公正な取引が行われないと、レイド自体が破綻する危険性があるし。」


「そこは、分かってる。俺が抑えるよ。しかし、今回のレイドは本当に間が悪すぎる。よりによって上級職の支援職が何人も抜けている時期にぶつかるとはな。」


「巨人に関しては、最早このまま行くしかないですね。ユキムラさんが見つかった……っていうのも変ですけど、レイドに参加できるようになって幸いでした。」


「連絡がつかない時は焦ったけどな。まさかレイドのきっかけそのものが、ユキムラくんとは思いもよらなかったが。」


「あれは想定外ですよね。手作りの属性キャラメルもそうですけど。」


「意外性の多い男だな、彼は」


「本当に。全く同感です」




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