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少年ボディガードと妖精姫   作者: てぃえむ
海外特待生編 【地下研究所突撃ミッション】
55/77

地下研究所・突撃ミッション開始


 ナオキはその小型ノートパソコンを手に取り、眼鏡を外すと、微かに響く足音と共に科学室の扉を閉めた。


 大学の時計は、静寂に包まれたハーモニア大学の天空が星々によって縫われていく19時を告げていた。



 図書館に行くと3つの影が彼を待っていた。

 彼らの顔に浮かんでいる明るい笑顔を見て、ナオキは少しほっとして視線をアヤカに移すと、彼女は静かに感謝の意を込めて、その透き通った青い瞳で彼を見つめた。



「皆さん準備は良いですか?」


 ナオキが声をかけると、リュウ、ダイスケ、そしてアヤカの三人は頷いた。




「では、おさらいですが…今回攻略するのは人体実験エリアに到着するまでの3エリア。


君たちが今まで調査していた【受付】

その先の【一般実験エリア】

…そして、その先の【厳重セキュリティエリア】


【受付】の、リュウ君が見つけてくれた奥の部屋に続く扉のセキュリティの解除は僕が行います。

ここは強行突破で行きましょう。僕が扉を開くまでの援護をお願いします」




 それを聞きダイスケが一歩前に出て狙撃銃をナオキに手渡す。


「ナオキ、これ預かっててくれるか?」


 ケースに入った狙撃銃を受け取ったナオキが頷くと、ダイスケはハンドガンを手に握りしめ、リュウとともに進行方向へと顔を向けた。

今回彼は重量のある相棒ー狙撃銃を持たずリュウと前線に立つようだ。



 ナオキは自身の懐に拳銃をしまった。彼は戦う事は出来ないが、厳重セキュリティエリアのセキュリティ解除の為今回同行することになった。

彼の手元にある銃は最低限の防衛手段だ。


「アヤカ、俺の傍を離れないで」


「うん」


 アヤカの返事を聞いた後リュウが扉を開くと、4人は緊張に包まれそのまま下へと降りていく。




 【受付】エリアに辿り着くと、すぐに目の前に現れたのは、異形の存在たちだった。


 この研究所の人体実験の非適合者として成れの果ての姿となった彼らの存在は周囲に薄気味悪い雰囲気を醸し出し、初めてその姿を目の当たりにするナオキは一瞬興味深そうにその光景を眺めると、視線を奥の出口へと移した。


「あれが出口ですか…」


 アヤカがナオキの前に出て、「盾」を準備する一方、リュウとダイスケは前を切って進み、それぞれ戦闘態勢に入った。




 4人は一気に全力で出口に向かって走る。


 ざっと10人ほどはいる非適合者に向かい、ダイスケがハンドガンの狙いを定め、弱点の「黒い石」がある左腕を狙いトリガーを引いた。4人の走る音と共に銃声が鳴り響き、砕かれた黒い石を持つ敵は次々と倒れていく。


 今度はリュウが前に出て立ち向かう。一体の非適合者が口を大きく開け、大きなエネルギーを放った。奇妙な光が煌めき、それが砲弾となり、4人の方へ飛んでいく。


「アヤカ!」


 よけたリュウとダイスケの後ろでアヤカがナオキの前に立ち、両手から発生させた巨大な光の花でエネルギーを消し去った。

 砲弾の後の隙が出来たところでリュウがエネルギーを集中した強烈な左フックを非適合者の肩に入れるとその拳が肉を貫き、そのまま石を引きはがすと、また一体が床に崩れ落ちた。


 ダイスケの再装填が完了し、彼は再びハンドガンを構え、リュウに襲いかかろうとする敵の左肩に向かい、トリガーを引き、石を砕いた。




 ついに扉に到着し、ナオキは解除作業に入った。ナオキを守るために、アヤカは彼の背後に立ち、ダイスケはハンドガンに弾を込めながら一息ついた。しかし4人が振り向くと更に数を増した非適合者たちは地面を這うような足音を立て、こちらに向かってくるようだった。


