閑話 ロニアの冒険譚 ➉
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憲兵隊に勤めるオルヴォは、子沢山の男爵家に生まれたロニアとは、それこそ両足で掴まり立ちをする前からの付き合いとなるのだが・・
「なあ、オルヴォ、今日こそ付き合えよ」
「そうだよ、そうだよ、最近可愛い娘が揃っているんだって」
「憲兵隊として未だにチェリーはどうかと思うぞ?」
「今日は俺が奢ってやるから!なあ!」
ぽっちゃりして、ふっくらして、可愛らしいロニアに操を立てているため、
「いや、俺は行かない!」
と、断固として友人からの誘いは拒否し続けていたのだ。
軍に所属する人間は筋骨逞しい男たちが勢揃いとなっているものだが、そういう奴らは女性で欲を発散するのがだ〜い好き。地方に配属ともなれば、直属の上官が二人も三人も愛人を囲っているのは当たり前。
周りには女性に対して奔放な人間が多いのだが、
「いや・・いやいやいや、俺はぜーったいに!誘惑には乗らない!」
と、断固拒否し続けていたオルヴォなのだが、
「オルヴォ、お前のその身持ちの堅さを信用して、特殊任務についてもらうことになる」
直属の上司となるヴィクトル・ダールに声をかけられることになったのだ。
見上げるほどに背が高くて、昔の戦闘中につけられた傷跡が顔に残る。見るからに猛者といった風貌のヴィクトルは、女たちが見たら涎を垂らしそうなほどの色男を連れて来て、
「ラハティ王国軍第三十八部隊所属のミカエル・グドナソン少尉だ。君はこれから憲兵隊員として働きながら、グドナソン少尉の手足となって動いてもらうことになる」
と、オルヴォに向かって言い出した。
ちょうどその頃、スラム街では不審な娼婦の遺体が複数発見されることになり、どうやら殺された娼婦たちは『軍人専門』と言われるほど軍人相手に商売をしていたし、甘い声で囁きながら軍部の情報を引き抜くようなことも行っていたらしい。
「オルヴォ君、君のことは話に聞いているよ」
女のような美しい容姿をした少尉はオルヴォと握手をすると、
「是非ともそのまま婚約者に操を立て続けてくれたまえ。いやはや、君のような身持ちの硬い男がこれほど貴重になる世の中が来ることになろうとは、全く思いもしないことだよ」
と言って、はっはっはと笑い出したのだが、
「えーっと、俺は婚約者なんかいないんですが・・」
オルヴォは完全なる片想い状態となっているため、ロニアとの婚約や結婚話など欠片ほども進めていなかった。
プロポーズするにも子沢山の実家に仕送りをしている関係で、なかなか金を貯めることが出来ない状態なのだ。結婚なんて夢のまた夢というような状況だということは自分でも十分に理解してはいるのだが、
「君、今回の作戦は君にとってもチャンスなのかもしれないよ?」
と、少尉はにこりと笑って言い出した。
「我が第三十八部隊の手伝いをするということは、危険手当、残業手当は手厚くサポートするということになるからね!」
ちなみに憲兵隊にも危険手当、残業手当というものは出るには出るのだが、スズメの涙ほどの金額にしかならない。
「プロポーズするには宝石が入った指輪の一つも必要になるだろう?買えちゃう、買えちゃう!そんなものは簡単に買えちゃうほどお金が入ることになるから!」
「本当ですか?」
オルヴォとロニアはそれこそ掴まり立ちする前からの付き合いとなるのだが、オルヴォが成人を迎えて以降も、二人の仲をちっとも進展させることが出来なかった原因は金にあると考えている。
「オルヴォ、第三十八部隊の手伝いが出来るということは我が方としても誉と言っても良いのだが、何か少尉に対して条件を付けるというのなら今しかないぞ?」
上官のヴィクトルに後押しをされたオルヴォは、
「自分は休みも返上で働くのは構わないんですが、ルオッカ男爵から手伝いを望まれることがあったら、可能な限り、そちらに時間を割きたいんです」
