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少年ボディガードと妖精姫   作者: てぃえむ
海外特待生編 【3人の絆】
42/77

ソフィとの出会い



 ナオキに言われたことは、別に驚きもしなかった。

 …自分の体の事だから、自分が一番理解してる。3年前のあの日から、俺の体に起きた「異変」は、アヤカの感情に反応する精霊たちと同じように、少しずつ俺の体を侵食していったんだ。


 俺がやる事は

 まず、決める。そして迷いや恐れが邪魔しないように、全てを遮断するんだ。あとは決めた事を実行するだけだ。


 ”影縫い”にいた頃から、そうやって生きてきた。だから、今回も同じようにしただけだ。


 けど、初めて「ソフィ」に会ったこの夜は、俺が「俺」でいられた「最後の日」だった。だから「俺」がアヤカに会えたのは、正しく言うなら、きっとこの日が最後だったんだと思う。


 今でも思う。

 

 ソフィ、君は俺にとって天使だったのか、それとも死神だったのか。







 シオンとの戦いの時に身に付けた力――「力の調和」

 あの後リュウは何度か使用しようと試みたが、体の中のエネルギーの調整は思った以上に難しかった。


 あの時助けてくれた精霊は、時折見守ってくれていたが、力を貸してくれたのはあの時だけだ。シオンとの戦いを思い起こしながら毎日、ただただ訓練を繰り返した。


 自分でも上手く使いこなせるかわからない力。この奥にいる「標的」は、一カ月ほぼ毎日観察してきた。初めての実践の相手としては、申し分なかった。


 左手に力を込め、手のひらが熱を帯びたところで深い呼吸をし、ゆっくりと息を吐き出した。


「よし、この調子だ」




 ――その時、リュウの前に小さな光が現れた。いつもリュウの周りを飛び回る精霊だ。


「君も行くの?」


 しばらくじっとしていた精霊の、心の中に直接語り掛けられるような「声」に耳を傾けた。


”君の望みは、何?”


 シオンとの戦いの時、聞かれた質問と同じだ。

 

「君がそれを聞くって事は、この先に何かあるのかな?」


 精霊の光に手を差し伸べると、小さな光の粒を放ちながら嬉しそうにリュウの周りを飛び回った。その様子に微笑を浮かべると、地下研究所への入り口に視線を移した。


「俺の望みは変わらないよ。…アヤカを守る為の力が欲しいんだ」

 

 その言葉と共に、精霊は強い光を放った。目が眩んだリュウは一瞬瞳を閉じ……

 ゆっくり目を開けると、くりくりとした瞳と長い髪が映った。


「…女の子?」


 体全体が青白い光に包まれた「存在」

 ブルーのドレスに身を包んだ3歳くらいの少女の姿に見える。


 女の子は微細な羽をぱたぱたと羽ばたかせ、リュウの左肩に座った。そして黒髪を優しく撫で、笑顔を浮かべた。


「……大丈夫、かな」


 無邪気に遊ぶ様子に若干の不安を感じるリュウ。しばらく様子を見ていたが、やがて先端に小さな魔法をかけ、三つ編みやお花の形に変えたりして遊び始めた。仕方ないと軽く息をつきながら図書館の隠し扉を開く。




 地下研究所に足を踏み入れると、広大な空間には散乱した実験道具と、散々に散らばった血の痕跡が混在している。

 自身の肩に視線を向けると、女の子は興味深げにあたりを見回している。おとなしくしてくれている事を確認し、室内にいる敵に意識を向けた。


 這うような足音が響いた。

 リュウを囲むように「標的」が現れ、右、左、正面に一体ずつ。鈍い動きでこちらに向かってくる。腰を落として回避の準備に入りながら、それぞれの動きに注意を向けた。


 (動きはそれぞれの個体で違う。でも、あいつらの行動パターンはずっと見て来た…)


 運動エネルギー、衝撃、そしてそれに対する敵の応力は、ほぼ同じと判断し、個々の動きの分析に入る。


 (右のやつが動きが速い。…他の奴との差は…約0,5秒…)


 這うような足音と共に、彼らの吐く息がすぐそこで響いた。


 (3体が同時に到着する衝突点…ここだ)


 自身の位置を微調整するように後ずさる。そして右の「標的」がうめくような声と共に左手を振り上げた。



「…3」


 心の中のカウントに心を委ね、全ての感覚を敵の動きに集中させた。


「…2」


 左手が振り下ろされる。


「1」


 右側の敵の手がリュウの髪をかすめる瞬間、体を引く落とし、敵の足元を滑り抜けるスライディングで逃げ出した。3体が揃って振り下ろした攻撃で激しい音が研究室に鳴り響く。

 すかさず左手を前に出し、青白い光から時の矢を取り出し、矢尻にエネルギーを集めた。3体が気付きリュウの方へ向かってくる。その瞬間、矢を放った。


 ドクン


 周囲に鼓動のような音が流れ、一瞬だけ時間がゆっくりと流れていく。3体の動きが止まったのを確認し、一気に接近した。


 

 肌に触れる風、体に流れる血の動き。

 妖精の力――「力の調和」を発動すると自分の動きのひとつひとつが手に取るように感じられた。


 左手に力を込めると全身のエネルギーが左の拳に集中していく。


 停止した「標的」の一体の左肩めがけてエネルギーを開放するようにフックを放った。肉が爆発するように弾け、あたりに血が舞い、それと共に黒い石が地に落ちた。


 (3000ジュール…これだと強いか)


