閑話 ロニアの冒険譚 ①
本編がこれから佳境へと進んでいく前に、箸休め的に閑話を挿入させて頂きます!
一日おきの更新となりますが、お楽しみ頂ければ幸いです!!
ルオッカ男爵の娘であるロニアは小柄でふっくらした体型の、亜麻色の髪の毛を三つ編みにした見かけは平凡そのものの女の子。
兄もいるし、弟もいるし、姉が二人もいるロニアは多額の持参金が必要になる他家への嫁入りは早々に諦めることにして、絵画の修復師として王宮に出仕する道を選ぶことにしたのだが・・
「ちょっと待って!ちょっと待って!あのクソ画家!今日が締め切りだっていうのに!逃げたってことになるのよね!」
ルオッカ男爵が経営する画廊でロニアは悲鳴に近い声をあげていた。
これはロニアが友人のマリアーナへの余計なお節介から余計な事件に巻き込まれていく前の話であり、箸休めとしてお楽しみ頂ければ幸いです。
「ちょっと待って!ちょっと待って!アンティラ伯爵は自分の肖像画を待ち侘びているような状況なのよね?だというのにあの男、仕事を放棄して逃げたというの?」
「そうなのです!本当に困っているんです!あとはもう、お嬢様の勘だけが頼りの状態だと言えるでしょう!」
画廊の従業員である年寄りのカレヴィはハンカチで自分の涙を拭う真似をしながら言い出した。
「若い者を探しにやったのですが、全く見つかる気配もないのです。このまま見つけられなければ我が画廊の信用は失墜してしまうことでしょう」
「はあー・・うんざりだわ・・本当の本当にうんざりだわ・・」
大陸の南西に位置するイブリナ帝国が内政に力を入れるようになったことで、現在、帝国では芸術および学術の革新運動が盛んに行われているような状態だ。帝国は美術の復興に力を入れることになったのだが、周辺諸国もまた流行に乗り遅れまいと考え、芸術への投資を惜しみなく行うようになっている。
流行に乗り遅れた田舎国などと決して侮られたくないラハティ王家としては、国として絵画の購入にも力を入れているし、それに感化されるようにして多くの貴族が価値ある絵画を購入することに躍起になっているようなところがある。
ロニアの家は曽祖父の代にその芸術性が認められて爵位を賜ったという新興貴族であるのだが、こと芸術に関しては一家言持っていると言っても良いだろう。
そこで考えたのは、
「こんな辺境の国、片田舎の国、北の端っこの国と呼ばれるラハティ王国に、貴族たちが求める量の帝都の一流品を運んで来られるわけがない。帝都発の資産価値のある美術品についてはしばらく王家が独占するような形として、平貴族の間では他の流行を巻き起こさなければならないだろう」
ということで、まずは『帝国でも流行の、まずは自分の肖像画を揃えるというところから始めませんか?』運動を始めることにしたのだった。
冬が長くて夏が短いラハティ王国では、春ともなれば爽やかな初夏の渓谷や、爽やかな初夏の海岸などの風景画を飾り、冬ともなれば温もりを感じる暖炉の前に集まる人々だとか、暖炉の前で編み物をする妻の絵だとかを飾ることを好んで行っていたのだが、
「肖像画・・」
という発想が平の貴族の間では無かったのだ。肖像画とは偉い人々(王家とか公爵家とか)の専売特許だと思っていたし、伯爵以下の人々が自分の肖像画を描かせることは、上の身分の人(高位の貴族家)に対して失礼だという考えが定着していたのだが、
「後の顔を合わせることもない子孫たちに先祖がどのような人物だったのかを知らせる為にも、肖像画は非常に有用であろう」
と、国王陛下が言い出したため、ラハティ王国に肖像画ブームが巻き起こることになったのだった。
ただ単に、
「今のところは資産価値がある絵画については、王家が独占する形が最良かと思われます」
と、絵画の仕入れを任されたルオッカ男爵の言葉に乗っかる形となったのだ。国王陛下の言葉を真に受けた貴族たちがこぞって肖像画を注文し始めたことから、ラハティ王国にも文芸復興の波が押し寄せてくることになったのだ。
ただし、宗教画や風景画ばかり描いてきた芸術家たちが『肖像画』を描き始めることになったことで、人気の画家と二度と呼ばれることがない画家というものが出てくるようになってしまった。
風景画を今まで描き続けてきた画家が突然『肖像画』を描けと言われてうまくいかないのとの同じように、宗教画家に今すぐ『肖像画』を描いてくれと言ったところでうまくはいかないものなのだ。
「私の顔がコレ?」
と、言われることになるし、
「私の顔はこんな顔ではないわよ!」
と、クレームを受けることにもなるわけで、画家と貴族の橋渡し役を担うことにもなったルオッカ男爵は、早急に派遣する画家を選別する必要性を感じることにもなったのだ。
結局、肖像画を描くのに必要な才能は、
「ある程度はぼやかして、美しく描ききる器用さよ!」
と、ロニアが宣言する通り、ある程度はぼやかして虚飾に虚飾を微妙に散りばめる稀代の画家セヴェリ・ペルトマに人気が集中することになってしまったのだ。
そのセヴェリ・ペルトマがアトリエから逃亡をしたということで、急遽ロニアが呼び出されることになったわけだ、
「セヴェリが何故、逃げ出したのか理由が分からないわけではないけれど・・」
大金を積まれる形でアンティラ伯爵の肖像画をセヴェリは描くことになっていたのだが、アンティラ伯爵は樽のようにお腹が突き出た手足が短い男であり、しかも悲しいことに頭髪が非常に薄くなっているアバタ顔の男なのだ。
いくらセヴェル・ペルトマが器用すぎるほど器用で、虚飾に虚飾を絶妙に散りばめられる稀代の画家(詐欺師)だとしても、アンティラ伯爵を絶対的な権力者、英雄、勇者、威風堂々といった感じで描くというのは無理があるかもしれないのだが・・
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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