「覚悟してたけど、やっぱり多いな」


 弾込めが終わり、再びハンドガンを手にしたダイスケが銃を構える。


「ナオキ、あとどれくらいかかりそう?」

「およそ1分といったところですかね」


 リュウの言葉に軽く答えると、ナオキはドア横の配線にケーブルをつなぎ、パソコンを叩き始めた。パソコンのスクリーンには複雑な数式とプログラム言語が並び、彼は集中してそれを読み解きながら、解除のコードを打ち込み始めた。


 一方、非適合者たちは全員が口を開けた。大きなエネルギーの塊がそれぞれの口に集まり、一人一人が発射の準備に入る。


「まずい、一斉に構えたぞ」


 ダイスケが警告する。彼がハンドガンで何発か撃つものの、その数は非適合者たちの量には到底敵わず、非適合者の口から一斉に砲弾が発射される。


 アヤカが再び前に出た。


 彼女の手から放たれた巨大な光の花は小さな爆風を放つ砲弾をひとつひとつ受け止め、エネルギーを消していった。しかし、そのエネルギーの量は想像以上で、彼女の顔色が徐々に青ざめていく。


「ナオキ!急いで」


 表情を変えずパソコンを叩き続けるナオキにリュウが声を上げる。アヤカの表情が苦しく歪んできた。次々と放たれる砲弾を受け止めるうち、光の花の力が次第に弱まり、その輝きが失われていった。

 アヤカの顔が苦痛を訴えていく。

 リュウは咄嗟に後ろから彼女の手を取り、自身のエネルギーをアヤカの手に流し込んだ。


「リュウ…!?」

「大丈夫、そのまま続けて」


 リュウのエネルギーがアヤカに流れ込み、花の盾が光を取り戻していく。

 アヤカは力を振り絞り、盾に集中した。


「開きましたよ!」


 扉の解除が完了し、ナオキの合図と共にダイスケが手榴弾を投げると一瞬後に大爆音とともに炎が広がった。非適合者たちはその爆発に驚き、一時的に動きを止めた。


 盾が消え、リュウは無防備となったアヤカを即座に抱きかかえ、勢いよく走り出す。彼らが駆け抜ける間、ナオキは扉のセキュリティを再度起動させ、扉が閉まるとともに非適合者たちの追撃は遮断された。





「…危なかったな…」


 息を切らしながらダイスケがつぶやき、リュウは脱力したアヤカを廊下に座らせると彼女の額に手を当て、体温チェックと脈拍を測り始めた。


「アヤカ、大丈夫?」


 リュウが柔らかな声で問いかけると、アヤカはうっすらと微笑んだ。


「…昔、こんなふうにリュウに応急処置されたことあったね」


 ぼんやりと眺めながら、アヤカが呟いた。

 リュウが優しく頷くと、ブレスレットをつけた左腕でリュウの手に触れ、彼女も微笑んだ。




「なあリュウ、さっきアヤカに何したんだ?」


 ダイスケが再びハンドガンへ弾を込めながらリュウに聞いた。


「ああ…俺のエネルギーをアヤカの盾に送ったんだ。足りなくなった盾の力の補充をしたんだよ」


 リュウの力…「力の調和」は自身のエネルギーを拳や蹴りの力点に集め、その威力を効果的に増大する力がある。他人にエネルギーを分け与えるのは初めての経験だったが、上手くいって内心ほっとしていた。





