【番外編】リュウとアヤカのクリスマス
ちょうどクリスマスなので、書いてみました。
クリスマスイブ…
年に一度の祭典
ハーモニア大学の生徒たちは一際にぎわっていた。
「大学に毎年飾られる、大きなクリスマスツリーの前でプレゼントを渡すと、ずっと一緒にいられるんだって」
そんな噂が恋に夢中な学生たちの間で囁かれていた。
自分たちよりも一歩先を行く年上の学生たちを見て、アヤカは心をときめかせているかのようだった。
その日の講義が終わり、2人は共有するシェアハウスへと歩みを進めた。辺りはすっかり暮れて、クリスマスツリーのイルミネーションが夜空を彩る色とりどりの光で満たされ始めていた。
「すごい!リュウ、見て!!」
アヤカの声が夜空に響き渡り、彼女が指さした先には、大きなクリスマスツリーと夜空に輝くイルミネーションの光。子供のようにはしゃぐ彼女を見ながら、リュウもまた、久しぶりに感じる幸せに心が温まり始めていた。
思えば任務の為の勉強や仕事ばかりで、イベントを楽しんだのは久しぶりだ。そんな事を考えながら、クリスマスツリーを見つめるアヤカに近づいた。
「アヤカ」
うっとりとクリスマスツリーを眺める彼女の手を取り、リュウはそっと昨日購入した手袋を重ねた。
「リュウ、これ」
リュウがはめた手袋は、アヤカの好きなレモンイエローの生地にピンクのリボンが添えられた、愛らしいデザインだった。
「いつも、家事ありがとう」
彼女の瞳が輝き、その頬が少し赤く染まった。笑顔になる彼女を見つめ、リュウの顔も自然とほころぶ。
「クリスマスツリーの前でプレゼントもらったから、きっとずっと一緒にいられるよね」
彼女は新しくもらった手袋を見つめ、初めて会った時から変わらない、愛らしい笑顔をうかべる。
初めてプレゼントを渡した時も、同じように喜んでくれた。あれから3年、当時リュウが贈ったブレスレットは、今でも彼女の手首で大切にされていた。
「うん、ずっと一緒にいたいから、この手袋を買ったんだよ」
そう、伝えるとアヤカの表情が少し曇った。彼女の頬は僅かに膨らみ、リュウは自分の言葉が彼女を悲しませたのではないかと戸惑った。
「えっと…」
戸惑いながら彼女の顔を見る。そして、少し顔を伏せたアヤカの周りに冷たい微風が流れている事に気付いた。
(何か、悲しませる事言ったのかな…)
うろたえるリュウ。アヤカはやがて小さく笑い、再び笑顔を浮かべた。
「リュウは、私のボディガード。だもんね」
アヤカの声が、少し寂しげに彼の耳に届いた。
(どうすれば、笑顔になってくれるんだ…?)
リュウは心の中で自問自答した。彼女の周りに流れる冷たい微風は、悲しみを表すものだ。それは、妖精であるアヤカの周りにいる水の精霊が彼女の感情に反応して起こす、特異な現象のひとつ。
――今のアヤカは、本当は笑ってない。
そう考えた瞬間、リュウの心はふと昔のことへと飛んだ。それは、アヤカと永遠の別れをするという未来の夢の事。
夢の中で彼女は悲し気に呟いていた。
「もっと、ずっと一緒にいたい」
アヤカの未来を考える度に、夢の中の言葉が頭をよぎり、彼女を失うことへの恐れが心を覆っていた。
(きっと、ずっと一緒にいられる)
そう自分に言い聞かせながら、リュウは優しくもう片方の手袋をアヤカの手にはめてあげた。
「ごめん、アヤカを笑顔にしたいんだけど、どうしたらいいかわからないんだ」
リュウなりに一生懸命考えたが、何故彼女が悲しい顔をしたのか、彼にはさっぱりわからなかった。だからいつものように素直に伝える事にした。
それは心の表現が苦手なリュウの、精一杯の言葉。
アヤカの顔を見ると、少しだけ驚いた顔をしている。彼女はしばらく新しくはめた手袋を見つめ、冷え込んできた空気の中で白い息を吐き出した。
「わ、冷たい」
アヤカが小さく呟くと、周囲は静かに雪が降り始め、夜空は幻想的な風景へと変わって行った。
彼女の細い金髪に積もる雪をリュウが優しく払いのけると、アヤカが驚いたように見つめてきた。イルミネーションの光に照らされ、キラキラと輝くライトブルーの瞳。その眼差しに触れた瞬間、リュウの手は一瞬止まった。
(あ、あれ…?)
だんだんと自身の顔が熱を帯びてくるのを感じる。彼女の髪に少し触れた手を硬直させたまま、自身の鼓動が早くなっているのに気づき彼は戸惑った。
だんだんと直視することができなくなって、気まずそうに視線を逸らすと、アヤカが手袋をはめた手でリュウの手を包んだ。
「リュウの手、冷たくなってるね」
プレゼントした手袋をした両手で包まれた右手から、彼女の体温が伝わってくる。
(心臓の音がうるさい)
少しだけアヤカの方へ目をやると、彼女は幸せそうに微笑んでいた。
「素敵なプレゼント、ありがとう」
いつものように彼女の顔を直視することができなかった。顔を伏せたまま小さく頷くと、アヤカがリュウの手を引いた。
「帰ろう。今日はごちそう作ったんだ」
手を引かれた瞬間、自分の胸が一際大きく鼓動した。その感覚に戸惑い、顔を隠しながら、リュウはアヤカと共にシェアハウスへと歩いていく。
夜の空は静かに雪を降らせ続け、二人の歩みを優しく照らしていた。
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