 黒い石を足で踏み潰し破壊すると、もう一度左腕に力を込める。

 先程より少なくエネルギーを集中し放つと、鈍い音と共に骨の軋む音が響いた。しかし、体内の黒い石には到達できなかった。


 (1000ジュール…これだと少し、弱い)


 今度は右足にエネルギーを集め、同じ所にもう一度キックを入れると、腕が吹き飛び石が地に落ちた。その石も踏み潰し、最後の一体へと向かった。


 今度は再調整…3体目にも同様に左腕にフックを入れる。拳が敵の腕に埋もれたのを確認し、そのまま中の石を掴み肉と共に引き抜くと、3体目も崩れ落ちた。


「よし、いいかんじだ…」


 血で汚れた左手を適当に拭い、拳を握り石を破壊する。

 時間が戻る合図のように、水を抜けるような感覚がリュウに降りかかった。



「——-ッ」


 直後、全身に走る衝撃。時の矢の副作用だ。


「…!!!!…うっ ぐぅ…っ」


 内側から引き裂かれるような感覚が広がり、その痛みに顔を歪め、少ししゃがみこんで呼吸を整えた。


 (やっぱり、消耗が激しい…乱発はできないな)


 時間を操る「時の矢」は、強力な力を持つが、副反応として体への負担が大きい。体中が引き裂かれるような痛みにしばらく耐え、落ち着いたところで立ち上がる。自身の左腕に視線を向けると、拳には傷ひとつついていなかった。


「2000ジュールのエネルギー量で破壊できたけど、もう少し調整が必要かな。攻撃による腕への負担はなし…もう少し早い判断が出来ればもう一体くらいはいけるか」


 メモを取り出し、先程思い浮かべたベクトル解析と力学を軽くメモすると、昨日蠢いていたものが守っていたものを確認しに中心へ歩いていく。





 今日は昨日のやつらがいない。広い研究室を見渡すが、驚くほど静かだ。その静けさに少し不気味な感覚を覚えながら、中心に目を向けると扉の中心に丸い装飾が見えた。


「これもレーザーセンサーか…でも、入り口のとはまた違った暗号みたいだ」


 少しだけ、自身の左肩に目を向けると女の子も同じようにレーザーセンサーを興味深げに見つめていた。無事であることを確認しほっとしながら、暗号の形をメモしていく。

 

 ふと、背後から足音がした。それと同時に金属を引きずる音が響く。

 暗闇からそれは一歩、また一歩と近寄ってくる。振り向いた瞬間。


 ――「何か」が振り下ろされた。


 ドゴォッ


 横に飛ぶと、大きな音とともに床に亀裂が入った。目に飛び込んできたのは、先程までの三体とは全く違う姿をした、異形の者。

 その眼光は鋭く、人間の2倍以上の巨体を持つ。頭部は獣のように見え、その手には巨大な斧を握っていた。


「ここは一体、何の研究をしてたんだ…」


 相手が突進してくる。今までの標的とは全く違う――早い!

 振り下ろされた斧はリュウの腕をわずかにかすめ、大きな音を立て床に深い亀裂を残した。


(落ち着け…よく見ろ!! )


 先程の3体は這うように歩いてきたのに対し、目の前の獣は人間と同じように走って向かってくる。


(斧は推定20kg…振り下ろしの速度30m/s、角度はほぼ垂直)


 接近してきた獣の持つ斧が振りかぶられ、3度目の攻撃がすぐ横を横切る。斧が床を砕き、頬に強い風圧を感じながら前に出た。


(振り下ろしからの停滞0.3秒…ここだ!)


 振りかぶった肘にエネルギーを込め、一気に降りぬいた。


 ゴッ


 大きな音を立て腹部に命中させたが、その手ごたえに違和感を感じた。傷ひとつつかない皮膚は人間のものより遥かに分厚く硬かった。


「耐久性も、かなり高い…」


 そのまま今度は膝の追撃。先程より強くエネルギーを込め叩き込むと、獣が一瞬よろめいた。着地すると共に腕に再びエネルギーを集中する。


 先程は3000ジュールの攻撃で傷ひとつつかなかった皮膚。着地と共に衝突点を変更し、斧を持つ手首を狙いフックを放った。

 肉の裂ける音と共に血が舞い、相手の手首が巨大な斧と共に地に落ちた。

 うめき声ともとれる獣の声が響き、動きが鈍った。一気に弱点を狙い、接近する。


「4000ジュールの衝撃…これで、終わらせる!」


 


 ――その時


 長い黒髪がリュウの視界に映り、直後下から振り上げられる大きなブレードがリュウに迫った。


「――――!!」


 体を逸らすが切っ先が足に触れ、傷が刻まれた。

 

 滴り落ちる血の音と共に、息切れしながら前を見る。獣とリュウの間に割って入ってきた人物が、大きなブレードを持ち、こちらへ歩いてきた。



 見覚えがある人物だった。

 何故なら、その人物は自分が昔所属していた組織 ”影縫い” で、共に仕事をしていた、元仲間だったからだ。


「久しぶりね、リュウ」


 長い黒髪に緑色の瞳を持つ少女。

 淡々とした声。


「カレン、どうしてここにいるんだ?」


 彼女の持つ光を放つブレードは、身の丈程の大きさがあり、その光が地下研究所を淡く照らしていた。

 過去の仕事仲間との再会。それは思い出したくない昔の出来事を想起させ、一瞬リュウの体に激しい頭痛と動機をもたらしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] カレン…大丈夫でしょうか…。そしてなぜ…。
2023/05/24 12:20 退会済み
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