夜のデートは後輩と その01
夜。
いつもの日課のトレーニングに行く前に、陽愛ちゃんに呼び止められた。
「あ、ちょっと待って兄よ」
「なんだい陽愛ちゃん、今日も愛してるよ?」
「はいはい愛してる愛してる。えとね、今日はつっちー来るからね」
「ん? 来るってのは……走りにってことか?」
「そ、ちゃんと話を聞いてあげてね?」
「まぁ、そりゃ来たら話はするけど……了解」
なんだか分からないけど、愛する陽愛ちゃんのお願いなら聞かざるを得ないだろう。
まぁ、俺も数日ぶりにひかりと話しが出来るのを、楽しみにしてるんだけどね。
「あ、ハーゲンダッツ、忘れないでね」
「はいはい、じゃあ行って来るね」
こうして、少し浮かれた気分なのを自覚しながら、俺は玄関へと向かった。
* * *
「センパイ、数日間すいませんでした!!」
なぜか開口一番、ひかりに謝られてしまった。
別に約束して毎日走っているわけでもないので、いきなり謝られても困るのだが……。
「お、おう。まぁお前にも、都合の悪い日もあるだろ?」
「いえ……それでもやっぱり、すいませんでした……」
「いいよいいいよ、また走ろうぜ?」
ひかりを促し、走り始める。
やっぱり一人で走るより、二人で走った方が楽しい。
昨日まではなんとなく気分が乗らなかったのに、不思議な話である。
「それはそうと、ボク、センパイに聞きたいことがあるんですよ」
「なんだ? スリーサイズ以外なら何でも聞いてくれ」
「男子にスリーサイズ聞く女子なんていないっすよ……」
「ちなみにひかりは?」
「上からきゅー何言わせようとしてるんすか!? センパイのえっち!」
べしっと、二の腕を叩かれる。
きゅ? 90台? 何それそんなの聞いたら絶対日向泣くぞ!?
こいつと日向は、絶対に一緒にプールに連れて行くわけにはいかないな、うん……。
まずい、変な事を迂闊に聞いて動揺してしまった……落ち着け落ち着け……。
「そ、それで、聞きたいことってなんだよ」
「……そうでした、もう。センパイのせいで変な感じになったじゃないっすか!」
「悪かったって、それでなんだよ?」
ひかりが話し出すのをじっと待つ。
視線をきょろきょろさせながら、なかなか話し出さないひかりを
いぶかしげに見ていると、意を決したのか、こちらを睨みながら口を開く。
……なんで睨まれてるの、俺?
「……先週のお祭り!」
「先週の祭り? ああ、あれお前も行ってたのか?」
「そこでセンパイを見かけたんですけど……伊月先輩と一緒だったんですよね?」
「ああ、日向に誘われたんでな、久しぶりに祭りなんて行ったわ」
「ボクもそのお祭り、陸上部の子たちと行ってたんですよね」
「ほーん、ていうか見かけたなら声掛けろよお前」
「掛けられるわけないじゃないですか……」
なんでだよ。
普段なら俺が誰といようと、ウザいくらい絡んでくるくせに
なんで変なところで遠慮してんだこいつは……意味がわからん。
「だってセンパイと伊月先輩、き、き……キス! してたじゃないですか!」
「…………はぁ?」
待て、落ち着け。
誰と誰がキスしてたって?
え、俺と、日向が? なんで? いつどこで??
「ちょっと待てひかり、俺と日向はそんな仲じゃない」
「でも、センパイが伊月先輩に顔を寄せて、イチャイチャしてたっすよ」
ん? 顔を寄せて……?
そんな事してたかなぁ、二人で食べ物をシェアしあってたときも
そこまで接近した覚えはないんだが……適切な距離だったよな?
近づいたと言えば……日向の目にゴミが入った頃だが……うーん?
「なぁひかり、それ何時ごろの話だ?」
「確か……21時くらいだったと思いますけど……」
なるほど、21時頃か。
確かそろそろ帰ろうかって時間だったし、そうなるとひかりが見たのは……
「ひかり、わかったぞ……その時何があったのか……」
「ふーんだ、伊月先輩にちゅっちゅしてたんでしょ、センパイの不潔!」
「いいや、実はその時、日向の目にゴミが入ったから、ゴミを取ろうと、日向の目を覗いていたんだよ!」
「な、なんですってー! ……ってめっちゃ嘘くさいんですけど……」
物凄いじとーっとした目でひかりがこっちを見てくるが、本当のことなので仕方がない。
そうか、あの体勢は外から見ると、そんな事をしているように見えたのか……。
「そもそもお前は、俺があんな往来の場所でそんな事が出来ると思うのか?」
「センパイはどうかわかんないっすけど、伊月先輩ならやりかねないというか……」
「お前、あいつの事なんだと思ってんの?」
ひかりの中の日向がどんなキャラクターなのかが物凄く気になるところであるが
ここはちゃんと誤解を解いてやらねば、あいつも可哀想だろう。
「それに、日向にはちゃんと好きな男がいるんだ、俺とそんな事するわけないだろ?」
「……それ、本気で言ってるんですか、センパイ……?」
「おう、ちゃんと日向の口から聞いたぞ、『好きな人がいる』ってな」
まぁ、日向に好きな男が別にいる、ってのはみんな知ってることだし、今更かもしれないが
あいつがそんな迂闊な奴ではない、ってことはひかりにも知ってもらいたいよな。
幼馴染が悪く思われるのって、やっぱりちょっと哀しいし。
そんな俺を、ひかりが愕然とした表情で見つめ……。
「…………はぁ、よーくわかりました、ええ、やっぱりボクの勘違いっすね、ええ」
「わかってくれたかひかり、何よりだ」
「ええ、よーっくわかりましたよ!」
そういいながら、ひかりが走る速度を上げ、少し前へ出る。
「ボクも伊月先輩も、まだまだ頑張りが足りないんだなって、よーっくわかりました!」
「なんだそりゃ」
なぜ今の会話から、そういう考えに至るのかがさっぱりわからない。
今日の昼間の日向といいひかりといい、本当に女の子って何を考えてるのかさっぱりだ!
「センパイのバカ、鈍感男!」
「なんで悪口言われてるの俺!?」
しまいには泣くぞ俺!?
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今後とも可愛い幼馴染を書けるように頑張りますので、よろしくお願いいたします!
また、本作とは別に、違う話も始めました。
凄くモテる後輩が毎日愛を囁いてくるけど、怖いので俺は絶対に絆されない!
https://book1.adouzi.eu.org/n6202fp/
絆されません。多分。
こちらもよろしくお願いいたします!




