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少年ボディガードと妖精姫   作者: てぃえむ
小学生編・後編【野外合宿と世界樹の後継者】
27/77

心の中で、寄り添う

アヤカ一人称です

 この部屋は私がよく連れてこられた場所。外国に仕事に出かけたお父さんと一緒に帰ってきたイサム博士は、その日から私の家に滞在するようになった。


「精霊界と人間界を繋げるのは、恐らく世界樹の後継者の存在だ。つまり、その娘が後継者に選ばれれば精霊界の扉が開くだろう」


 その一言と共に、実験は始まった。


 イサム博士は最初、私にいろんなことを試していた。それは美味しい食べ物を食べる事だったり、私の好きな絵本を読む事だったり、一緒にお絵かきをした時もあった。けど、次第にそれは、私から何かを奪うものに徐々に変わっていった。


「感情の頂点は、失われた時…そうか…」


 そう言いながら一番最初に、お父さんからプレゼントされた大切なぬいぐるみを焼き払った。その時の彼の喜ぶ顔が今でも頭にこびりついている。


(何故、そんなに喜んでいるんだろう)


 私はその行動の意味が分からなかった。


 イサム博士はそれから私からいろんなものを奪っていった。花、蝶、仲良くなった小鳥…そして気づけば、私はこの部屋での日々の記憶を深く心に閉ざしていった。


 やがてそれは、私にとって最も大切な存在へと向けられた。







 心の中は静かな世界で満ちていった。目の前の色が、全て失われていくようだった。


 それは、いなくなった人、大切だった人の姿を目の当たりにした悲しみ

 リュウの変わり果てた姿に沸き起こる怒り

 一瞬にして心に甦る、かけがえのない思い出たち


 そして


 心のどこかで悪い夢であってほしいと思う願望


 どこに心を持っていったら良いかがわからなかった。行きどころのない心の叫びに体が付いて行く事ができない。



 涙が頬を伝い地に落ちると、一瞬の間に反射のように跳ね返り、細かい光の粒として周囲を微かに照らした。



 シャン



 精霊が怒ってる時の鈴の音のような音が響いた。

 そう感じたすぐ後に、周りの空気が一瞬灼熱のように熱くなる


 でもそれはすぐに消えて、風が吹く。その鋭い流れに沿って小さなスパーク音がパチパチと鳴り、やがてその音が次第に大きくなっていった。



「…嫌」



 彼がどれだけ私にとって特別な存在であったか。

 一緒に過ごした時間、日々がどれほど大切だったか。


 胸の奥が燃えるように熱くなる。口の中がどんどん乾いていく。リュウとの思い出が一気に頭の中を巡る。


 山の中で必死に守ってくれた姿。勝てないとわかっていても諦めずに戦っていた姿。

 澄んだ綺麗な心の奥に隠れたものが知りたかった。そして、いつも優しい彼の心に惹かれていった。

 共に過ごす学校生活はいつも輝いていた。毎日支えてくれることに感謝と、安らぎを感じていた。


 ブレスレットをつけた左手が小刻みに揺れ、その心に反応するように精霊たちが集まり騒ぎ出した。



「リュウ…」



 次々と私の心と一体となる精霊たちが、私の中心を包み込んでいく。乱れる意識の中で守護精霊の声が小さく響いたけれど、それはやがて失われていった。




「いやぁ…!!!ぁぁぁぁぁあ」




 精霊たちの光が巨大なエネルギーとなり、私の中から爆発しそうなほど溢れてきた。彼らの力が私の心と体に流れ込み、どんどん大きくなっていく。体の中が変わっていくのがわかる。私が人じゃなくなっていく…


 体から溢れるエネルギーは、もう抑えがきかなかった。




 ガシャーーン




 強化ガラスが割れ、私はリュウのところへ歩いていく。


 無機質な床と壁で囲まれた研究室内に精霊たちの光が反射して、守護精霊の光が目の前に現れた。彼は私の背中で羽のような4つの光の線を描くと、その心を消した。


「その姿、そのエネルギー。君は強い妖精であることを示したね」


 目の前に立ちはだかった男の人・シオンはリュウを手にかけた。なのに、何故か私はこの人を憎むことができない。


(何故、こんな事をするんだろう)


