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少年ボディガードと妖精姫   作者: てぃえむ
海外特待生編 【地下研究所突撃ミッション】
58/77

魂の銃撃戦



 リュウとアヤカは澤谷と。

 ダイスケはカレンと。


 それぞれ一対一の対立を繰り広げる中、ナオキは研究施設の全体を見渡し、ここで行われていた実験の核心に迫るための手がかりを探していた。当時の最新鋭の機器に、実験体の子供達。そして、彼の視線は足元に落ちていた一枚の書類に引きつけられる。


 「A kid use Project」


 と印刷されたその見出しは、そのまま読むと「子供を使う」という意味になる。その文書には、実験に関与したと思われる子供たちの名前と、プロフィールが詳細に記載されていた。


(子供を利用した実験…これほど冷酷な科学実験は気が滅入りますね…)


 苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら、その書類をすばやく拾い上げ、ポケットにしまい込んだ。






「リュウ君、君が…そこまでアヤカを守ろうとする理由は何だね」


 澤谷は自身の後ろで不規則に揺れる子供の非適合者たちの前に立ち、リュウへと語り掛ける。


「俺にとって、アヤカは大切な人だから…」


 リュウの真っすぐな言葉に、澤谷は少し沈黙した。


「アヤカが妖精でもか?」

「関係ありません」


 リュウが即答で答える。


「世界を敵にしてもか?」

「はい」


 更なる問いかけにも迷いのないその言葉に、澤谷の口からため息が漏れる。


「君が、人ではなくなっても…かね?」


 リュウは一瞬だけ肩にいるソフィーの方を見た後澤谷に言った。


「俺の意志は、変わりません」





「おい、リュウ」


 一般研究エリア内にダイスケの声が響く。


「悪いけど下がっててくれないか?」


 彼らは互いの銃口を見つめながら静かに立ち向かっていた。空気は緊張で凍りつき、息をのむような緊迫感に満ち溢れる。

 それを見たリュウはアヤカとナオキの方を見た後、澤谷の方へ視線を戻す。沈黙を破ったのは、澤谷だった。


「いいだろう…彼らの勝負がつくまで待とうじゃないか」


 澤谷が左手を上げると、子供の非適合者達が一斉にカレンの方を向いた。




 ダイスケとカレン。


 お互いの指はトリガーにかかり、視線がお互いに照らす光のように交差していた。

 深い黒い瞳はダークブラウンの髪の間から覗き、目の前の彼女の緑色の瞳を釘付けにした。彼女もまた、黙って視線を返し続けた。

 ダイスケの右手には相棒のハンドガンが握られ、カレンの右手には彼女の力…「エネルギーの増加と形状変化」の力による自身のエネルギーで作りだされた光の銃が握られている。


 突如、カレンの右指が微動だった。

 それが合図のように、突然発砲の音が響き渡る。二人の銃がほぼ同時に弾丸を放ち、強烈な銃撃音が響き渡った。


 弾丸が空気を裂き、閃光が舞い上がり、二人は同時に足を踏み出し、動き始めた。


 カレンの銃から光の弾丸が乱射され、その音が響くと共に身をかがめるとダークブラウンの髪を弾丸がかすめ、壁に当たり光となり弾けた。身を屈めたままダイスケは一気に立ち上がり、銃を振り上げた。再び銃声が響き、カレンの足元を狙った弾丸が飛び出した。


 室内に銃声が響き渡り、カレンの足をかすめた。

 カレンも打ち返し、それはダイスケの左腕をかすめる。



 実験器具の後ろに身を隠し、一息ついた後互いに様子を伺った。



 互いの身をひそめる場所の間には実験用ベッドと医療道具が乗ったキャートが一つ。

 障害物を確認し、ダイスケは銃口を撫でながら一息つき、カレンは銃にエネルギーを溜め、次の一手を待った。


 静寂が流れ、お互いの存在を探り始める。ダイスケとカレンの額には汗が滲みはじめた。




 カレンが最初に動いた。

 ダイスケが隠れているデスクに向けて光の銃を向けた。彼女の銃は大きなエネルギーを発し、銃口に光が集まっていく。


「なんだ、あれ…」


 ダイスケは瞬間的に身を投げ出し、一発の弾丸を撃ち放った。

 その弾丸はカレンの銃を狙ったものだったが、彼女もまた同時に引き金を引いた。


 カレンの銃から放たれた弾丸は巨大なエネルギー弾に変化し、弾丸を吸収しそのままダイスケに襲い掛かった。

 身を低くして避けたが、エネルギー弾は後ろの実験器具に命中し、派手な爆発音を響かせながら粉々に砕け散った。


「すごいな、それ」


 苦笑しながら彼女の銃を見つめ、思わず言葉が漏れた。


「これが妖精の力…分ったでしょう、あなたは私には勝てない」


 彼女の言葉に少し目を細めた後、ダイスケは笑顔のまま言う。


「それは、どうかな」


 彼は再び銃口をカレンに向けたが、内心では焦りを感じていた。3年前、リュウとシオンが対峙していた時に見た力が今、自分に向けられている。その未知の力に彼は小さな恐怖を覚えた。


