表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年ボディガードと妖精姫   作者: てぃえむ
海外特待生編 【地下研究所突撃ミッション】
62/77

厳重セキュリティエリアとマザーシステム


 氷の柱の中に静かに囚われた澤谷の姿を凝視するアヤカ。彼の凍てついた姿を心に焼き付けると、優しく目を閉じた。そしてゆっくりと仲間たちの方へと顔を向け、静かな微笑を浮かべる。


「リュウ、ダイスケ、カレンちゃん、ありがとう」


 微笑む彼女の周りを冷たい風がが包んだ。それは彼女の悲しい気持ちに反応した水の精霊が起こすものと、リュウとダイスケは察する。その姿を見つめていたダイスケは、リュウの背を叩いた。


「?」


 強く叩かれ、一瞬戸惑ったリュウの耳元で、彼の低い声が響いた。


「傍にいてやれよ」


 困惑したリュウにそれだけ言うと、ダイスケは白衣を纏った中年の男、イサム博士の方へと足を進めた。





「おい」


 ダイスケの黒い瞳が科学者の男・イサムを見つめた。


「お前、生きて帰れると思うなよ」


 銃口を指差すと、イサムは表情を変えず、ただ氷の柱の中の澤谷の方へ視線を移した。




「君は、なぜ彼が死んだと思う?」


 ダイスケは沈黙を守りながら、イサムに冷徹な視線を送り続けた。


「命は貴重。だが、この世界は残酷だ。強さを持ちながらも、心の弱さがあれば無力になる」


「お前が、アヤカの親父をあんな姿にしたんだろ!?」


「もっと世界を広く見ろ、少年。何故、努力が報われないと思う?何故、評価されるべきものが評価されず、その成果を奪われる構図が出来上がっていると思う?」


 虚ろな表情に、少しかすれた声。無機質で、光を灯さない黒い瞳が向けられ、その不気味さにダイスケは一瞬圧倒された。


「世の中と科学の世界を知れ。そして人という生き物の醜さを知れ。無垢である事は、それだけで科学的進歩の阻害だ」




「いいえ、違います」




 ダイスケの前にナオキが立ち、彼を庇うように前に立った。


「イサム博士、無垢である事は、無限の可能性を持つことを意味します。そして、彼らには未来がある。どんな色に染まるか、どんな大人になるか。私たちは彼らの意見を尊重し、サポートしていくべきではないでしょうか?」


「またお前か」


 イサムは軽く息をつくと、ナオキの方へ向き直る。


 


「そこにいるカレンは、私の実験成功者であり、CRISPR技術により開発された黒い石の力に適合し、我が組織の為に動いていた忠実なる傭兵だ。君はそのカレンも同じように助け、道を示す。そう言う事か?」


 イサムの言葉に空気がひとしずく凍りつくような静けさが広がり、カレンの瞳が、ほんの一瞬だけ細められたように見えた。


「ええ、その通りです。彼女がダイスケ君の助けになると決めたのであれば、理解し、サポートするのは僕の役目だ」


 きっぱりとそう言われ、一瞬イサムは言葉を失った。




「………」


 その言葉に何も言えずに立ち尽くすカレン。ダイスケはその横に立ち彼女に笑いかけた。


「ナオキに任せとけって。あいつは俺たちの保護者なんだ」


 カレンはダイスケの言葉を聞き、そして目の前のイサムとナオキの議論を興味深く聞き入った。そして2人の方へ視線を向けていると、こちらを向いたナオキと目が合う。


「カレンさん、質問があります。その黒い石…適合した後副反応のようなものはありましたか?」


 彼は変わらず穏やかで優し気な表情を浮かべている。それはダイスケ達に向ける時も、敵であるイサムに向けられる時も変わらなかった。


(ここまで動じないと、ある意味恐ろしく映るわね)


 穏やかな表情から発せられる鋭い指摘、それに相反するような優し気な口調。カレンの目の前に映る若い科学者は、年齢にそぐわない静かな威厳を放っているようにも映った。


「いいえ、適合後は特別な事は何もなく、定期的な体調のチェックだけ受けていたわ」


 そんなナオキの質問にカレンは慎重に、かつ的確に回答した。


「それを聞いて安心しました。これからは僕が君の保護者になるのですから、しっかりケアさせてくださいね」


「保護者…」


 意表を突かれ、思わず口からこぼれた言葉。それを聞いたダイスケが小さく笑った事に気付き、カレンはナオキの言葉に裏表がない事を理解し、そして先程の自身の考えを修正した。


