水城 陽はこれまでを振り返る
この数ヶ月の間で、自分を取り巻く環境は、大きく変わったと思う。
その環境は、今の俺を大きく悩ませている。
そして、その悩みの原因は二人いる。
まず一人目は、俺の幼馴染である、伊月日向。
この数ヶ月で何が一番変わったかといわれると、随分長い間疎遠になり、
話もしなくなっていた日向と、また会話をするようになったこと、だろうか。
それが、ちょっとしたきっかけでまた縁がつながったんだから笑えない。
それ以降は毎日学校も一緒に登校し、たまの休みには遊びにまで出かけるんだから
本当に子供の頃に戻ったような気がするのは、当然ともいえるだろう。
そんな日向だが、疎遠になっている間に、物凄い奇麗な女の子に成長していた。
はっきりいって、俺みたいな平凡な男が隣に並んでいると見劣りするし、
日向にも悪いなぁと思うほどなのだから、その美少女っぷりは推して知るべしである。
というか、周囲の視線を受けて当然のように歩いている日向には、正直引く。
なんであの視線が気にならないんだ……?
そして、今だからこそ正直に言おう。
俺は昔、日向が好きだった。
俺の初恋の相手は日向だ。
生まれた時からなんやかんやでずーっと一緒に成長してきて
家族ぐるみでもお付き合いのある、一番身近にいる女の子だったんだ。
好きになるな、という方が難しいだろう?
俺が必死になって走っていたのも、全部日向を喜ばせたいからだ。
今思うとほんとアホらしい理由だと思うんだけど。
そんな日向とも4年ほど疎遠の期間が続き、今に至るわけだが……。
今でも好きか? と聞かれると……どうなんだろう? と応えるしかない。
確かに日向はすごく魅力的な女の子だと思うけど、流石に疎遠になった期間が長すぎて
俺の感情が追いついていないというか……。
大事にしたい、とは思っているよ、うん。
そして、もう一人の悩みのタネが、土矢光だ。
思えば、こいつとの付き合いも小2の春からになるから、相当長いんだよな。
付き合いの長さでいえば、日向とそう変わらないんじゃないだろうか?
よく陽愛ちゃんが連れて帰ってきたので、話す機会も遊ぶ機会も多かった。
ひかりは……なんだろう……一言で言えば、うん、ウザい、これだな。
ウザいんだけど、放っておけないというか……うーん、不思議な奴だ。
ただ最近、時々ドキっとするほど綺麗な顔をする事があって困る。
心臓に悪いんだよ、ひかりのああいう顔……。
まぁ、その後いつもの「にひひ顔」で台無しなんだけど。
ひかりには、ケガをした時に何気に付き添って色々と手伝ってくれたことには感謝しているし、
こいつのおかげであの時期を乗り越えられた、とすら思っている。
……あいつの前では絶対、こんなこと言わないけどな。恥ずかしいし。
日向との仲が昔みたいに戻る前は、一番近い位置にいるのは間違いなくひかりだった。
陽愛ちゃん? 陽愛ちゃんは俺の愛すべき妹だから、比べるまでもない。
さて、この二人の何が俺を悩ませているかというと……。
「もしかしてこいつら、俺にちょっと気があるんじゃないか?」
……と、思わせる事が不意にあるわけで。
自意識過剰じゃなければ。
いや、これで自意識過剰で、そういう態度を取ったら
『え……ヨウくん流石にそれは気持ち悪いよ……』
『センパイ何言ってるんですか……ほんとキモいっす……』
なんていわれたら絶対立ち直れない自信があるから、あの二人の前ではそんな態度出さないけど!
……ま、まぁ、それを受けて自分の気持ちになるわけだが。
正直、自分はあの二人をどう思っているんだろう?
俺は二人ともが好きだと思ってるし、いい友達だとも思ってる。
ただそれが恋愛的な意味か? と聞かれると自分で自分がわからない。
仮に……仮に!
あの二人が俺に、そういう感情が少しでもあるんだとしたら。
今の俺の態度は、二人にとって物凄く不誠実なんじゃないだろうか?
外から見たら、まるで二股をかけてるように見えるんじゃないだろうか?
そこまで考えて、ブルっと震えた。
日向は当然として、最近ではひかりも結構人気がある事がわかったところだ。
そんな二人を両天秤にかけているような態度、他の男子生徒からはどう映る?
夏休みでよかった……本当によかった!
まぁ、それはそれとして。
そろそろ、俺は本気であの二人の事を考えなければいけないんだと思う。
日向とひかり。
俺はあの二人と、これからどうなりたいんだ……?
すぐには出ない答えに、俺は悩まされることになった。
そしてその答えは、意外と早く、出すことになる…………。