 カレンが銃に再びエネルギーを集め始めると、光の銃は再び輝き始めた。


(あんなの何回も打たれたら、たまんないな…)


 ハンドガンを持つ手に力を込め、彼女の動きを見る。

 彼女の銃がエネルギーを集め、再び砲弾の準備を始めた。


「これで最後よ…」


 カレンが再度渾身のエネルギーを込め、銃口に集まった砲弾が3つに分裂した。


「いやいや、まじかよ」


 冷汗が流れ、彼女の銃口に集まるエネルギーに一瞬呆気にとられながら自身の相棒に目をやった。


 さっきの廊下でリュウとアヤカの2人の力を借りてやっと完成した破壊力の弾丸と同等のものを、彼女はいとも簡単に乱発してみせた。

 自身を落ち着けるように愛用のハンドガンを軽く撫で、眼前に集結していく三つの蓄積エネルギーをひたすらに見つめ、深く息を吐き出した。


 カレンの銃からエネルギーの砲弾が発射される。それは3つ同時に放たれ、3方向からダイスケに一斉に襲い掛かった。


 左からの弾丸をバックフリップでかわし地に付いた手が離れたところで右からの砲弾が地面を粉々に打ち砕いた。衝撃で軽く飛ばされる。

 なんとかこらえたところで正面からの砲弾が襲ってきた。


 かまわず前に進んだ。


 身を引きながら、回避を試みるが砲弾がダイスケの左肩に直撃し大きな傷が開いた。


(まずい…)


 左腕が不自由になり、鈍痛が腕から脳へと響き渡った。苦痛に顔を歪めながらカレンの方へ目をやると、彼女の手から銃が消え、長い光の螺旋に姿を変える。


 一瞬で間合いを詰めてきたカレンがそれを振り下ろす。

 咄嗟に身をひねり避けると、風に乗った鞭の音がダイスケの耳元に響き、空中に生じた爆音のような破裂音が響き渡った。


「武器を自在に変えられるのか…?」


 鞭はしなりを利用して鮮やかにひるがえされ、そのまま素早く振り回される。

 そのまま連続的な打撃としてダイスケの上空に繰り出された。


 傷ついた左手と、目前で繰り広げられる全方位からの攻撃。状況は痛ましくも絶望的だった。


 一瞬、狙撃のミッションの時の事がダイスケの脳裏によぎる。

 全てが静寂に包まれ、目標を探すそのとき...聴覚を極限まで研ぎ澄まし、風が自身の肌を撫でる感覚だけが永遠の時を紡ぎだす、あの感覚。


 鞭が風を切る音があたりに響く。耳を傾けると、その不規則な動きから放たれる風の音が彼の本能――五感を刺激していった。

 目を閉じ、耳を澄ました。



 ヒュッ



 風を切り裂くような音が響き、目を開くと、繰り出される鞭の打撃の僅かな隙間を見つけそこにまっすぐ突進した。


「――――!!」


 打撃の間を潜り接近してきたダイスケにカレンの表情が一瞬、驚きに揺れた。彼の右手から繰り出された一撃が彼女の左手首に命中し、鞭が手から離れ、光を放つようにして消えた。


 カレンに一瞬の隙ができる

 そのまま一気に銃を突きつけ…ダイスケの指がトリガーの前で揺れた。



 ――その一瞬、目が合った。

 黒い瞳がカレンを見つめている。その憐れみを含んだような瞳に彼女の緑色の瞳が怒りに震えた。



「人の事を気にしている場合かしら!?」



 カレンの腕が銃を持つ手を掴んだ。そのまま体重をかけると一瞬ダイスケの体が傾き、キックの為に左足が上がるが、それはカレンの脇腹を捕らえる直前で止まった。


 怒りと困惑がカレンの心の中を襲った。

 手刀を繰り出し手首を狙って振り落とした瞬間、ダイスケの手の指に力が入り銃弾が一発放たれ、乾いた音が部屋中に響く。


 銃を持つ手の力が緩んだのを見逃さず、カレンはすかさず銃を奪い取った。


「…ってぇ」


 ダイスケの顔が痛みでゆがむ中、銃口が彼に向けられた。

 一瞬の沈黙が走り、ダイスケの左腕から滴り落ちる血の滴の音だけがあたりに響いた。


「勝負ありかしら?」


 少し息切れしながら、カレンがそう伝えるとダイスケは一瞬顔をしかめたが、すぐ口元が笑みに変わった。


「どうかな」


 ダイスケの瞳にはカレンの後ろの子供の非適合者たちが映る。彼らはまるで見守るように、彼女をじっと見つめていた。


「あいつら、なんで君を見てるんだ?」

「質問に答えるのはあなたが勝ってからのはずよ」


 カレンは奪い取った銃を彼の右肩に当て、引き金を引いた。








 カチっ



 銃は乾いた音を奏で、その響きが静寂を裂いた。

 カレンの表情に一瞬の困惑が浮かび、ダイスケがその隙をついて一気に接近してくる。


 血に塗れた左手がカレンの銃を持った手に触れ、そのまま彼の拳が振り上がった。咄嗟にカレンも彼の腕を掴み、一呼吸。吐くと共に振り上げた手でダイスケの体が一瞬上空に反る形で振りあがった。