(深く思索しているかと思えば、何も考えていないようにも見える…不思議な人だわ)


 そんな彼女に笑顔を向け、ナオキはイサムの方へ向き直る。





「イサム博士、これから我々は人体実験エリアに向かいます。ご同行願えますね?」


 懐から銃を取り出し、突きつけると、イサムは少し沈黙した。その言葉への返答はなかったが、行動がすべてを物語っていた。彼は黙ったまま、一般研究エリアの深くにある扉の方向へと足を進めた。





 広い一般研究エリアの奥の扉を開くと、すぐに3方向にわかれた廊下が広がった。



「人体実験エリアはまっすぐだったね」


 地図を確認しながらのリュウの言葉にナオキが頷くと、足を止めていたイサムが再び歩き出す。




 無機質な廊下に6人の足音だけが静かに響いていた。




「カレン、君はかつて私の研究、私の目指す未来に賛同していたはずだ」


 カレンはすぐには返答しなかった。しかし、確かな決意を込めて、イサム博士の目を真っ直ぐに見つめた。


「私は、あなたの作る未来と新人類のプロジェクトに賛同していました。今もそれは変わりません。でも…」


 一瞬の沈黙。


「今は新しい主…彼を、ダイスケを信じたい」




 カレンの言葉に断固とした意志を感じ、イサムは一瞬目を逸らした。その後、その深い黒い瞳はダイスケの姿に絞り込まれる。


「な、何だよ」


 ダイスケは彼の不可解な注視に戸惑い、イサムはしばし黙然とした後、静かに声を発した。




「小僧、カレンに勝利したな…その力をどこで手に入れた」




 ダイスケは彼の様子を見て、先程から周囲に一切の興味関心を示そうとしなかった男からの質問に少しだけ驚いていた。


(幽霊みたいなおっさんかと思ったけど、一応周りに興味は示すんだな)


 心の中でそんなことを考えながら、イサムに聞こえるように少しだけ笑った。


「さあな!でも俺はリュウみたいに特別の力なんてない、普通の人間だ」


 その答えにイサムは何も言わず、ただ前を向き歩き始めた。その後、ひとしきり考えるような呟きを漏らす。




「驚異的な集中力……無尽蔵の意志……エネルギーを受け止める強靭な肉体……」


 考え込むように頭を下げ、しばらくして頭を振り、そして少し肩を落とした。


(変わり者だな、このおっさん)


 彼の独り言に内心で苦笑しつつ前に進んでいると、6畳ほどの小さな部屋に辿り着いた。そこにはモニターパネル、奥の壁の中心には扉が配置されている。




「ここが厳重セキュリティエリアのエントランスだね」


 地図を手にしたリュウがそう言い、皆の視線は中央に位置する無機質な扉に注がれる。その扉は強固なガラス製になっており、中が見渡せるようになっていた。部屋の中は広めの廊下。その奥には出口と思われる扉が配置されている。





「イサム博士、セキュリティの解除をお願いします」


 ナオキが要請すると、イサムは言われるがままキーボードを操作し始める。


(あまりにも素直にこちらの要求を受けすぎだ…何か裏がありそうですね)


 ナオキは内心、疑念を感じながら博士の動きを注意深く監視した。


(コードも問題ない。しかし彼は天才と呼ばれた科学者。油断は禁物です)