「さて…この廊下もすこし難解ですね」


 ナオキはスコープを覗きながら慎重に言った。


「レーザーセンサーが至る所に張り巡らされています…」


 100メートルほど続く冴えない廊下は暗闇に包まれ、左側には無機質な壁が伸びていて、右側には一定の間隔を開けて何枚かの扉が並んでいた。


「次の目標、すなわち【一般研究エリア】はこの左側の壁の最深部に位置しています。まずは、このレーザーセンサーの壁を乗り越える必要がありますね」


 ナオキが囁くと、リュウはスコープを借りて廊下を見つめた。無数のレーザーセンサーが放射状に配置され、いかにも突破困難な様子を示していた。


「これ、解除できないかな」


 リュウの問いにナオキは再びパソコンを開き、そこに地下研究所の全体図を開いた。


「解除するためのスイッチがあるようですが、どうやらこの廊下の最深部のようですね…」


 廊下はわずかな明かりで照らされ、その奥は漆黒の闇が広がっていた。


「そのスイッチを壊したら、これが解除できるのか?」


 ダイスケは狙撃銃を手に取ると、すぐさま暗視スコープをその上に取り付け始めた。


「そうですね…狙えますか?」

「俺を誰だと思ってるんだよ」


 ゆっくりと構え、スコープからスイッチを狙う。

 トリガーを引くと、銃声と共に弾が暗闇へ飛んでいくが、銃弾がレーザーセンサーに接触すると瞬時に赤熱した。それは鮮やかな光を放つと同時に、ほんの一瞬で粉々に破壊された。


「なんだ、これ…」


 ダイスケが困惑気味に声を漏らすと、ナオキは眉をひそめながら説明を始めた。


「レーザーセンサーは単に侵入者を検知するだけでなく、発見した侵入者を瞬時に破壊するレーザーベースの防御システムの一部のようです。これだと、遠隔からスイッチを破壊するのは困難そうですね…」


 うーん、とダイスケが頭を掻いて考え込む。


「銃弾に破壊力があればいいんだろ?リュウのさっきの力は使えないのか?」


 リュウは短い沈黙を続けた後、ゆっくりと首を振った。


「俺が出来るのは、自分のエネルギーを一点に集中したり小さくしたりする事だけだから…高速で移動する銃弾にそれを使うのは…難しいかな」


 その答えに、4人は沈黙し、頭を抱えた。




「そうだ、アヤカさん…たまに雷や炎を発生させますが、あれは使えませんか?」

「えっ」


 アヤカは驚いて顔を上げる。


「強力な雷や炎は強いエネルギーとなります。それをリュウ君の力で銃弾に込めて発射すれば、強力な破壊力を与える事が出来るかもしれません」


 確かに、彼女自身の感情に応じて精霊は時折、雷や炎を生み出していた。


「でも…どうやって雷や炎を発生させたら…」


 アヤカの声には純粋な困惑が滲んでいた。


「感情…アヤカさんは怒ると雷を発生させましたね。炎は、緊張や恥、でしたか」


 アヤカはゆっくりと首を縦に振ったが、すぐに視線を落とした。


「今怒ったり、緊張したりして、感情をコントロールするってことだよね?…でも、やったことないからどうしたらいいか…」


 ナオキはリュウとダイスケの方を見つめ、彼らに問いを投げかけた。


「2人とも、最近アヤカさんに隠し事はありませんか?」

「「えっ!?」」


 いきなり話を振られ、2人は驚き固まった。


「ミッションの為必要な情報です。アヤカさんを怒らせるヒントになるかもしれません」


 ナオキに大真面目に問い詰められ、2人は気まずそうに視線を泳がせた。


「えーっと、何かあったか…?リュウ」


 どぎまぎとしながら、ダイスケはリュウに話を振る。


「何か…あったかな」


 リュウは冷や汗を流しながら考え込んだ。それを見て、ナオキは苦笑いしつつアヤカの方を見た。




「怒り…緊張…恥…」




 それぞれの感情を連呼する男子3人を見つめながら、アヤカは申し訳なさそうに視線を外した。



「どうしたものか…」



 地下研究所の廊下には、それぞれが解決策を模索するために深く考え込む4人の声が響いていた。










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