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ストローを笛というのは無理がある

「ここの喫茶店って、料理の名前が動物の名前になってるんすね」

「な、オオサンショウウオまんってどんだけオオサンショウウオ押してるんだよ!」

「その割りに、なぜかチュリトスはチュリトスのままなんすね……」

「それな」


他のには動物の名前がついているのに、なぜチュリトスだけチュリトスなのか。

そもそもチュリトスとチュロスはいったい何が違うのか。

わからない……俺はこの世がわからない……!


と、馬鹿なことを言っていると、ようやくイルカショーの開演時間となった。


「ここのイルカショーは、観客全員参加のショーなんですよね!」

「へぇ、スタッフさんがイルカに指示だすだけじゃないのか」

「そうなんですよ! この笛を鳴らして、イルカとコミュニケーションをとるんです!」


そう興奮して語るひかりの手にあるのは、どう見てもストローである。

そう、ストロー。

ちょっと加工してあるが、どこからどう見てもストローである。


「なぁひかり、これ本当に音でるのか……?」

「当然じゃないっすか! ほら、周りの人もみんな鳴らしてますし!」


確かに、小さい子も鳴らしている。

ということは、そんなに難しくないのだろうか……?


「ぴゅー、ぴゅー……お、本当だ、結構簡単に鳴るもんだな」

「そりゃ鳴らないものなんて渡さないっすよ! じゃあボクも練習を……」


ふしゅー


「……」

「……」

「あ、あれ、おかしいっすね……もう一回……」


ふしゅー


「…………」

「………っく……ふふふ……っ! ほら、スタッフのお姉さんが吹いてってしてるぞ」

「ふしゅー! ふしゅー! うううううううううーーーーーーっ!!」

「っく……全然鳴ってないぞ! ダメだ腹いてぇ! うはははは!」

「センパイはほんともう! センパイはほんともう!!」


ひかりが怒ってばしばしと肩を叩いて来るが、

音が出せず、音楽隊になれなかった奴の攻撃など痛くもかゆくもない。

その後も、何度も吹こうとしては失敗して抜けた音を出して

哀しい顔をするひかりが可愛すぎて、本当に楽しい時間になった。

もちろん、イルカショーも楽しかった。



 そして最後は、ひかりが楽しみにしていたペンギンコーナーだ。


「せ、センパイ! ペンギンが、ペンギンが空を飛んでます……!!」

「落ち着けひかり、ペンギンは空を飛ばない」

「で、でも見てください! あんなに華麗に……!」

「そうな、水槽の中な」


そう、この水族館のペンギンコーナーは、陸上部分と水中部分にわかれているのだ。

なので、水中を華麗に泳ぐペンギンが見放題なのである。

確かに見ようによっては、ペンギンが空を飛んでいるように見えるのかもしれない。


ひかりが目をキラキラ輝かせながらペンギンを見ている、本当に好きなんだな……。

というか、こいつにもこんな、女の子らしいところがあるんだな、と今更ながらに思ったわけで。

こいつとも長い付き合いなのに、知らない事って本当に多いんだなぁ……。


「はぁ……ペンギン本当に可愛い……ペンギン好き……」


ペンギンが頭をふりふり歩くたびに、ひかりの頭もふりふりと

ペンギンにあわせて揺れるのが可愛くて、ついつい笑ってしまう。


「な、なんですかセンパイ、人見て笑うなんて失礼っすよ!」

「わ、悪い……くくっ、可愛いな、ひかり」

「? はい、超可愛いっす!」


どうやら、俺の言いたいことは伝わらなかったようだ……。



 * * *



「はー! 超楽しかったっすね、センパイ!」

「意外と面白かったわ水族館。なんかあっという間だったな」

「楽しい時間は、過ぎるのも早いものなんすよ……」


 楽しかった時間も終わり、どことなくしんみりした空気が流れてくる。

急に現実感が戻ってくるというか……正直なところ、少し寂しい。

もう少し、ひかりと歩いていたかった気もする。


「駅に着いたら解散なんですねぇ……」

「いや、家まで送るのがデートだろう?」

「……にひひ、じゃあ、お願いしようかな?」


ぎゅっ、と、強く手を握り返してくるひかり。


「センパイ、できればこれからも、ひかり、って呼んでほしいです」

「デート限定じゃなかったのか?」

「ぶー、ほんとセンパイいじわるっすよね!」

「ははは、わかったわかった、じゃあこれからもひかり、って呼ぶな」

「つーか付き合い長いのに、いつまでも名前呼びしない方がおかしいんすよ!」

「不思議だよなぁ……」


思えば、俺とひかりは本当に不思議な関係だと思う。

陽愛ちゃんの友達? 先輩と後輩??

なんとなく、どれも違うが、だからといってこれだと俺たちの関係をぴったり言い表す名前も思いつかず。

ただ、そんなよくわからない二人の関係も悪くないよな、と思いながら、ひかりの家への道を、二人で歩いたのだった。


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