 数瞬後、重々しく扉が開く。部屋の中はLEDライトが冷たく照らす中、静寂が広がっていた。




「イサム博士、あなたが先に入ってください」


 ナオキに銃を突き付けられたまま、イサムは黙ってセキュリティエリアに足を踏み入れる。


「ナオキ、俺が前に」


 リュウが前に出ようとするが、ナオキの手がそれを制した。


「先日説明した通り、ここはこの研究所内で最も危険なエリアです。リュウ君、君はチームの要だ。こういう状況での先頭は戦闘能力のない僕が適任です」


「……」


「いい子ですね、ここは大人の僕に任せて、待っていてください。ダイスケ君を頼みますよ」


 そう言うと微笑みながら、イサムの横に立ち、危険な区域への道を歩き始める。




「リュウ…」


 アヤカの心配そうな声が聞こえる中、リュウは彼女の手を握りながら、自身にも言い聞かせるように声を絞り出した。


「大丈夫だ、ナオキに任せよう」


 その言葉に頷くと、アヤカもまた、イサムと共に歩いていくナオキの背中を見守った。




 セキュリティエリアの中心に近づいたところで、イサムの動きがふと止まる。




「1220720 マザー、出現しろ」


 英語で紡ぎ出される数字にマザーという言葉。そのつぶやきに違和感を感じた瞬間、目の前に小さな子供のホログラムが映し出される。




「子供…?」


 ナオキは目の前に現れた子供に一瞬目を奪われたが、すぐに気を取り直しイサムの背中に突きつけた銃を握る手に力を込めた。


「これは何ですか?」


「このセキュリティエリア内を管理している、マザーシステムだ」


 そう言った直後イサムがナオキの方へ向き、鋭い視線を向けた。




「かかったな、若造。貴様はここで息絶えろ」




 その言葉と共に厳重セキュリティエリアの入り口の扉が閉まり、室内は密室となった。


「ナオキ!」


 ダイスケの声が響き、扉を蹴り飛ばす音が響いた。その様子を見ているイサムは、ドアの向こうへ視線を向けたまま小さく呟く。


「無駄だ、ここのセキュリティは最先端のものを採用している。無理に破壊しようものなら、セキュリティが発動し、この部屋ごと吹き飛ぶだろう」





 扉の外、ダイスケの足元には、蹴り飛ばした痕が残っていたが、彼の前にはカレンが冷静に立ちはだかっていた。


「落ち着いて、ダイスケ。ここのセキュリティを無理に破壊すれば、エリア内のマザーが緊急事態を認識してしまう。そうなったらイサム博士もナオキもただではすまないわ」


 その言葉に押し黙ったダイスケは扉の奥のナオキの背中を見つめた。



「カレン、あのホログラムの子供は何なんだ?」


 ダイスケの言葉にカレンは少しだけ目を細めた。


「この施設を統括するマザーシステムの中心。イサム博士の指示だけを受け付ける最高機密の存在よ。彼がそれを呼び寄せたということは...」


 そう言い終えるとカレンはダイスケの方へ視線を向けた。彼女の中では厳重セキュリティエリア内に取り残されたナオキの運命は絶望的に映し出されていたからだ。

 しかしダイスケは、ただ静かに扉の奥に見えるナオキの背中を見つめている。やがてカレンの視線に気づき、いつもの笑顔を向けた。




「俺は心配してないぞ、ナオキはああ見えて、諦めが悪い奴なんだ」




 力強くそう語るダイスケを見て、カレンもまた、扉の奥のナオキとイサムの方へ視線を向けた。


(施設の厳重なセキュリティに、多くのレーザーとトラップ。それを管理するマザーをイサム博士は呼んだ。ナオキがこの状況から逃れられるとは、考えにくいわ)


 イサムを主とし、従ってきたカレンにはナオキが生き残る術が皆無に等しいと映っていた。


(でも、セキュリティの核であるマザーを人前に晒すなんて、今までのイサム博士はとらなかった行動…それだけ追い詰められているという事かしら)





 厳重セキュリティエリア内に閉じ込められたナオキ、そしてイサム。室内は圧倒的な緊張が空間を支配していた。


「マザーと呼ぶには不相応の姿ですが…この少年のモデルは誰ですか?」


 ナオキの淡々とした問いに、イサムはじっと沈黙を保った。


「お話ぐらいさせて頂けませんかね。それとも、天才であるあなたにも怖いものがあるのでしょうか?」


 その言葉に一瞬遅れて反応するように、イサムは口を開く。


「このセキュリティ内では、施設の管理者である私の命令が絶対だ。マザーシステムが貴様を侵入者と判断すれば、レーザーシステムによって一瞬で塵とされるだろう」




 その言葉にナオキは驚いた様子も見せず、深く感心したように顎に手を当て微笑んだ。


「なるほど最先端のシステムですか…それは興味深い」




 そう言うと自身の懐から小さなケースを出し、その中から液体が入った注射器を持ち上げた。その先端を自らの手首に差し込むと、内容物を注入する。


「何だ、それは」


「お守り、といったところでしょうか」


 ナオキはそう言って微笑を浮かべると、注射器を投げ捨て、あたりを見回す。




 無機質な壁。広めの廊下のような空間。入り口から出口まではおよそ10メートル程で、イサムとナオキの間に立つマザーシステムと呼ばれる子供は微動だにせず前を向いたまま沈黙している。


