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「ねえ、ねえ、リューディア、聞いた?」
「あなたのお友達のマリアーナ、あの男勝りのマリアーナよ!彼女、カリチューリソフィアホテルで男性とランチをしていたのですって!」
「自分は生涯、独身で良いなんていう風に言っていた癖に!」
「男性とソフィアホテルでランチよ〜!」
「うっそ!あそこのランチ、予約が一年待ちだというじゃない!」
「そうなのよ!私は一年待っておばさまと一緒にランチに行ったのだけれど、そうしたら、男性にエスコートされて個室に入っていくマリアーナ様を見たというわけ!」
「自分は生涯を学問に捧げると言いながら!」
「やっぱり見かけ通り、男性関係が派手なのよ〜!」
交流関係が広い私は、気分転換に我が家よりも格上である伯爵家繋がりで集まった令嬢たちのお茶会に参加をしたのだけれど、聞き捨てならない話ばかりで目眩を起こしそうになっていたわ!
「ま・・ま・・マリアーナに・・男!」
「そうなのよ!」
「やっぱり見かけ通り尻軽だったのよ!」
それなりに裕福な伯爵家の令嬢であるというのに古代文字という全くよくわからないものに傾倒し、挙句の果てには学芸員として王宮に勤めることになったマリアーナは、世間一般の令嬢たちから激しいやっかみを受けているの。
彼女は見た目は派手な美人なため、
「男に苦労しなそう」
「男たらし」
「浮気三昧」
と、勝手なイメージを付けられるのはいつものこと。
派手な美人で王宮勤めということも相まって、
「生意気」
「偉そう」
「私たちを常に馬鹿にしているみたい」
という誤解ばかりを受けている。
実際のマリアーナは他人の悪口なんか一切言わない、純朴、素朴で男性経験なんてゼロもゼロだということを私は知っているのだけれど、
「ソフィアホテルのランチって!一体どういうことなのかしら!私!今すぐにマリアーナのところへ行って確認してくることにいたしますわ!」
と言って立ち上がったの!
なんなのよ!カリチューリソフィアホテルのランチって!一年待ちの豪華ランチに誰とどういった目的で行ったのよー!
王都の繁華街に馬車を走らせた私は、官吏や芸術員として働くレディたちが好むお菓子を大量に購入すると、王宮の裏に面する果樹園のそのまた奥にある萌葱色の女性専用寮に向かって裏門から歩いたのよ。
萌葱寮には寮母さんもきちんと居て、一人暮らしをすることになったレディたちのサポートなんかもしてくれるのよ。王宮で働く侍女やメイド用の寮はまた別にあるのだけれど、萌葱寮は男性と肩を並べて働く女性たちが利用する一段格式が高い寮なのよね!
エントランスから入って一階部分に談話室があるのだけれど、マリアーナはいつでも談話室の奥にある階段から自室に向かうことになるので、談話室で待っていれば仕事帰りの彼女に会うことが出来るでしょう。
用意したお菓子を談話室のテーブルに並べていると、仕事から帰って来たレディたちが喜びの声をあげているわ!寮母さんも談話室に腰を据えてお菓子に舌鼓を打っているのだけれど、彼女たちの話を綺麗にまとめてみると、マリアーナったら私が知らない間にモテ期が到来しているのね!
「総務のマグナスさんがマリアーナさんのことを・・」
「それを言ったら司書のファレスさんだって!」
まあ!まあ!羨ましいにも程がある話じゃない!
ラハティ人は噂が大好きなのは間違いないのだけれど、レディとお菓子が揃っていれば、間違いなく話の輪に花が咲くことになるのよ。
我が家は鳴かず飛ばずの貧相な子爵家なのだけれど、こうやって情報を入手する方法は子供の頃から仕込まれるの。レディを相手にする場合には、
「まあ!私は全然知りませんでしたわ!」
と言って聞き役に徹していれば、相手はどんどん話を追加してくれるのよね!
