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チャーシュー大麺固ネギ多目背油あり

 テストも終わり、いよいよ夏休みまでもう数日…という今日。

俺にはどうしても、行きたい場所があった。


「ひかりー、お前今日暇か? 暇だよな?」

「人を暇人みたいに言うのやめてもらえないっすか……ボクが暇そうに見えますか!?」

「え? 暇じゃないのかよ……困ったな……一緒に行きたいところがあったのに……」


ひかりが暇じゃないとなると、誘える選択肢が一気になくなってしまう。

こういうとき日向は誘い辛いし……さてどうしたものか。


「あー! あー今暇になりました! 暇になりましたよセンパイあーボク暇だなー!!」

「よし、そのノリ嫌いじゃないぞひかり! さぁ行こう!」

「は、はい…!(こ、これはもしやデートのお誘いなのでは……!?)」



 * * *



 そうして、俺たちがやってきたのは……。


「いらっしゃい! 今日はなんにするんだい!?」


店内に入ると、すぐ、おっちゃんがニコニコと迎えてくれるここは、俺のお気に入りの店。

その名もずばり「ラーメン屋」である。ふざけてなどいない、これが正式名称なのだ。


「俺はチャーシュー大麺固ネギ多目背油ありね! ひかりはどうする?」

「わかってました……わかってましたよどうせこういうんだろうなって……! 同じものお願いします!」

「はいよ!」

「あ! おっちゃんついでに餃子1.5人前も!」

「ちょっとセンパイ、それは食べすぎじゃないっすか!?」

「いや、どうせひかりも食べるかなって」

「……食べますけど……」


やっぱりな。

いやー、それにしても急にラーメン食べたくなって困ってたんだよな!

こういうとき、ついてきてくれるひかりには本気で感謝しかない。


「これ、ボクだからいいですけど他の女の子だったら大顰蹙っすよ?」

「いいんだよ、お前しか誘わないから」

「えっ……それってどういう意味……」

「俺とラーメン食ってくれる女の子はお前だけだよ……ひかり……」


じっとひかりを見つめると、見る見るひかりの顔が赤く染まっていき……。


「それ、ボクの事女の子と思ってないからですよね!?」

「いやいや、そんなことありませんよ」

「ふんだ。ここはセンパイのおごりっすからね!」

「その程度でひかりとラーメン食えるなら安いもんだな」

「……センパイはほんと、そういうところがダメなんすからね!」


どういうところだよ、わかんねぇ!

それよりもラーメンだラーメン!


「そういやここにひかりと来るのは初めてだったか」

「どっか食べにいくーって言ったら、だいたい陽愛ちゃんも一緒でしたからね」

「陽愛ちゃんは……ラーメン食いには来てくれないんだよね……」


なんとなく、兄とラーメン食べるのは嫌だと言われるのだ。

それ以外のファミレスとか、オシャレなカフェならいくらでも付き合ってくれるのだが……。

なぜラーメンだけはダメなのか、解せぬ。


「そもそも、こうやってセンパイと二人で食べに行くようになったのって最近ですからね」

「ここんとこ陽愛ちゃんの付き合い悪かったからなー……兄を嫌がるお年頃なのだろうか」


ダメだ、想像してたら物凄く哀しくなってきた。

可愛い陽愛ちゃんに「兄と一緒にいて、噂されたら恥ずかしい」とか言われたら泣くぞ。


「……ボクに遠慮してくれてるのかもしれませんけど……」

「んー? なんか言ったか?」

「はいお待ち! チャーシュー大麺固ネギ多目背油あり二つと餃子ね!」

「お、来た来た! 食おうぜひかり! ここのは旨いぞ!」

「はい、ゴチになりますいただきます!!」


うむ、やはり、ラーメン屋のラーメンは旨い。

ここに一緒に来てくれる奴は少ないからな、ひかりを大事にしよう。

俺は心から、そう思ったのだった。



 * * *



「ふぅ~、いや、美味しかったっすねここ!」

「だろ? しかしお前もなんやかんやでよく食うな」

「にひひ、普段走りまくってるからっすかね!」

「それな。こんだけ食う割りにスタイルいいのはそのせいか……」

「エロい目で見ないでくださいキモいっす」

「はっ、見てねー」


そんな事を言いながら、商店街を歩いていると……。


「あっ! そこのデート中のお二人さん! 今いいですかー?」


広場の中央、大きな竹笹の前に机を置いた女の人が、こちらを呼んでいた。

机の上には短冊とペンが置いてある。

ああ、そういえば今日は……。


「で、デートっ!? ……デートに見えるのかぁ……にひひ……」

「いや、デートとかじゃないんですけど……なんです?」

「あら、恋人さんじゃなかったの?」


二人で歩いているとデートに見えるのだろうか?

うーん、これまで彼女がいた事がないからよくわからないな……。


「まぁどっちでもいいんですけど、せっかくだから書いてきません?」


うーん、そうだなぁ…書いていってもいいけど……と、

ちらりとひかりのほうを見ると、別のスタッフのお姉さんと何やら話しこんでいた。


「(ほら、あなたの恋が実りますようにってお願いしないと)」

「(えっ、えっ、な、なんでそんなこと!)」

「(ふふふ、見てればわかるわよ! 彼のこと、好きなんでしょ?)」

「(あ、あの……やっぱりわかり……ます……?)」

「(鈍そうだもんねぇ、彼……ほら、お願い事書いて、それを見せれば……)」

「(むむむ無理です無理です無理ですぅぅぅぅぅぅぅう!!)」


なんだ、やけにひかりがテンパっている……何を言われているんだ……?


「わかりました。……センパイ、書きましょう!」

「おお? なんでそんなやる気なの!? いやいいんだけど……」

「はい、2枚ね! 書き終わったら呼んでくださいねー!!」


さて、なんと書こうか……。

いい成績がつきますように? 小遣いアップ? やはり走れるようになりたい?

ひかりは……なんて書いてるんだろう……ってあっさり書き出してるな!?


「なぁひかり、なんて書いたか見せてもらってもいいか?」

「ふえっ!? ぜ、絶対だめっす! 絶対見せないっす!!」


顔を真っ赤にしながら短冊を抱え込んで、こっちを威嚇してくる。

なんだ、そんなに見られたら恥ずかしいことを書いたのか?

そこまで拒否されると、逆に気になってくるな……。


「センパイのえっち!」

「なんでだよ!?」


願い事の短冊でどうしてそこまで言われなければいけないのか

解せぬ。


「まぁいいや……よし、書き終わった、ひかりがいいならくくりにいくか?」

「了解っす! ……絶対見ないでくださいね?」

「見ないよ……」


公衆の面前でもうえっちとか言われたくないからな……!


スタッフのお姉さんにお願いし、出来るだけ高いところに括り付けさせてもらう。

俺が書いたのは「これからも変わらず楽しく生活できるように」だ。

なんやかんや言って今の生活って結構気に入ってるんだよな……。


「よし……できたっす! じゃあ帰りましょうかセンパイ!」

「おう、帰るか」


結局、ひかりはなんて書いたんだろう?

それだけが最後まで見れなかったのが残念だ……。

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