(イサム博士の命令を待機している状態のようですね…しかしホログラムまで子供の姿とは)





「イサム博士、先程の一般研究エリアで、僕はこの資料を見つけました」


 ナオキは先程拾った資料をイサムに見せた。


「"A kid use Project"… この表現は文字通り「子供を使う」と訳せますが、文脈上、どこか不自然ですね。隠された意図でもあるのでしょうか?」


 イサムの瞳は深く、じっとナオキを窺うようになった。


「このプロジェクトは私たちの未来に大きな脅威を持つものです。あなたの過去の研究とは大きく異なるものと思われますが…」


 その言葉にイサムは3年前を思い出した。彼・ナオキは自分の書いた論文もよく見ていると言っていた。一科学者としての把握なのか、それともどこかで会った事があるのか。


 目の前に映るのは、長い茶髪を後ろに束ね、優しげな薄茶色の瞳を持つ、20代あたりの男。


(どこかで見たか…?)


一瞬考え込んだが、やがて仕切りなおすように視線を落とし再び話し始めた。




「結果が全てを正当化する。それが我々科学者の道だ」


「科学者は知識を追求する者だ。しかし、それは人間性を放棄するライセンスではない。人間の尊厳を保つこともまた、我々科学者の重要な使命ではないのですか?」


 ナオキの言葉を聞き、イサムはため息をついた。


「甘い理想を抱いていては、時代の流れから取り残されるだけだ。若造」







 ナオキの強靭な意志が感じられる視線に、イサムもまた、その無機質な黒い瞳を返す。そして何かを考え込んだように口元を揺らした後、低い声で呟き始めた。


「貴様はそこそこ頭が働くようだ。若く才能のある科学者を失う事は惜しいが…我々の計画の邪魔をするのであれば、排除する他ない」


 彼の視線は、マザーシステムの方向へ向けられた。




「112800 マザーよ、侵入者を排除せよ」




 再び英語で紡ぎ出された数字と、指令。微動だにせず正面を見ていたマザーはその言葉と共にイサム博士の方へぐるりと首を向けた。


「コード確認完了。発言者がイサム博士であることを認識しました。命令を遂行します」



 マザーはその言葉と共にナオキの方を見た。その瞳はナオキの瞳を真っすぐ捕らえ、彼の青く煌めく瞳が一瞬電子的な光を帯びていく。


 エリア内に配置されたレーザーシステムにエネルギーが集まり始めた。




「………」




「どうした、マザー」


 レーザーシステムが動きを止めた。イサムがマザーに視線を向けると、黙ったままナオキの方を見つめている。


「管理者である私の命令だ。もう一度言う、127840マザー、侵入者を抹殺しろ」


 まるでフリーズしたかのように動きを止めたマザーの様子にイサムは微かに顔を歪めた。




「ここは網膜・虹彩認証システムの特許を取得した、研究施設。そうですね、イサム博士」




 ナオキの言葉にイサムが彼の方へ向くと、彼は穏やかに微笑んだまま言葉を続けた。


「先程僕が打ち込んだのは、CRISPR-Cas9ベクター…イサム博士、あなたのDNAの一部です」


「何…?」


 イサムがナオキの瞳を見ると、彼の瞳が薄茶色から黒い瞳に変化していた。ナオキはフリーズしたままのマザーを見て、口調、声色の識別はされていないことを確認すると、再び目の前のイサムに目を向けた。


「僕は細胞生物学を研究しながら、ゲノム編集を用いてのクローニングについての理解も深めてきました。この研究施設が網膜・虹彩により個人を判定するのであれば、あなたと同じ瞳であれば、マザーは僕をイサムと誤認するでしょう」




「つまり、マザーは私が2人いると誤認し、フリーズしているという事か」




 ナオキが肯定するように微笑み、それに対しイサムは左手を顎に当て、一瞬感心したような表情を浮かべる。


「ゲノム編集技術をここまで使いこなすとは…貴様は何者だ」


「僕はイサムです。この地下研究室の責任者であり、A kid use Projectの総責任者だ」


 ナオキの言葉にイサムは眉を顰めた。


(この男、本気で私になりすますつもりか)




