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新たな旅立ちの準備


 朝の光が古ぼけた研究施設の窓から差し込み、ナオキの頬を柔らかく照らしていた。疲れが見える手で彼のコーヒーカップを持ち上げると、一口飲んで苦い味に苦笑いを浮かべた。


「このコーヒーの味、スリルがあっていいね。僕たちの研究によく似てる」


 彼の視線は、コーヒーカップを置くとすぐに、あの日鳥から回収した小さな石に目が移った。石の表面には微細なエネルギーが刻まれてており、その複雑さから何らかの情報が隠されていることが示唆されるとナオキは考えた。



「さて、これを彼らにどう伝えようか…」


 机の上に並べられた最新の研究論文を眺めながら、つぶやく。そんなナオキの耳に、台所から賑やかな声が届いた。


「もうすぐ休憩かな」


 リュウがアヤカのボディガードとして出かけて行ったのは、ちょうど半年前の事だった。ナオキは時間の経過を感じながら、アヤカが淹れてくれたコーヒーに微笑んだ。彼は頑張る彼女を応援したかったのだ。



 一方、アヤカはキッチンで奮闘していた。


 リュウが彼女の隣に立ち、料理の指導をする。この日の朝食のメニューはスクランブルエッグだ。一生懸命取り組むが、なかなかうまくまとまらない


「もう一回!」


 と励まされ、アヤカは再び挑戦した。リュウもまた、彼女の成長を楽しみに見守っていた。


 アヤカが料理を覚えたいと言ったのは、彼女を助けた翌日の事だった。リュウがアヤカを匿うことをナオキに頼んだ時、アヤカ自身が提案していた。ナオキは少し考え込んだが、「そうだねえ…」と言って、リュウが家事を教えることを条件に受け入れた。


「上手にできなくてごめんね」


 少し落ち込んでぼろぼろのスクランブルエッグを差し出した。


「大丈夫だよ」


 彼女の試みを優しい言葉で励まし、ダイスケとナオキの待つ食卓へ運んで行った。





 食事の時間になり、ナオキは皆に語りかけた。


「君たちに提案があります。今のところ音沙汰ないけど、いつアヤカさんを狙ってここを見つけられるかはなんとも言えません。そこで…」



 出された書類をリュウとダイスケは手に取り、目通しをた。


「大学の、特待生ミッション?」


 ダイスケがスクランブルエッグをほおばりながらつぶやく。


「海外のハーモニア大学という場所で、ある研究がされています。率直に言うと人体実験なのですが…今回のミッションはこの大学に忍び込み、研究内容を調査するというものです」


 リュウが持ち帰った石と、その調査結果をテーブルに置き、言葉を続けた。


「リュウくんが持ち帰った石に酷似した信号をこの大学の研究が論文として出しています。もしかしたら、シオン達が絡んでいるかもしれません」


 ナオキは深く息を吸い込んだ。


「ハーモニア大学のセキュリティは世界でも最先端です。シオン達も簡単には手を出せないでしょう。特待生として入学すれば、アヤカさんの安全の確保と彼らの調査が同時に行えます。リュウ君、ダイスケ君…どうしますか?」


リュウとダイスケは互いに顔を見合わせ、言った。


「やるよ」

「やる」


 ナオキはにっこりと微笑む。


「いい返事ですね。では準備を始めましょう。2人の成績なら問題ありません。」



「問題は…」


 ナオキはアヤカの方を見つめた。


「わ、私ですか!?」


 お茶を入れていたアヤカがナオキの視線に気づき驚く。


「特待生は成績はもちろん、一般の学生とは異なり学歴や経歴が厳しくチェックされます。アヤカさんが一般の学生として入学することが可能かどうか…」


「でも私、学校に行ったのはリュウが来てくれてからの少しの間だけで…」


 自身なさげに言うアヤカにナオキは容赦なく指摘する。


「それが問題だ」


 アヤカの表情が曇る。


「勉強は僕が指導しましょう。アヤカさんがこれまで生きてきた環境は一般的な学生とは異なるはず。その経験がアヤカさんの強みになると信じています」


 彼女は緊張した表情でリュウとダイスケを見ると、2人は強く頷く。


「大丈夫だよ。僕たちがついてるから」


 リュウははっきりと言った。


「わからない所は教えてやるよ」


 ダイスケも少し意地悪そうな笑顔を浮かべ、言う。


「ありがとう!私、頑張るね」


 アヤカの笑顔に照れくさそうな反応を示すリュウとダイスケ。


 -まあ、今回はミッションなので最悪アヤカさんは僕の身内という事で連れて行ってもいいでしょう…


 頭の中でそんな事を考えながら、3人の様子をナオキは微笑ましく感じていた。



 そして、彼らの新たな挑戦が始まった。リュウとダイスケは特待生としての入学試験の準備をし、アヤカは学生としての基本的な教育を受けるための勉強を始めた。


 ナオキは彼らの教育をサポートし、同時にアヤカの身元を確認できないような方法で彼女が大学に入学できるようにするための策略を練った。


 日々は忙しく、そして充実して過ぎていった。それぞれが自分の役割を全うし、目標に向かって一歩ずつ前進していった。



 未来は、着実に近づいていく。

中学生編は、海外の大学に特待生として忍び込む話になります。

補足で…ボディガードになるには最低でも多国籍語をマスターしているくらいの学力が求められる為、リュウとダイスケもそういう設定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうもです。 Xより拝見しに来ました。 暗い過去、思春期にある人間関係や恋愛模様、それらが実に丁寧に書き込まれていて良かったです。 これぞ現代ファンタジーって感じですね。科学と幻想の…
[一言] 海外大学に忍び込むとは、なかなか冒険しますね…!海外の大学は特に先進国やアジアの大学であれば東大よりも難易度が高いケースもありますし、そこに忍び込むとなると、果たしてどれだけ勉強しなければな…
2023/05/18 07:55 退会済み
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