ん? 今可愛いって言いました?
結局、昨日は途中から眠ってしまい、勉強会は有耶無耶になってしまった。
帰る前、日向が顔を真っ赤にしていたが……俺は何かしてしまっただろうか?
ううむ、全く記憶にない……。
そして、今日は日曜日。
土矢に言われた、デートの日、になるのだが。
「陽愛ちゃん今日も可愛いね、ちょっと出かけてくるよ」
「はいはい、ひーちゃんによろしくね」
今日のことを、土矢から聞いていたのか。
まぁ、この二人は親友だから、そういう話をしてもおかしくはないかな。
「ふっふっふっ、兄よ、楽しみにしておくといい」
「昨日言ってたこと? なんかしたのか……」
「ま、色々とね。それと兄に、これを渡しておくよ」
と、封筒を渡してくる。なんだ……?
「それは、今日『あっ』と思ったときに開けるんだよ? きっと役に立つから」
「……今見ちゃダメなの?」
「絶対ダメ」
「わかった、ありがたくもらっておくよ」
「帰り、アイスね」
「了解、それじゃ行って来ます」
「楽しんできてね」
* * *
(あれ……そういえば、土矢と二人で出かけるのって、初めてか……?)
今日は、陽愛ちゃんのコーディネートに従い、いつもはつけないワックスで髪を整え、
Iラインシルエットを意識した、少し大人のシンプルな装いをさせられていた。
そして、こんな格好で土矢と会うのは、今までになかったことだ。
制服、もしくはジャージ以外で土矢と会うのは、小学生以来かもしれない……。
待ち合わせは駅前の時計台、約束は10時。
陽愛ちゃんに言われるがまま、少し早めの15分前についたのだが……。
(こんなに早く来る必要あったのか……?)
なにぶん、朝から異性と出かける、というのが陽愛ちゃんとのお出かけは
別カウントとして、はじめての体験なので、もはや不安しかない。
早すぎる男は気持ち悪く思われないか? いや、土矢だから大丈夫か……?
陽愛ちゃんの指示どおりに動いているが、よく分からない。
……そう考えると、ふと疑問がわいてくる。
『そういえば、朝に陽愛ちゃんに渡されたのってなんだったんだろう』
と。
土矢が来る前に中を見てみよう、と封筒を開けると、そこには……。
『もしものときに。絶対これを使ってね!』とのお手紙と、これは……極う……。
「陽愛ちゃん!!」
何を……何をしてるの!?
兄は陽愛ちゃんをそんな風に育てた覚えはありませんよ!?
ていうか、こんなの使うわけがないだろう……っ!
……これは土矢に見つかるわけにはいかないな、うん。
一発で変態扱い確定だよ……。
「――――何見てるんすか?」
「えっ……」
「おはようございます、センパイ!」
振り返るとそこに、美少女がいた。
いつものポニーテールをおろし、薄く化粧をし、
フレアスカートにオフショルダーのトップスをあわせた、意外と大人っぽいコーデが、少し幼い雰囲気のある土矢の顔とのギャップとなり、物凄い破壊力になっている!
「お……つ、土矢……か?」
「? はい、ボクですが?」
「ちょ……ちょっと待ってくれ……」
こいつは土矢、こいつは土矢、こいつは土矢……と心の中で何回も唱える。
だってさ……土矢なんだぜ……!?
「昨日、陽愛ちゃんに色々教えてもらったんすけど……」
くるっ、とその場で一回転すると、スカートがふわっと広がって……。
見慣れているはずの土矢の生足がですね……生足が……!
「これは、陽愛ちゃんに助けてもらって、よかったっすかねぇ~?」
わずかに頬を染めながら、ニヤニヤとこちらを見てくる土矢と目が合う。
くそ、調子狂うな……!
「ちょ、調子乗るなよ土矢……ちょっと可愛くなったからって……!」
「へ、へぇー……センパイ、ボクの事、可愛いと思ってるんだ……」
「おい、顔が緩んでるぞ、戻せ戻せ」
顔をむにむに、と揉んでいるが、まったく戻っていない。
なんだよその嬉しそうな顔……。
「センパイも、今日はオシャレしてきてくれたんですよね……にひひ、似合ってますよ!」
「あ、ああ……それならよかった……」
「あ、センパイ照れてるっすね! 可愛い所あるじゃないですかー!」
「う、うるせーよ! ほら、行くぞ土矢」
と、歩き出そうとしたのだが……。
「あ、センパイ……今日はひかり、って呼んでもらえませんか……?」
「な……なんで……?」
「だって、今日はセンパイと、初めてのデート、ですから……」
と、少しうつむき気味に、顔を真っ赤にしながら、そう訴えてくる。
ちょっと待ってくれ。
なんだこの生き物は。
俺の知ってる土矢じゃない……!?
さらに、右手をにぎにぎしながら、ちらちらとこちらを見てくる。
これは……あれか……。
「……手、繋いでほしいのか?」
「だ、だって、デートですから……」
「……分かったよ。ほら……ひかり」
「あ、ありがとうございます……にひひ」
土矢……ひかりの小さな手を、包み込むように握る。
前も一度握ったが、その女の子らしい手の感触が、じわじわと俺に
『ひかりは女の子だ』という事実を突きつけてくる。
「……にひひ……今日は離さないでくださいね!」
「出来る限り、な」
「はいっ」
その顔は、今まで見たことがないほどに真っ赤に染まっており……。
俺も、恥ずかしさを隠すように、あさっての方向を見ながら、歩き出したのだった。
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妖怪ポイントよこせである。
今後とも可愛い幼馴染を書けるように頑張りますので、よろしくお願いいたします!




