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イワシのお寿司は美味しいと言う話

「ふーっ! やっとついたっすねー!!」


 満員電車から解放され、ようやく目的地である水族館に到着した。

正直、電車の中で密着されたせいで、色々と我慢の限界だった!

ダメだろ、年頃の娘さんが男にあんなに密着して!

柔らかかったです!!

どこがとは言わない。


「ほんとなー……もう日曜日に電車乗るのは勘弁だわ」

「ボクらは学校がそんなに遠くないからいいっすけど、遠距離の人は大変っすよねぇ」


一日満員電車に揺られただけでこれだ、毎朝のことになるとぞっとする。

世の通勤ラッシュにもまれるお父さん方には頭が上がりません!


「俺、大学行けんのかな……あんな電車乗ってまで通いたくないぞ……」

「その前に、大学いけるんすか?」

「それは言わない約束だよひかりさんや……」


急に現実突きつけてくるの、やめてくんない?

泣くぞ。


それにしても。


「センパイとこのあたり来るのって、すごい久しぶりっすよね!」

「ここに来るのも数年ぶりか? あの頃はまだ水族館なんてなかったからなぁ」


 最後に来たときには、だだっ広い公園と、電車の博物館しかなかった覚えがある。

それがまぁ、たった数年で水族館まで立っちゃって、と感心してしまう。

そういえば、最後に来たときには陽愛ちゃんも一緒だったなぁ、また連れてきてあげないと!


「さぁ、センパイ行きましょう! ペンギンたちがボクを待っていますよ!」

「あれ? お前ペンギン好きなんだっけ」

「めっちゃ好きですよぉ……なんでここに来たかったかって、ペンギンが見たいからですよ!」

「なるほどなぁ……じゃあ、早速行くか!」

「はいっ!」


物凄くゴキゲンなひかりに、ついつい笑みを浮かべてしまう。

しっかりと手を繋ぎなおし、二人でペンギンへ向けて、歩き出したのだった。




「まぁ、最初にお出迎えしてくれるのはオオサンショウウオなわけだが」

「こんなにいっぱいいると、なんかレア感なくなるっすねぇ……」


 なんて事を言うのひかりちゃん、天然記念物様ですよ!?

とは言うものの、大量にごちゃっと折り重なっている様子を見ると

天然記念物ってなんだったっけ……という気になるから不思議である。


「おお……見ろよひかり、こっちにも大量のサンショウウオたちが!」

「オオサンショウウオくらいしか知らなかったっすけど、色々いるんすねぇ」

「な、でもぱっと見、どれがどの種類とか全然わかんねーな!」

「サンショウウオ好きな人が聞いたら、卒倒しそうっすね」


でかいサンショウウオを見ると全部オオサンショウウオに見える俺を許してほしい。

ちっちゃい種類はちっちゃい種類で、正直、違いが全くわからないわけだが。

こんな俺を許して欲しい……。


「って! いつまでオオサンショウウオ見てるつもりっすか!」

「おお、そうだった……なんかあまりにも面白くて……」


ヤバイヤバイ、なんかぼーっと見てるだけですごい癒されてしまった。

せっかくの水族館なのに、オオサンショウウオだけで一日潰すとかどうなんだ。


「イルカショーもあるみたいっすね」

「開演時間までまだあるみたいだし、先に他のとこ見に行こうか」

「そうっすね!」



 ひかりと手を繋ぎながら、オオサンショウウオエリアを後にし、

そのあとにオットセイ・アザラシと続き、巨大水槽へと足を進めた。


「ふわぁ……すごいっすねぇ……」

「ああ、こりゃすごいな……内陸県でこんなのが見れるとは……」


 そこには、幻想的な光景が広がっていた。

日本最大級の内陸型水族館の名前は伊達じゃない、と本気で思う。

中でも、イワシとエイが泳いでいるところは圧巻の一言で、これだけでも見にきてよかったと本気で思う。

なのに……なのに!


「あ、イワシ見てたらお寿司食べたくなってきたっす」

「お前なぁ……ちょっとはムードってもの考えろよ……」

「にひひ、さーせんっす!」


そう言って、ひかりがまた水槽に目線を戻す。

なんやかんやいいつつも、この幻想的な光景に、ひかりも目を奪われているようだ。

館内は少し薄暗いため、かなり近づかないと顔はよく見えないが、足元から照らされた光が、いつも見慣れたひかりを、神秘的な雰囲気にしていた。


……ひかりって、こんなに可愛かったんだな……。


いつもつきまとってきて、ちょっとウザい後輩だとしか思っていなかったひかり。

そんなひかりと手を繋ぎ、デートしているというのが信じられない。

ぼーっとひかりの横顔を見つめていると、ひかりの顔が見る見る赤く染まり……。


「先輩……あんまり見られると……恥ずかしいっす……」

「あっ、えっ、な、なんでわかって……!」


えっ、なんで今ひかりを見ていたのがバレたんだ!?

と思ったのだが、どうやら水槽に、じっとひかりを見る俺の姿がばっちり映りこんでいたようで、バレバレだったようだ。


……ん? 何で今、俺はひかりを見つめていたんだ……?


「先輩、そろそろ次行きませんか?」

「そ、そうだな……」



――――今日の俺は、どうやら本格的におかしいようだ……。


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