 深い闇を宿した漆黒の瞳をじっと見つめると、彼もまた視線を返す。映し出されたのは心の奥底に見えた、クリアなブルー、驚くほど澄んだ色。


「あなたの心は、とても綺麗なのに、どうしてなの?」

「君と同じように、失った大切なものを取り戻したいんだ…会いたい人がいるんだよ」

「大切な人の為に、誰かの大切な人を奪うの?それがあなたの大切な人の願いなの?」


 そう言うと彼の顔が少しだけ歪み、同時に雷の精霊の光が弾け、大きなスパーク音と共に黒い刀を弾き飛ばした。


「素晴らしい力だ」


 シオンは目の前の光景に歓喜し、何かを期待しているような表情を浮かべてる。


 


 光が強くなり、皆が目を瞑る。

 まばゆい光は一瞬、遠く遠くから風に揺れる木々の音が聞こえた。


 風に舞い踊る葉々が音を奏でる。

 どこまでも広がる、広い草原。その中心に立つ大きな木は地に深く根を張り、枝は空に根ざしているかのように高くまで伸びて、見上げると大木の枝が青い空に広がり、枝から小さな光が木の実のように輝いてる。


 一瞬で私はそれが世界樹だとわかった。


 妖精たちの生まれ変わる場所、そして私自身が最終的に帰ると言われてる場所。守護精霊から存在を聞いてはいたけど、実際に見るのは初めて。


 その周りを囲む小さな光の中心には、綺麗な女の人が立ってる。


 青いドレスに身を包んだ彼女の指には銀色の指輪が輝き、ライトブルーの瞳、細く長い金髪、透き通るような白い肌。尖った耳にバラ色の唇。背中には淡い光が4つの光の直線を描き、私と同じ羽のような形をしてる。


 きれいな唇から奏でられる、歌のような言葉が私の心の中に直接語り掛けた



”ずっと一緒には、いられない”



 彼女の悲しみが直接響くような、深く胸に突き刺さる声。


「傍にいたいの。その時間を大切にしたいの。そして私もリュウを守りたい」


 悲しそうな瞳をしたまま、妖精は私の方へ手を伸ばしてきた。


「妖精として、消えるか…世界樹として、世界を見守る運命を受け入れるか」


 アヤカはリュウの頭を支え、彼の冷たい額に触れながら涙を流した。目を閉じてゆっくり呼吸を繰り返し、心の中で寄り添っているような気持ちになる。

 

「やっぱり、ずっと一緒にはいられない、ね。わかってたけど…やっぱりつらいよ」


 妖精さんは私の前に来ると、その細い指先で私の左手のブレスレットに触れた。


”あなたは私の次の世界樹の後継者に選ばれた。そのエネルギーをどう使うかは、あなた自身が選ぶ事”


 彼女の手を取る。精霊たちのエネルギーが体中から溢れてくるのを感じた。

 目の前に立つ妖精さんは、何故世界樹になったんだろう?悲しくなかったのかな?何年もここに一人でいて、寂しくなかったのかな?


 大切な人はいなかったのかな?役目を終えた後はどうなるんだろう?そう感じた時に彼女は、左手の指輪を見ながら寂しそうな微笑を浮かべた。


 …そうだよね、きっと別れは悲しかったと思う。


「すべての始まり、そして終わりの場所、世界樹の力…それが手に入るんだよね」


 頷いた妖精さんに笑顔を向けると、世界樹に強く願った。




「リュウ、あなたにもう一度会いたい」




 そう願った時、私は世界樹と心が通った気がした。

 気が付いたらあたりを照らしていた光が消え、もといた無機質な壁と床が広がっていく。

 

「想像以上だよ、アヤカ」


 その言葉と共に後ろから強い衝撃が与えられ、私は意識を失った。

●世界樹について(「君を守りたい」と、今回の話で語ってることのまとめ)●

広い草原の真ん中に立つ大きな木。

木の根は大きく大地に根ざし、時に透けて下の世界が見える事もある。

枝は空に根ざすように広がっていて、木漏れ日のように青空が枝の間から見えている。


木の実のように光が灯り、その木の実が落ちると妖精になる。妖精は宿主を見つけ、共に生き、精霊との交流でエネルギーを蓄え、そしてまた世界樹に帰っていく


例えば春と一緒に生きる妖精は春の始まりと共に生まれ、春の終わりと共に消える

木を宿主に選べば木霊と言う妖精になり、その木が枯れると消えていく


アヤカの場合は人間の綺麗な心に惹かれ、その人間澤谷ソウイチと共に生きていた

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