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side:土矢 光 その1

 膝枕をしたセンパイの髪をすきながら、思う。

ああ……ボクはやっぱり、センパイが好きだなぁ……と。

胸が、センパイへの愛しさで溢れていく。

こうしているだけで、胸のドキドキが止まらない……。



 最初にセンパイを好きだと思ったのはいつだったか、

今となってははっきりとは覚えていない。

気付いたらもう好きだった、としか言いようがないからだ。


初めて会ったときから、かっこいいお兄ちゃんだなぁと思ったことは覚えている。

ボクは一人っ子だったから、こんなお兄ちゃんがいていいなぁと、

陽愛ちゃんを羨ましく思ったものだ。



 センパイは昔から、走るのがとっても速かった。


運動会ではいつも1位、リレーでもアンカー。

何回、センパイの逆転劇を見たかも知れない。

そのたびに夢中になって、センパイを応援していた。


私にとってセンパイは、憧れ、だった。


中学に入ったセンパイが、陸上部に入ったと陽愛ちゃんから聞いたときは、

やっぱりセンパイは陸上部に入ったんだと思ったのと同時に、

そんなセンパイを一番近くで見るために、絶対ボクも陸上部に入るんだ!

……なんて不純な動機で、小学生のくせに早くも陸上部への入部を決めていたんだから、今となっては笑えない。


中学入学までの間、必死になって走る練習をしていたーなんて、

センパイには絶対言えない。

そんな事を知られたら、恥ずかしくて死んでしまう……。

陽愛ちゃんには、念のためもう一度口止めしておこう。




 そんなセンパイの側には、いつも同じ人がいた。


伊月 日向さん。


センパイの家のお隣に住んでいる幼馴染だって、陽愛ちゃんから聞いていた。

この前は初対面のような顔をしていたけど、ずっと知っていた。


ずっと、あの人はセンパイの隣にいたから。

ずっと、ボクはセンパイを見ていたから。


正直、センパイは伊月さんが好きなんだろうなぁ……と落ち込んだこともあった。

だって、伊月さんは物凄く可愛らしい人だったから。

でも、ある時から、センパイの側からあの人の姿が消えた。

センパイの口から、あの人の名前が出る事も徐々になくなっていった。


……ボクは諦めなくてもいいの? 頑張ってもいいの?


それからは種目もセンパイにあわせて800mを選び、練習も同じにしてもらって。

放課後だけは、常に一緒にいられるようにした。

放課後だけでもいい、ちょっとでもボクを見て欲しかったから。

……ボクも、センパイを一番近くで見ていたかったから。


それでも、センパイがボクを女の子として見てくれることはなかったけど。


中学生になってから、少しずつ女性として成長しだして、男の子からも好意を寄せられることが増えてきたのに、センパイはそういう目で見てくれなくて。

もしかしてセンパイは男の子が好きなのでは!? なーんて思ったこともあった。

センパイにそれを言ったら、頭をはたかれた。

女の子に手を上げるなんて酷いと思いますよ、センパイ!!



 センパイが中学を卒業してからの1年間は、灰色の中学生活だった。

とはいえ、センパイと同じ高校に進学するために、とにかく勉強を頑張らなければいけなかった。

先生にはレベルを落としたほうがいいのでは? と言われたけど関係ない。

センパイと同じ学校に行けなければ、ボクには何の意味もないんだから。


こうやって勉強してる間も、センパイは頑張って走ってるんだろうなぁと思うだけで胸が暖かくなったし、一緒に走っているところを想像するだけで、顔が熱くなった。


……陽愛ちゃんには乙女かよ、と笑われたけど、好きなんだから仕方ないよね?


センパイの側にいられる未来を想像しているだけで、その時のボクは幸せだった。



センパイが練習中に大怪我をして病院に運ばれた、と陽愛ちゃんから聞いた、あの日までは。

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