私と想い人の妹と
午後2時過ぎ。
駅前にあるちょっとおしゃれなカフェで、私は、ある人を待っていた。
私の想い人の妹……水城 陽愛ちゃんを。
陽愛ちゃんと私も、小さい頃はよく遊んでいたから、
やっぱり幼馴染だといえると思う。
お休みの日になると、家族総出でのお出かけではいっつも一緒にいたし
何よりヨウくんによくくっついていたから、やっぱり一緒に遊ぶ機会は多かった。
それも、中学卒業の頃にはやっぱり会話することもなくなって
あの日、私と陽愛ちゃんには、決定的な溝が出来てしまったんだけど……。
「すいません、お待たせいたしました」
「ううん、来てくれてありがとう。……もしかしたら、来ないかもって思った」
「……呼ばれたんだからそりゃ来ますよ。今までは呼ばれなかったから会わなかっただけです」
「そっか……」
「で、お話とはなんですか?」
「その前に、何か注文しよ? ここは私が出すから」
「わかりました、それでは……アイスコーヒーと、バニラアイスをお願いします」
「うん、わかった。……ふふ、今もアイス、好きなんだね?」
「そうそう、味覚なんて変わりませんよ」
そのまま、注文した商品が揃うまで、会話が止まってしまう。
陽愛ちゃんも話しかけてきてくれないから、何を話せばいいのか……。
「さて、そろそろお話というのをお伺いしましょうか」
「……昨日、ヨウくんに告白しました」
「そうですか」
「まだ、返事は聞いてないの。その前に、陽愛ちゃんに報告しないと、と思って」
「……そうですか」
そのまま、沈黙が続く。
陽愛ちゃんが、何を考えているかはわかる。
おそらく……。
「結局、最後に兄がどうするか次第なので、私は何も言いません」
「えっ」
それは、私にとって想定外の答えだった。
てっきり、陽愛ちゃんには反対されると思った。
反対されないまでも、罵倒されるくらいは、覚悟をしてここに来たのだ。
「当然でしょう、私は兄の男女関係を、とやかく言うつもりはありません」
「てっきり、何考えてるんだって言われると思ってたよ……」
正直、自分でも何を今更、と思わなくもないのだ。
ヨウくんの家族であれば、余計私に憤っていても仕方ないと思う。
……特に、陽愛ちゃんは……。
「まぁ、口は出しますが……それに私は、つっちーを応援しているので」
「そうだね、土矢さん、可愛いもんね」
「つっちーは可愛いだけじゃなく、あれで意外と尽くす方ですから安心です」
それは、結構意外な情報だった。
とはいえ、一時期のヨウくんを支えた甲斐甲斐しさを思えば、
それもすんなり納得できるんだけど。
「正直、ヒナちゃんについては、今更どのツラ下げてとは思っていますけどね」
「……うん、それは、そうだろうね……」
分かっている、私は陽愛ちゃんに、信用されていない。
それはそうだろう、陽愛ちゃんが大好きなお兄ちゃんが大変だったときに
じっと見てるだけだった私を、信用できるはずがない。
……また、いつ裏切られるかって言われても、仕方ない……。
「少なくとも、仮に兄がヒナちゃんを選んでも、よかったねとは思えない」
「………うん」
「はっきり言いますけど、私はヒナちゃんが大嫌いです」
「知ってるよ……そんなこと……」
ここまではっきり言われると、わかっていても正直言って辛い。
私に陽愛ちゃんを嫌う理由がないから、余計に辛いよ……。
でも、これも自分がやらかしたことなんだから、甘んじて受け入れるしかないんだ。
「でも、私はまた、陽愛ちゃんとも仲良くしたいと思ってるんだ」
「私は、仲良くしたくありません」
「ヨウくんともまた仲良くなれたんだし、陽愛ちゃんともきっと……」
「ありえませんね、私は絶対、許しません」
平行線。
私と陽愛ちゃんは、何処まで行っても、交わることはないのだろうか?
それでも、私はまた、陽愛ちゃんとも仲良く、お話がしたい。
これはワガママなんだろうか?
「まぁ、頑張ってください、兄を捕まえられるといいですね?」
「うん、頑張る」
「それでは私は、兄が待っているので帰りますね」
「今日はありがとう、ごめんね呼び出して」
「いえ、ご馳走様でした……それでは」
そういい残して、陽愛ちゃんが帰っていく。
唯一、心に残っていたトゲはうまく抜けてはくれなかったけど
それでも、ちゃんと陽愛ちゃんに告白したことを伝えられてよかった。
「……よし!」
あとは、ヨウくんだ。
正直、全く自信はないけど……頑張らなきゃ。
「後悔だけは、しないようにしないとね」
後悔は、この4年で十分した。
私はもう、絶対に後悔のないように行動する……!




