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ローファーセンパイとボク

「くそっ、無駄にはえーなあいつ!」


 屋上で少し戸惑っている間に、ひかりの姿はすっかり見えなくなっていた。

せめてどこに行ったのかがわからないと、探しようがないぞ!?

外にでたのか、まだ校内にいるのか、どっちだ……。


「あっ! 水城先輩!!」


そんな風に悩んでいるところに、陸上部の後輩が話しかけてきた。

確か……いつもひかりとつるんでた子らだったか?

今はそんな事してる場合じゃないんだけど!


「もしかして、ひかり探してますか?」

「ん? あ、お、ひかり!? ひかりがどうしたんだ!」

「いや、さっきなんか泣きながら走って行ったんで、なんかあったんかなって……」


なんてこった! まさかひかりの目撃情報がこんなところに!

さすが夏休み、誰かしら居てくれてよかった!


「あいつ、どこに行ったかわかるか?」

「多分、堤防の方行ったんじゃないかなって……速過ぎてあれは追いかけるの無理です!」

「いよーしでかした! さんきゅー!!」

「あっ、ちょっと水城先輩!」


それだけ聞くと、俺も走り出す。

後ろから、「あとで詳しく教えてくださいねー」という声が聞こえてきたが、

無視だ無視、恥かしすぎて話せるわけないだろ!


待ってろよひかり……お前の足で俺から逃げ切れると思うなよ!


 * * *



「はぁ……」


 とぼとぼと、ため息をつきながら堤防を歩く。

夏祭りに続いて、また逃げ出してしまった……。

でも、センパイが伊月先輩を大切そうに抱きしめるあの光景を見てしまうと……。

多分、二人は付き合いだした、ってことだよね……。


そう考えるだけで、ジワリと涙が浮かんでくる。

まだ、自分の気持ちもセンパイに伝えてないのに失恋なんて哀しすぎる。

せめて、もっと早くセンパイに好きだ、って言えばよかったよ!

やっとデートできたよえへへなんて言ってる場合じゃなかった!

ライバルは、もっともっと前に進んでいたのに!!


今更ながら、ボクの胸に後悔が押し寄せる。

せめて今日だって、逃げずに戦いにいけばよかったのに……!



 とはいえ、もう本当に今更だ。

きっと今頃、センパイは伊月先輩と二人で、仲むつまじくしてるんだろうなぁ。

そう思うと……あれっ、なんだかむしろイライラしてきたんですけど!

ボクが今まで! 今までどんな思いでセンパイといたかも知らないで……!


「あっ、いた、おいひかり!」


はぁ、イライラしてたらなんか、センパイの声の幻聴が聞こえてきた……。

センパイがこんなところに来るわけないのに、女々しいなぁボク。


「おいって!」

「って……せ、センパイ!?」


やばっ、なんかセンパイがすんごい怒った表情で走って来てる!

なんで!? ぼ、ボクなんかやっちゃいましたか!?

とりあえず……に、逃げよう、うん!


「あっ、こらなんで逃げんだよ待てひかり!!」

「待て! って言われて待つ奴はいないっす! てか、何やってるんすかセンパイ!」

「お前追っかけてんだよ!」

「そんなもん見ればわかるっす!!」


なんで、ボクを追っかけてるのかを聞いてるんですよ!

伊月先輩はどうしたんですかー!!


「くっそ、お前こっちはローファーなんだぞ……ちょっとは走るの加減しろよ!」

「するわけないっす! このままぶっちぎってボクは帰るっす!!」


普段のセンパイなら、ボクが走って勝つなんてまず無理だけど、

今日だけはボクの方が絶対に速いはず! ローファーなんかに負けるもんか!

それに……追いつかれて、掴まって……伊月先輩と付き合うことになった、

なんて報告されたらたまったものじゃない……。


そう思ってほとんど全力で走ってるのに……センパイが全然離れない。

ローファーのくせに! 運動靴じゃないくせに!


「もう! どこまでついてくるんすかセンパイ!」

「お前が止まるまでだよ!!」


そう言われると、絶対止まりたくなくなる。

多分、今の速度がローファーセンパイの全力なんだろう。

これなら逃げ切れそうだ、そう、安心していたのに。


「待てっつってんだよひかり!」

「なっ、なんで!?」


ローファーなのに、ローファーのくせにぐんぐん追い詰められる!

センパイって、こんなに速かった!?

いや、違う……これ、怪我する前の……。


「なんだ……怪我する前みたいに、走れるじゃないっすか……」


はるか後方から、一気にぶち抜かれたボクは

気持ちよさそうな笑顔でこちらを振り返るセンパイに、思わず見とれてしまった。

ああ……やっぱり、カッコいいなぁセンパイ……。



こうして、ボクはセンパイに掴まってしまったのだった……。



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