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side:水城 陽愛

 私の兄は物凄く鈍感だ。

見ていてイライラするほどに鈍感だ。

もう色々、全部ブチまけてやりたい気になる私に、誰も文句は言えないと思う。

あれは直接言って、無理矢理キスの一つでもしてやらないと、自分の立場が分からないのだ。


まったく、我が兄ながら、情けない……。

男らしく、自分から押し倒して無理矢理迫る、くらいの気概を見せて欲しいものだ。

まぁ、だからといって本当に押し倒されても、それはそれで困るのだが。


「で、最近様子がおかしいと噂のつっちーは何をしてるのですか?」

「ぼ、ボクは別にお……おかしくないし……? はは、やだなぁ陽愛ちゃん……」

「最近、兄がつっちーと顔合わせてないって言ってるんですけど?」

「ううう……」

「で、何があったのか、私に言ってみなさいな」

「うわーん陽愛ちゃーーーん!!」



 つっちーは一見元気いっぱいで、誰にでもフレンドリーに話す子だと思われてるけど

一枚皮を剥くと、物凄い乙女な顔が見えてくるのですよね……。

ちょっとはこの顔を兄に見せれば、単純な兄はころっと転ぶだろうに。

なぜ、ウザからみしに行く後輩キャラに落ち着いたのか、これがわからない。


「じ、実はこの前のお祭りに、遊びに行ってたんだけど……」

「ああ、そういえば兄も行ってましたね……あ、もしかしてそこでどこかに連れ込まれましたか」

「ち、違うよ!? ていうか、センパイはそんなことボクにしたことないし!」

「逆にしないことを疑問に思うべきですよ……あれだけお膳立てしてるのに」

「うう……」


そう、あれだけ兄が好きだ好きだと態度に出ているのに、なぜ手を出さないのか!

私だって、もう何年も何年もつっちーをサポートしてきたのに!

兄の頭の中には走る以外ないのかと、常々疑問に思うほどだ。


「で、お祭りで何かあったんですか?」

「お祭りで……センパイ見かけて……嬉しくなって声かけようとしたら……」

「そもそも、なぜ兄をお祭りに誘わなかったのか、そこから理解に苦しみますね」

「水族館でもういっぱいいっぱいだったんだよ……えへへ……」


デートの日の事を思い出したのか、つっちーの顔がだらしなく崩れる。

話を聞くと、ただ手を繋いで仲良く水族館で遊んできただけらしいのですが。

小学生のデートですか、全く……。


というか、本当に、私の親友はどうしてそこまで兄が好きなんでしょうね?



「はいはい、顔が緩んでます。それで、何があったんですか」

「そ、そうだ! で、声かけようとしたら……い、伊月センパイと……キ、キスしてたんだよぉ……」


ヒナちゃんとキス?

というかあの日、いそいそと出かけていましたが、ヒナちゃんとだったんですか。

ふーむ……兄からそういうことをするとは思えませんが……。

ここ最近のヒナちゃんの攻めの態度を見ているとあながち……ふむ。


「で、つっちーはそれをちゃんと見たんですか?」

「え?」

「兄とヒナちゃんがいちゃいちゃしているのを、間近で見たんですか?」

「う、ううん、ちょっと離れた所で、後ろからだけど……」

「ならそれは錯覚、気のせい、見間違いです間違いありません」

「ええっ!?」

「なので、いつも通り何もなかったように兄に話しかけるのです、いいですね?」

「で、でもこれで伊月センパイと付き合いだした、って……」


 ほんと、変なところで後ろ向きな子だと思う。

普段、兄にあそこまでウザいといわれるほど付きまとえるのに、どうして肝心なところでヘタれてしまうのか。もう少し、自分に自信を持ってもいいと思うんですけど、なかなかままならないものです。

素材だって、ヒナちゃんに勝るとも劣らない、いいものを持っていると思うんですけど……。


まぁ、そんなところも可愛いと思っているんですけどね。


「はいはい、そんな事絶対ありませんから、今日の夜は行くこと、いいですね?」

「でもセンパイが……」

「兄は夜につっちーが来ない、って気にしてましたよ」

「!!」

「あと、いい加減そろそろ連絡先くらい交換してください」

「が、頑張る……!」


ふぅ、とりあえずこれで、つっちーについては後は兄に任せるしかありませんね。

もう一人……ヒナちゃんのほうですか……あちらは私から、何か出来る事はありません。

兄に軽く探りを入れる程度しかできないのが、もどかしいです。


おそらくそう遠くないうちに、ヒナちゃんから私に接触してくることはあるでしょうが……。

ヒナちゃんとしても、これ以上前に進む前に、私と話をしようと思うでしょうし。



「あ、そういえば……今日、これが下駄箱に入ってたんだけど……」


そういいながら、つっちーがポケットから取り出したのは一通のお手紙。

これは間違いなく、ラブいあれなやつですね。


「これは……放課後の呼び出しですか、行くんですか?」

「うん、一応行こうかなぁとはボクは思ってるけど……なんか悪いし」

「そうですか、気をつけるんですよ?」

「了解しました!」


呼び出し場所へ向かうつっちーを見送っていると、少し離れたところに兄を見かけました。

どうやら、つっちーを見かけたので話しかけようと考えているようです。


……いい機会ですから、兄にはつっちーを見る目をもう少し変えてもらいますかね?

タイミングよく、つっちーに告白しようなんて不届きモノが出てきたわけですし。

この状況を大きく利用し、兄につっちーの知らない一面を知ってもらいましょう。


これで兄がどう考えるかで、今後の私の動きも、少し変わってくるのですが……。



「出来ることなら、つっちーには幸せになってもらいたいですからね」



私に出来ることなら、何でもするから。

だから頑張ってね、つっちー。

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