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幼馴染と帰り道

「はぁー……今日はめっちゃ泳いだな!」

「そうだねぇ……」


 流石の高校生二人といえど、数時間も遊びまわれば相当疲れる。

あのあと、浮き輪のレンタルが出来ることに気付き、浮き輪に入ってプールを流れたり。

日向と25mプールで競争したりと、泳ぎに泳ぎまわってやった。


日向も疲れたのか、帰りのバスの中で俺の肩にもたれ掛かっている。

眠たいのか、ちょっと目がしぱしぱしているのが可愛い。


「やっぱ水泳もいいな、久しぶりに泳いだけど楽しいわ」

「うちの学校、プールないもんね」

「プールあれば、色々と便利なのになぁあの学校も」


おかげで夏の体育も水に入ることなく、普通にグラウンドで授業を受けるハメになるわけで。

と言っても、それはそれで楽しいんだが。


「ふふふ、最後はもう25mプールで普通に泳いでたもんね、ヨウくん」

「俺はどんなチャンスも逃さないことにしてるんだ」

「陸上部な割りに、泳ぐの速いよね」

「陸上部な割りにってのはよくわからないけど、泳ぐのは結構得意だしな」

「知ってる、水泳部に入っても活躍できそう」


うーん……それはどうだろう?

はっきり言って、まじめに泳いでる連中はもう人類ではない。

奴らはもう河童か何か違う種類の何かに進化した人類だとしか思えない。


「水泳してる人から見たら、陸上であんなに速く走れるヨウくんも十分超人だよ」

「俺くらい走れる奴ならいくらでもいるけどなー……」


 そのまま、会話が止まる。

ふと横を見ると、俺の肩にもたれかかったまま、日向が寝息を立てていた。

バスの停留場はもう少し先だし、このまま寝かせてやってもいいか……。


 * * *



「はー、ついちゃったねー……今日のデートももう終わりかぁ」

「って、まだ駅についただけなんだけどな」

「でも、もうヨウくんとの時間が終わっちゃうと思うと……」

「何言ってんだよ、また遊びに行けばいいだろ?」


 そう言って、日向の頭をぽんぽん、と撫でてやる。


さて、いい時間だしメシでも食って帰りたいな。

ここからまた電車に乗って自宅近くまで帰るわけだが、

あっちまで帰ってしまうと、選択肢が一気に狭まるんだよな。

食べていくならここで何か食べて行きたいところだが……。


どうする? と日向に意見を聞こうと振り返ると、日向に右手を握られた。

急に握られたので、驚いて日向を見ると、なぜか俯いており……。


「どうした日向? さすがに疲れたか」

「ううん、それより、ちょっとお話したいんだけど……いいかな」

「おう、そのつもりでメシでもって……」

「そうじゃなくて、ちょっと二人でお話したい……」


そう言って、俺の顔を潤んだ瞳で、日向が見上げてくる。


「……わかった、いいよ」

「川辺のほうまで降りていい?」

「いいけど、この時期虫多そうだなぁ……」

「ふふっ、そういうこと言わないでよ」



 日向に手を引っ張られながら、川辺へと歩いていく。

手を離そうとすると、日向がぎゅっと強く握ってくるため、手を繋いだまま移動することにした。

なんだろうこの雰囲気……めちゃくちゃ緊張するんだけど。


なにより、時々、チラチラとこちらを見てくる日向が可愛すぎるのがいけない。

おいやめろ、手をにぎにぎするな、意識するだろう……!

まぁ、日向はそんなこと、全く考えてないんだろうけどなぁ。



そんな事を考えていると、すぐ川辺に到着した。

夏とはいえもう遅い時間だ、少し薄暗くなってきている。

日向は街灯の光が届くところに立ち止まり、じっと街の明かりを眺めていた。


「夜の街並みって綺麗だねぇ……」

「ああ、そうだな。何より川のあたりは涼しいのがいい」

「この時間でもこの暑さだもんねぇ」


くすくす、と日向が笑う。

正直、街並みより、日向の横顔の方が綺麗だな、と思った。

街灯の光を浴びて、風に靡く髪を軽く押さえている姿が、びっくりするくらい綺麗だ。


そんな俺の考えが日向に伝わってしまったのか、日向が俺の顔を見上げてきた。

俺は慌てて、視線を街並みのほうに向けたが、気付かれただろうか……?


「今、私の事見てたでしょ?」

「み、み、見てねぇし」


気付かれてた。

何この子本当は人の視線に敏感なんじゃないの!?


「ふふふ、まぁ、そういうことにしておいてあげる」

「ふん……で、話ってなんだよ」

「うん……」


そのまま、会話が止まる。

俺たちはじっと、夜景を眺める。

このままずっとこの時間が続くのかと思いだした頃……。


「ね、ヨウくん」

「うん?」


日向が、静かに話し出す。


「私ね、ヨウくんが好き」

「うん」

「ずっとずっと前から、ヨウくんが好きだったの」

「……うん」

「ヨウくんと一緒だと何でも楽しいし、ずっと一緒にいたいなって気持ちになるの!」

「そっか」

「へへ、ついに言っちゃった!」


そういうと、日向が俺から少し離れて、うーんと背伸びする。

こんな時間でも、日向が耳まで真っ赤に染まっているのが見えた。


「そろそろ言わなきゃ、ヨウくん絶対気付いてくれないと思ったんだよねー」


いや。

もしかして……とは思っていた。

思っていたけど、そんなはずはない。

日向のような万人から愛される美少女が、俺に好意を持つはずがない、とも考えてきた。

……考えるようにしていた、のかもしれない。

……思えば、俺はそんな日向から逃げていたのだろう。


ただ、これからはそうも言っていられない。

日向は、これまでの俺たちの関係を変えようと、積極的に動き出した。

俺は、そんな日向と、誠実に向かい合う必要がある。


「日向、俺……」

「待って」

「え?」

「返事は今しなくてもいいから」

「でも……お前それ」

「いいの、私もまだ、答えを聞きたいわけじゃないし……」


それに、と続ける。


「その前に、私もちゃんと話をしないといけない人がいるから」


日向が話さないといけない人?

誰だろう、そんな人、いただろうか?

日向が知らない俺の交友関係があるように、俺にも知らない日向がいるのだろう。

それにしても、そこまでして話さなければいけない相手……?


「だから、次に私がもう一回告白した時に、返事を聞かせて欲しいな」

「その時、お前にとっていい返事があるとは限らないんだぞ?」

「ふふ、わかってる、それも覚悟の上だよ」


こちらを振り返った日向の、長い髪が広がり、光を浴びて輝く。


「だから……じっくり考えて。私のこと、陽愛ちゃんのこと……土矢さんのこと」


そう、決意を秘めた日向の目は、とても綺麗だなと。

こんな時なのに、思わず俺は見とれてしまったのだった……。

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