 彼女の呼吸に合わせた独特の動きに一瞬驚いたが、そのまま彼女の左肩を掴み、自身の全体重を乗せた。


 その瞬間、カレンの足元が払われ彼女の身体が無重力状態になった。


 彼女の眼鏡が外れ、乾いた音を鳴らし落ちると同時に、カレンの背中が激しく打ち付けられる。そして――見上げたカレンの瞳にダイスケが拳を振りかぶる姿が目に映った。



 ガッ



 拳はカレンの耳元の床で鈍い音を鳴らし、打ち下ろされた。

 反対の腕を押さえつけられ覆いかぶさられた状態で身動きが取れなくなり、カレンは呆然とダイスケの顔を見つめる事しかできなかった。



「俺の勝ち、だな」



 息を切らしながら笑みを零す彼の瞳は優しいまなざしをしており、その瞳に彼女の瞳が一瞬揺らいだ。


「どうして…」


 震える声で問いただした。


「どうして、撃たなかったの?」


 鞭を避け、接近してきたとき、銃を撃たなかったこと。途中で左足のキックを躊躇した事。あれがなければもっと早く勝負がついていた。


「なんでだろうな…また一緒に弁当食いたいからかな…今度はリュウも一緒にさ」


 困ったような笑みを浮かべられ、カレンは諦めたように目を閉じた。


「私の…負けよ」


 起き上がり、ダイスケはカレンに手を差し伸べる。

 その笑顔は以前屋上で共に時間を過ごした時の子どものような笑顔だった。


「質問に答えるわ…そこにいる子たちは人体実験の非適合者…そして、私はその子たちの中の唯一の実験成功者」


 カレンは諦めたように息をつき、少し間を置いて、言葉を続けた。


「昔、リュウもいた…組織”影縫い”で親に売られて戦闘員として育てられた子たちよ」


 その言葉にリュウが一瞬驚きの顔を向ける。


「影縫いの…!?」


 驚くリュウに少し目をやった後、カレンは言葉を続けた。


「リュウが組織を抜けた1年後…私たちは今の組織…アルケミスタに引き渡された。黒い石の本格的な研究の為…被験者として売られたの」


「じゃあ、リュウは…組織を抜けてなかったらここの子ども達の一人になってたって事か?」


 ダイスケの言葉に、カレンは頷いた。


「そういう事になるわね」


 カレンは自分を見つめる子供の非適合者たちを見て、その苦悩に揺らぐ瞳に体を震わせた。


「私は、彼らの中で唯一生き残った…友人も、戦友も、共に生き残ろうと約束した人も…皆死んだ」


 彼女の緑の瞳が潤み、大きな涙がこぼれた。


「だから、私は強くなければいけない。彼らの為にも…」


 彼女の悲痛な声が研究室内に響く。その心の叫びがダイスケの胸に突き刺さり、彼自身も無意識のうちに表情を歪めていた。


「弱い者は淘汰されるだけ…私は淘汰されるわけにはいかないの!」


 カレンの声が響き渡った。ダイスケはそのまま無言で彼女を見つめた後、再度手を差し伸べる。


「だから、俺やアヤカや…リュウも突き放してたのか?」


 黙ったままのカレンに、ダイスケは笑顔を浮かべた。


「なら、大丈夫だ。俺は少なくとも弱くない…そうだろ?」


 その言葉に、カレンは首をひくりと上げた。


「…え?」


 目の前には子供のような笑顔を浮かべたダイスケが手を差し伸べている。


「俺はいなくなったりしないから、安心しろよ…カレン」


 彼女の緑の瞳からは再び涙が溢れ、大粒の涙が頬を伝い落ちた。しばらくの沈黙の後、カレンは頷き、ダイスケの手を握った


 眼鏡を外し、涙を拭うとダイスケに少しでも笑顔を浮かべようとした。

 その表情は何かに解放されたような、年相応の少女の笑顔に見えた。



ずっと書きたかった銃撃戦。難しかったです…



戦闘スタイル補足


ダイスケ…キックボクシングベースの格闘技からの距離を取っての銃撃戦がメインですが今回は蹴り使用してません。

カレン…妖精の力のエネルギーの増大と形状変化による状況に応じた武器での攻撃。接近戦はシステマ。出たのはほんの少しですが…


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