もちろん私だって話の持ちネタがないわけではないわよ。なにしろカステヘルミが『一妻多夫』なんていう強烈なワードを私にぶち込んで来たのですもの。
「あの一妻多夫っていう話は聞きました?」
「あの後、私、被害者となる女性から話を聞く機会がありましたのよ!」
「ここだけの話なのですけれど」
女性はここだけの話が、涎が垂れるほど大好きなのよ。
ここだけの話と言いながら、決してここだけの話にならないところは了承済みよ。
ラハティ人は、
「ここだけの話」
「ここだけの話よ!」
と、言いながら広めていってしまうものなの。
でも良いの。私も広めて欲しいと思って言っているし、ここで噂が広まれば広まるほどカステヘルミが楽になるのは間違いないのですもの!
日が少し傾いた頃に、寮母さんから情報を貰えれば良いかな程度の気持ちで萌葱寮に到着した私なのだけれど、日が沈みきる頃には談話室に二十人近くのレディたちが集まってしまったわ!確かに『一妻多夫』の話は面白すぎるものね!これだけでスープとパンが何杯も進むことになるもの!
無害そのものに見えるただの子爵家の令嬢である私が、才女と言われるレディたちに埋もれるようにして情報収集をしていると、
「ようやっとマリアーナが帰って来たわ!」
と、一番扉に近い場所に座っていたレディが大声をあげたのよ。
マリアーナったら流石はモテ期到来の女ね!小さな花束を二つも抱えて登場したのだけれど、送別会でもないのに何故、花束を持っているのかしら?それも二つ?何故なの?しかも一人ではなく二人で帰って来ているわ。隣に立つのは男爵令嬢であるロニア様じゃない?ということは!マリアーナの恋物語を別方向からも聞けるっていうことじゃない!
「マリアーナ!あなた!モテてモテて仕方がないって本当みたいね!」
ソファに埋もれるように座っていた私のことに気が付いていないみたいだったので、私は勢いよく立ち上がりながら言ってやったわ!
「しかも!予約を取ろうと思っても一年待ちのホテルでランチをしたっていうのでしょう!どんなイケメンとランチをしたのよ!白状なさい!」
「リューディア!」
私の名前を呼んだマリアーナは手に持っていたバッグと花束を床にポトリと落としたのよ。
「リューディア!本当にあなたなの!」
まるで生き別れていた親と対面したみたいな大袈裟な驚き方をしたマリアーナは、ソファから立ち上がった私に飛びつくようにして抱きつくと、
「リューディア!あなたに会いたかったのよ!だけど、だけど、忙し過ぎて会いに行く暇がなかったのよ!」
と、言い出したのよ。
「私に会いに行く暇はなくても、カリチューリソフィアホテルのランチに行っている暇はあったようね!どんな男がマリアーナを誘ったのよ!なんで私に言ってくれないのよ!」
「あなたのおじさんよ!」
マリアーナは私の両肩を掴むと、前後に激しく揺さぶりながら言い出したのよ。
「あなたのおじさんと一緒にカリチューリソフィアホテルのランチに行ったのよ!」
「まさかおじさん、本気でマリアーナのことを・・」
え?あのおじさんが?なんでなの?だったら私をまずは誘うべきじゃないの?
私の脳裏は疑問と怒りで埋め尽くされることになったのだけれど、
「ランチに行ってからというもの!私の生活は地獄に突入よ!」
と、非常に大袈裟なことをマリアーナは言い出したのだけれど、地獄って何?ホテルのランチを食べて天国だったんじゃないのかしら?
「あの・・その・・ちょっといいですか?」
そこで背が高いマリアーナの陰に隠れるようにして立っていた男爵令嬢であるロニア様が言い出したのよ。
「確かに地獄で、確かに悲惨だったのだけれど、とにかく部屋に戻って一息ついてから話を聞いた方が良いと思うのよ」
非常に意味深なことをロニア様は言い出したのだけれど、
「「「「マリアーナ!どいつと付き合うことにするか決めた暁には私たちにも教えてよね!」」」」
と、談話室に集まったレディたちが声を揃えて言い出したのよ。
何よ!何よ!何よ!地獄に突入とか言っているけれど!幸せに突入している感じじゃないのよ!
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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