 マザーは膨大なデータをもとに、目の前の2人のイサムのどちらが侵入者なのかの模索を続けているようだった。


「最新のシステムを導入したが…それを逆手にとるとはな。だが、貴様本気で私に成りすますことが出来ると思っているのか?」


 動かないでいるマザーに視線を注ぎながら、深く考え込むイサム。対してナオキは微笑んだまま、イサムとマザーの動向を見守った。沈黙を破ったのは、マザーだった。




「イサム博士はこの世に1人。現在の状態を異常事態と判断し、これより特例処置に移ります」


 特例。その言葉にイサムもナオキもマザーの方へ視線を移す。


「これより30分をタイムリミットとし、どちらがイサム博士かの判別を開始します」




 マザーの無機質な声が響き渡り、2人の間に緊張が走った。




(まだ開発段階中のものでしたが、万が一の為に持ってきて、正解でしたかね…)


 ナオキは自身の左腕を抑えながら、マザーとイサムの方へ視線を向けた。


(このマザーは高度な分析機能を持ったホログラフィックインターフェース…イサム博士は直接語り掛けていましたが、恐らく本体は別の場所…破壊は難しい)


 先程の会話やイサムの行動を記憶の中で巡らせながら、ナオキはマザー存在の謎を解き明かそうとした。


(恐らくマザーは管理者であるイサム博士の命令通りに動くようになっている…ただし、あの数字の意味が理解できないと、イサム博士と誤認していても僕の命令は聞かない…それどころか、数字に間違えがあれば偽物と判断され一瞬で抹殺されると考えるべきだ)


 静かにイサムの動きを見ながら、どうするべきかを模索した。


(この厳重セキュリティエリアには、随所にレーザーセンサーが仕掛けられている。つまり生き残るには30分間AIであるマザーを騙し続けなければいけない)




 自身の後ろの扉の奥にいるリュウやダイスケ、アヤカ、そしてカレン。

 4人は先程まで一般研究エリアで激戦を繰り返していた。そしてこの先には目標である人体実験エリア。もしかしたら、これまで以上の戦闘が控えているかもしれない。


 軽く目を細めながら、再びイサムの方へと意識を戻した。


「マザー、30分と言いましたね。では時間内に偽物が特定できなかった場合はどうなるのですか?」


 マザーのホログラムは一瞬の沈黙の後、無機質な声で答えた。




「30分で本物のイサム博士を特定できなければ、両者を脅威とみなし、施設のセキュリティプロトコルに従い、両者を排除します」




 ナオキの目が一瞬大きくなったが、すぐに冷静さを取り戻し、深く考え込んだ。イサムもまた、自分の制御下にあるはずのマザーの答えに一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。


「なるほど、では生き残るには本物のイサム博士である事をマザーに証明するしかないようですね」


「所詮偽物は偽物。マザーが貴様を偽物と判断すれば、この部屋のセキュリティにより、一瞬で塵となるだろう」


 両者の目が絡み合い、緊張が高まる。イサムの言葉にナオキは表情を変えずに答えた。


「そっくりそのままお返ししますよ、証明してみせましょう。僕が本物のイサムだと」


「面白い、マザーの前で暴いてやろう。貴様が偽物だと」




「では、イサム博士の判別の為、彼の過去のデータを反映した議論を展開していただきます」




 マザーのホログラムによる無機質な声が響き渡り、2人の間の空気を一層濃くした。



 青い瞳が煌めき、AIが口を動かし始める。


 2人の科学者による舌戦が静かに始まろうとしていた。





次回は書きたかった舌戦開幕です。


●イサム博士の外見補足

無機質な黒い瞳、白髪混じりのダークブラウンの髪

丸メガネをかけており、猫背でやせこけた顔、身長165センチくらい

着用しているスーツは黒で、全体的に使い古したかんじ。上には白衣を纏っている。

50歳前後


●ナオキの外見補足

長めの茶髪を後ろに束ね、薄茶色の瞳

常に穏やかな表情をしている

身長175センチ 細身でスラリとした体形

全体的にモノトーンの服装に、一部ストライプ等ワンポイントが入ったようなスマートカジュアルを好む。

28歳


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