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やっと捕まえた!

 前を走るひかりに、どうしても追いつかない。

せめて、ローファーを脱いで違う靴を履いてきていれば……!


まさかここまで本気で逃げられるとは思っていなかった。

ちょっと捕まえればそれで、話は済むと思っていたし……。

というか、ここまで本気で逃げなくてもいいだろうが!

いつも走ってるペースより、明らかに上だぞこれ!!


……なんかイラついてきた、絶対捕まえて、泣かしてやる!!


そう思うと、どんどん自分の中でギアが切り替わっていくのがわかる。

そのたび、前を行くひかりの背中が近づいてくる。

もうちょっと……もうちょっと……もうちょっとで追いつける……行け……!!


ついに、ひかりの横に並び……そのままブチ抜いてやった!

ああ、久しぶりだな、この高揚感と開放感……。


「ははっ、どうだ、抜いてやったぞひかり!!」


そう、振り返りながらあいつに勝利宣言してやると……


「なんだ……前みたいに、走れるじゃないっすか……」


そう、泣きそうな顔で、ひかりが呟いたのが聞こえた。

え、俺、走れてた? ……前みたいに?

夢中になってひかりを追いかけていたから、自分では全く分かっていなかった。



 でも、確かにさっきのあの心地よさは、昔感じていたものだった気がする。

これまで、何回試してもダメだったのに、どうして……。

そう考えたときに、なんで俺が今走っていたのか……誰のために走っていたのか。

それが答えとして、俺の中にすとんと落ちてきた。


そうか、だから今までしっくり来なくて……。


「ひかり」

「……なんですか」

「何警戒してるんだよお前」

「警戒なんてしてないっす……ていうか伊月先輩はどうしたんですか」

「なんでそんなに日向が気になるんだよ、今は関係ないだろ」

「ありますよ! さっき二人で抱き合ってたじゃないですか!」

「お前、なんか勘違いしてないか?」

「勘違いの余地なんてどこにもないじゃないですか……早く戻ってあげた方がいいんじゃないですか」


そういいながら、顔をよそに向け、不機嫌さを隠さないひかりが

なんだか面白くて、笑ってしまう。


「なぁひかり、俺と日向のことだけどさ」

「聞きたくないっす」

「聞けよ」

「あーあー! 聞こえないっすー!!」


あっ、こいつ耳を塞いでやがる!

昔の漫画じゃなんだから、そういう子供っぽいこと止めろよな!

無理矢理、ひかりの耳から手を引き剥がしてやる。

くそっ、意外と力強いなこいつ……。


「ひかりよく聞けよ! 俺と日向は……」

「ど、どうせ伊月先輩と付き合いだしたんでしょ! わかってるからもう離して下さい!」

「やっぱり勘違いしてるじゃねぇかお前……」


はぁ、と思わずため息をつく。

まぁ、勘違いしたから逃げたんだよなこいつは。


「さっき、日向に告白されたのは本当だ、でも俺は断ったんだよ」

「……信じられないっす、だってさっき抱き合ってたじゃないですか」

「まぁそれは……否定はしない……」

「ほら」


それを言われると弱いんだが……でも、断ったのは本当だから信じて欲しい。

もう暴れる意思もないのか、ひかりから力が抜けたのを確認し、手を離してやる。


「……なんで断っちゃったんですか、伊月先輩、人気あるし可愛いですよね」

「ああ、そうだな」

「もうセンパイ、そんな奇跡的な出来事一生ないですよ、宝くじのあたりを捨てるようなもんですよ」

「そうかもしれないなぁ」

「じゃあ、なんで断ったんですか」

「俺は日向より、お前が好きだからだよ」

「へ……」


それを聞いたひかりから、表情が抜け落ちる。

うわぁ、凄いアホ面になってる……俺、こいつのどこがそんなに好きになったんだろう?

なんか自分の事ながら、凄い笑えてくるから困る。


「さっきさ、俺が昔みたいに走れてる、って言っただろ」

「……言いましたね……というか、昔より迫力あったかもしれないっす」

「ちゃんと準備したら、去年より速くなってるかな?」

「ローファーであんだけ走れたら、十分ヤバいと思いますよ」

「ずっと走れなかった俺が、なんで走れたかわかるか?」

「わかりませんよそんなの……なんかいい事でもあったんですか?」

「お前のためだったからだよ」


そう、ひかりのため、だったから走れた。

昔は日向のために走っていたけど、その芯になっていた部分は、俺から長らく失われていた。

そこに怪我も合わさって、多分俺はもう、だめになってたんだと思う。


でも、今の俺はひかりのために走った。

ひかりのためなら、昔みたいに走る事が出来た。


「だからわかったんだ、俺、お前の事が好きなんだって」

「……うん? あれ、聞き違いかな……はは、センパイがボクを好き? え、ジョーク?」


こいつは……なんでこんなに自己評価が低いのかね?

俺はひかりを抱き寄せて、もう一度言ってやる。


「俺は、お前の事が好きだ」


ひかりが、俺の腕の中でびくり、と震えたのが分かった。


「なんで……」

「ずっと、俺の隣を歩いていたのは、やっぱお前なんだよ。お前じゃないと、しっくりこないんだよ」


ぐすり、と俺の中で、ひかりが鼻を鳴らした。


「他の誰でもない、お前と一緒に、これからもずっと走りたいんだ」


そう言ってやると、ようやくひかりと目線が交わった。

くしゃくしゃの泣き顔で……何だよその顔、酷いことになってるぞお前。


「ボクも……僕もセンパイが好きです……ずっと、ずっと前から……それこそ、小学生の頃から……!」

「そうだったのか」

「なんで気付かないんですか! この鈍感魔王!」

「魔王って」

「あんだけアピールしてたのに! 全然気付いてくれないし!」

「言ってくれなきゃわかんないだろ、そんなもん」

「陽愛ちゃんはすぐに気付いてましたよ……」

「なんだと」


そんなに昔から俺を想ってくれていたのか、という喜びをひしひしと感じる。

これからは、もっとこいつを大事にしてやらないといけないな。

……いや、あんまり甘やかすとウザくなるから、程々がいいな、程々が、うん。


「……ちゅー」

「ん?」

「ちゅーしてくれたら、これまでのこと許してあげます!」

「ちゅーって……お前は小学生かよ……」

「はい、してください!」


目を閉じて待ち構えるひかりに顔を寄せ、そして……


俺たちの唇が重なり合おうとしたとき……


「ママー、あのおにいちゃんたちちゅーしようとしてるー!」

「「!!?」」

「こ、こらっ、ダメよ邪魔しちゃ! ……ほほほ、ごゆっくり~」


そこでふと我に返った……そ、そうだ、ここはいつもの堤防、しかも昼間!

しかも夏休みなので、遠巻きにちらちらとこちらを見ている学生もいて……


「……ひかり」

「……はいっ」

「走るぞ! ついて来い!!」

「了解っす!」


ここまで来たときとは違い、二人一緒に、逃げ出すように走り出す。

それでも、俺たちには笑顔しかなかった。

こいつと一緒なら、いつまでも笑っていられる、そう思えた。



「でも、ちゅーはあとでちゃんとしてくださいよね、センパイ!」

「俺の部屋で?」

「せ、センパイの変態! セクハラ!!」

「それでその言葉が出てくるほうが変態だと思うぞ?」



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