閑話 ロニアの冒険譚 ⑭
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ロニアは絵画を専門とする学芸員として王宮に勤めているのだが、代々、美術に関しては造詣が深いルオッカ男爵の要請とあれば、少しくらい仕事に融通をきかせて貰えるようになっている。
アンティラ伯爵の肖像画を描き終えているはずの画家が逃亡をしたということで、セヴェリ・ペルトマを探すために駆り出されることになったロニアは、すっかり日が暮れ切った時刻に憲兵隊の駐屯所を訪れることになったのだ。
王宮勤めのロニアは王宮の敷地内にある寮で住み暮らしているのだが、二人を出迎えた軍部の人間らしき男が、
「すでに日も暮れていますし、シグリーズル女史はロニアさんが滞在する寮の客室に滞在出来るように手配しておきますね」
と、女性のように麗しい顔に輝くような笑みを浮かべながら言い出した。
その女性のように麗しい顔の男に、虫ケラでも見るような眼差しを向けたシグリーズルは、
「それじゃあ、しばらくの間は待たされるってことになるってわけだね?」
と、言い出すと、
「なるべく早く手続きが終わるようにしますが、ご了承頂ければ幸いです」
と言って、待合室のような場所から画家のセヴェリを連れて出て行ってしまったのだった。
「なんか・・軍部の人ってもっと男臭いというか、もっさりした筋肉質の人が多いと思ったんですけど・・」
ロニアが小声となって隣に座るシグリーズルに囁きかけると、
「あいつは情報部の人間だよ」
小さな老婆はショールを巻き付けながら瞳を細めて言い出した。
「どうやら憲兵隊だけで処理できるような話じゃなくなっているみたいだね」
「そうなんですか?」
ちなみにロニアは『情報部』と言われてもどんな部門なのかよく分かっていないし、
「何かの情報を扱うのかしら?だから筋肉ムキムキでなくても大丈夫なのね?」
と、そんなことをぼんやりと考えている。
駐屯所の中にある診療棟には遺体を安置する場所も設けられているということで、瓶詰め状態の赤鬼(腐乱死体)はこちらの方に運ばれることになったという。
しばらくして戻って来たオルヴォが、やっぱり発見されたのは踊り子サファイアの遺体だったということを教えてくれたし、遺体の発見現場に画家のセヴェリが訪問をしていたという事実を教えてくれた。
画家のセヴェリはスランプに陥るとヤスペルの誘惑が食べたくなる。隣に住むシグリーズルおばあさんのグラタンでは納得することが出来なかった為『ジルの定食屋』へ向かったのだとロニアは考えたのだが、
「いや、そうじゃなくて、ジルの定食屋の近くに踊り子サファイアのお姉さんが住むアパートがあると考えたものだから、セヴェリはそのアパートまで行って、サファイアの安否の確認をしようとしたと言うんだよ」
画家のセヴェリは最初からグラタン目的であの場に赴いたのではなく、サファイアの姉に彼女の安否を確認するために向かったということらしい。すると、
「その姉の家とやら、別の人物の持ちアパートじゃったんだろ?」
と、意地悪そうな笑みを浮かべながらシグリーズルが言い出した。
「ええ〜っと」
言い淀むオルヴォをうっすらと白濁した目で見上げたシグリーズルは、ハンッと鼻で笑うと、
「どうせオムクスなんだろう?」
と、椅子に背を預けるようにしながら皮肉な笑みを浮かべて言い出した。
「最近、私らの間で噂になっていたんだ。どうも、自分の持ち家ではない場所にオムクス人が住み着いているみたいだってね」
「ええ?つまりはどういうことなんですか?」
ロニアの問いに、シグリーズルは小さく肩をすくめながら言い出した。
「私ら北の部族は王都の下町にその多くが住み着いているんだが、オムクス人にだけは警戒を怠らないようにしているんだよ」
それは何故かと言うのなら、オムクス人は、ラハティ人が北の部族民を蔑みの対象にしていることを熟知しているからだという。
「奴らはいつだって、私らと王国の人間を対立させたいと考えている。出来れば内戦にまで持っていって貰いたいと考えているし、武器の供与を提案されたことだって一度や二度のことじゃない」
十年前にもオムクスの間諜は、北の部族民がラハティ王国に対して武装蜂起をするように企んだ。王国軍との本格的な衝突となる前に事件は鎮火することになったのだが、ラハティ王国を陥れるためなら何でもやるというのがオムクスなのだ。
「だからこそ、私らはオムクス人を見かけるだけで警戒するようになる。そりゃオムクス人の中にも無害な人間は居るだろうが、有害だろうが無害だろうが、こちらが近付かないに越したことはない。だからこそ、オムクス人が住み着いたらその場所を仲間同士で共有するようにしているんだ」
「奴らは空き家を無断で利用するようなことを行なっているということですか?」
「必ずそうとは限らないし、中には金を払って短期の賃貸契約をしている者もいるようだが、やっぱりオムクスだったんだろう?」
オルヴォは自分の短い髪の毛を掻き回しながら、
「そうです、オムクスです」
と、言い出した。
「最近、劇場前広場周辺で売春斡旋が盛んに行われていたのですが、小遣い稼ぎで売春行為をしていた女性の中には、針子を本業としている娘が多かったんです」
オルヴォはここだけの話にして貰いたいと言い出した。
「どうやら売春を斡旋しているのが殺されたサファイアの姉であり、その姉はおそらく、何処かのメゾンを経営しているみたいで・・」
「その姉って奴がオムクスの手先ってことなのかね?」
と、シグリーズルの問いに、
「恐らくそうだと思います」
と、オルヴォは答えている。
人が次々と殺されていくような推理小説を読んで、犯人を推理するのがロニアは大好きなのだが、昔、恋人を殺されたことを恨みに思って犯行に及んだだとか、昔、妹を殺されたことを恨みに思って犯行に及んだとか、そういう話では決してなく、
「隣国のオムクスが出て来ちゃうのね、それだとスパイ小説みたいなものなっちゃうんじゃないかしら!ジャンルが違い過ぎて、そういった小説は今まで読んだことがないわ!」
と、ロニアが思わずぼやいていると、
「スパイ・・スパイねえ」
シグリーズルが胸の前で腕を組み、瞳を細めながら沈思した。
「オムクス人のスパイ、捕まえられるかもしれないよ?」
「え?どういうことですか?」
「最近、我々部族民がスラムの殺人に関わっているんじゃないかという噂が流れているんだが、その噂の出所の一人がオムクス人だったんだよ」
シグリーズルは舌なめずりようにオルヴォを見上げると、
「その情報、喉から手が出るほど欲しいだろう?」
と、言い出したのだ。
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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