と、言い出した。
「こいつはルオッカ男爵に大恩があるし、こいつの好きな女の子っていうのも男爵の娘になるんですよ。こちらでも、急に休みになった隊員の穴を埋める代わりに、令嬢の護衛を任されるようなことがあれば、そちらを優先してもよいとしているんですけどね」
「憲兵隊は随分と自由な労働環境なんですね!」
少尉は驚きを隠しきれない様子でいると、
「こいつはそれだけ働きますし、仕事の優先順位を間違えるようなこともしません」
と、ヴィクトルは断言するように言い出した。
「それに、画廊を営むルオッカ男爵に関わっていると、意外に貴重な情報が手に入ることもあるんですよ」
少尉はしばらく考え込んだ後、
「いいでしょう。オルヴォ君は基本的には憲兵隊の中で働くことになりますし、いつ休暇にするかということは、よっぽどのことがない限り意向に合わせていくことに致しましょう」
ということになり、娼館には通ったこともないし、胸を張って自分の身綺麗さを主張することが出来るオルヴォは第三十八部隊のお手伝いに入ることになったのだった。
「お〜い!オルヴォ!お前、ロニアさんの護衛のために休暇を取ったと思ったら赤鬼(腐乱死体)を発見して、その赤鬼を放置したまま何処かに逃亡したと思ったら、赤鬼の関係者を連れて帰って来るなんて」
直属の上司であるヴィクトル・ダールは、オルヴォの首を脇に挟み込んで締め上げながら言い出した。
「しかも、しかも、人道家として有名な婆さんまで連れて来て、お前は今ここで、北の民族かオムクスか論争でも始めるつもりなのか?」
今日は待望の男爵家からのお声掛かりがあったため、連勤続きだったオルヴォは仕事を休んでロニアの護衛に行ったはずだったのだが、その途中で赤鬼を発見。その赤鬼を同僚に丸投げしてとんずらしたはずなのに、しおしおと駐屯所まで帰って来たのである。
しかも、しかも、護衛の相手であるロニア嬢だけでなく、画家のセヴェリ・ペルトマと、北の部族の代表的存在であるシグリーズル女史まで連れて来ているのだ。
「いや、自分だってまさかこんなことになるとは思いもしませんでしたよ!」
当初の予定では、ロニアと一緒に行方不明となった画家を探すだけの話だったのだ。ロニアは逃亡した画家を捕まえるのが得意なため、画家を拘束したら速やかにロニアとデートをしようと考えていたオルヴォは、うんざりした様子でため息を吐き出していると、
「ああ!なんてことだ!サファイア!僕のサファイア!」
閉め切られた扉の向こう側からセヴェリの悲痛な声が聞こえてきた。
ここ最近、不審な遺体は全て中央広場の近くにある憲兵の駐屯所に集められることになっているため、劇場広場近くにある家の床下から発見された遺体もここに運ばれて来ているのである。
瓶詰めとなった女性の遺体をその目で見たオルヴォは、瓶に入れられた女性の髪が鮮やかな赤色だったため、もしかしたらとは思っていたのだが、やはり発見された遺体は踊り子サファイアのものだったのだろう。
「そういえば、お前、好きな娘に告白するって言ってなかったか?婚約の為の指輪も購入したと聞いていたが、渡すことは出来たのか?」
急に上官からそんなことを言われたオルヴォは、憤慨した様子で言い出した。
「出来るわけがないですよ!そんな余裕は全然なかったんですから!」
「赤鬼を放置したのに〜?」
揶揄いながらヴィクトルはオルヴォを見ると、
「くれぐれも少尉の前では女の話はしない方が良いぞ」
と、警告するように、
「少尉ときたら、最近、自分の婚約者に全く会うことが出来ないみたいで、鬼のように不機嫌になっているからな!」
そんなことを言い出したのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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