告白
「ごめんねヨウくん、暑いのに来てもらっちゃって」
「まったくだ、後で飲み物でも奢ってもらわないと割りに合わないな」
「ふふふ、そこは私に任せて」
「うむ、苦しゅうないぞ」
ふふふ、とお互いに笑い合う。
ああ、やっぱりヨウくんのこの雰囲気、落ち着くなぁ……。
それでもやっぱり、これからの事を考えると物凄く緊張する。
私にこれまで告白してきた人たちも、こんな風に緊張してたのかな……?
「それで、日向……話があるって聞いたんだけど」
「うん、どうしてもしておきたい話」
これが、私にとっても、多分ヨウくんにとっても新しいスタートになる。
……それがどんな結果であろうと。
「私は、ヨウくんが好き」
「知ってるよ……この前聞いたから」
「ふふ、あの時は急にごめんね? でも、本当にヨウくんが好き、ずっと好きだったの」
「……いつから、って聞いていいか?」
「はっきりと自覚したのは……覚えてる?中学2年の時、私が階段から落ちそうになったの」
「ああ、そりゃ覚えてるよ……あの後から、急にお前がよそよそしくなったんだからな」
「あの時に、はっきりとヨウくんが好きだって思ったんだけど……でも多分、もっと前から好きだったんだと思う」
「そっか……」
今思い出しても、どうしてそんな事をしたのか、と頭を抱えたくなる。
貴方のその一時の感情が、事態をややこしくしたのよ、と。
「俺も、さ」
「うん」
ヨウくんが、ぽつぽつ、と話し出す。
「俺もさ、日向の事が好き、だったんだ」
「……うん」
「知ってるか? 俺が最初陸上始めたのって、日向がかっこいい! って言ったからなんだよ」
「陽愛ちゃんに聞いたから、知ってるよ」
「陽愛ちゃんめ……今日は抹茶アイスの刑だな」
「ふふ、抹茶キライなんだから、やめてあげてよ」
泣いちゃ、だめ。
「好きな女の子に褒めて欲しいからはじめました、ってかっこ悪いよなぁ」
「可愛げがあっていいと思うけどな……」
「そんな女の子が、急に俺と話すこともしなくなったときは、すげー凹んだし、何したんだろうって悩んだ」
「……ごめん」
「や、それはもういいんだ、何年も前の話だからさ」
「…………ごめん」
「だから、またこうやって日向と昔みたいに話してさ、遊びに行ってってできるのはすげー嬉しかった」
……絶対、泣いちゃ、だめ。
「でも……ごめん日向、俺、今好きな奴がいるんだ」
* * *
日向の告白を聞きながら、色々なことを考えた。
これまであった事、出会った人……俺をこれまで支えてくれた人。
確かに、日向は幼馴染として、女の子として好きだ。
ずっと昔から、ずっと好きな女の子だった。
じゃあ、今は? 今も変わらず日向が好きなのか?
そう、考えたときに、ふっと俺の中に浮かんできたのは、日向ではなかった。
いつも通りウザい顔で俺の周りを付きまとって。
時々、凄く真剣な顔で俺を見てきて。
またウザい表情を見せたと思ったら、顔を真っ赤にして俯いたり。
何より、この数年間、なんやかんやと言いつつ、ずっと俺の隣を歩いていたあいつ。
ああ、そうか、と納得するものがあった。
俺は……。
「……ごめん日向、俺、今好きな奴がいるんだ」
「そっか……やっぱり、土矢さん?」
「うん、俺は今、ひかりが好き、なんだと思う」
「何、思うって」
「ほっといてくれ」
「あーあ、やっぱりダメだったか、そうなるかなぁとは思ってたんだよね」
くすくすと笑っているが、日向の目の端に、光るものが見える。
物凄い罪悪感と、申し訳なさが俺を襲うが、それを言っちゃダメだ。
それは、日向にも、ひかりに対する俺の心にも、嘘をつくことになる。
「今のヨウくんのずっと側にいたのは、私じゃなかったんだもんね」
「そうだなぁ、あいつには世話になりっぱなしだ。……ほんとウザいやつだけど」
「ふふ、でもそういうところも好きなんでしょ?」
「そうだなぁ……多分」
「ふふふ、多分なんだ」
「ねぇ、ヨウくん……最後に、ぎゅってしてもいい?」
「ああ、いいぞ」
「ごめんね、ちょっとだけ……」
そういいながら、俺の胸元に寄ってきた日向を、初めて抱きしめた。
やがて、小さな嗚咽が聞こえ始める。
今まで我慢していたのだろう、小さな声だったが、確かに聞こえる泣き声は
間違いなく日向が発したもので。
俺は黙って、日向の背を撫でてやることしか出来なかった。
――――ガタン。
背後から聞こえた音に、振り返ると、そこには……
「え……あ……せ、センパイ……」
「ひ……かり?」
なんで、ひかりがここに?
いや、夏休みなんだから、部活に来てるのは当たり前なのか?
だからって、今、なんで……
「あ……すいません、センパイ見かけたから、びっくりさせようって……ボク……」
「ちょっと待てひかり、お前絶対なんか勘違いしてるから」
「……にひひ、伊月先輩、おめでとうございます! あ、ボ、ボク部活に行かないと……!」
そういいながら、ひかりが走り去っていく。
呆然とそれを見送るしか出来ない俺を……
「何してるのヨウくん、追いかけて!!」




