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劇場通りにあるメゾン・ナザレノ・ティコリは、帝国の最先端と言われるデザインを取り入れたドレスが作れるとあって、貴族の間では話題のメゾンだったのよ。
大陸の南方に位置する広大な領土を持つイブリナ帝国なのだけれど、先帝の時代から内政に力を入れている関係で、華やかな文化と技術の発展の地とも言われているの。帝都ではお金がじゃぶじゃぶと動く関係から、芸術家に流れ込むお金も多くなるということで、芸術・学術の革新運動が起こっていると言っても良いでしょう。
絵画や彫刻だけでなく、服飾デザインの発信の地とも言われていて、帝国のデザインは流行の最先端を作り出していると言っても過言ではないわ!そんな訳で、帝国から地理的に遠くなるほど、帝国への憧れが物凄〜く強くなる傾向にあるのよ。
ラハティ王国なんて見てみなさい。大陸の北に位置する関係で冬は長いし夏は短いしで、南方に位置して気候も温暖な帝国はまさに憧れの地!生きている間には一度は帝都に行ってみたいと思いながらも、あまりに遠すぎるのでなかなか行くことなんか出来ないのがイブリナ帝国の帝都なのよ。
そんな憧れの帝国でデザインされるドレスをラハティに持ち込んだのがエルマ・リスベッズというマダムなのだけれど、ラハティのメゾンというメゾンがマダムを真似して、今では帝国式のドレスを作っているような状況ね!
多くのメゾンが追随している形となるのだけれど、やっぱり、流行の最先端はナザレノ・ティコリだっていうことで、ミカエルのお母様もマダムのメゾンでドレスを作っていたのよ。そのマダムと大人の恋をしていたと噂されているのが、私の婚約者であるミカエルよ?
「おじさん、ミカエルはもしかして・・隣国オムクスのスパイだったということじゃないかしら?」
私の名探偵としての勘が冴え渡り始めたわ!
「私の婚約者のミカエルは、メゾンのマダムと出来ていた」
おじさんの部下が用意してくれたお茶とお菓子がセッティングされていたのだけれど、お茶も飲まずに私はその場から立ち上がったわ!
「メゾンのマダムは、ハチミツみたいに甘ったるい、女性からの人気も高いミカエルのことを格好の鴨だと思ったのに違いないわ」
考えをまとめるためには、部屋の中をぐるぐる歩いたほうが集中出来るみたい。
「おじさんはマダムが売春婦を斡旋していたというけれど、体を売るのはなにも女性だけという訳ではない。高位の貴婦人相手に情報を抜き出すために、男性だって体を売っていたかもしれないじゃない」
いつだって女性をメロメロにしてしまうミカエルは、マダムにとっては使いやすい駒だったに違いないわ!
「そうしてマダムの下で働くようになったミカエルは、美人で清楚な花のようなエリーナさんをメゾンで見初めてしまったのよ。惚れっぽい彼はエリーナさんとの偶然の出会いを演出するために、彼女の妹が働く花屋へと出向き、偶然の出会いを演出した」
やりそう、やりそう、あの男だったら平気でそういうことをやりそうだわ!
「そうしてお気に入りの女性が、いくらマダムの差配とはいえ売春をすることなど到底許すことが出来なかった。そこでミカエルは、エリーナさんに売春から足抜けするように迫ることになったし、エリーナさんに売春をやめさせるために妹のジェニーさんまで動かそうとしたのだけれど、エリーナさんに売春をやめられては困るオムクス側がエリーナさんのハートを射止めるために、ミカエルよりももっと素晴らしい男前を送り込んだのよ!」
ありそう!ありそう!本当にありそうなことじゃない!
すると、ソファにだらけた様子で座っていたおじさんが大きなため息を吐き出しながら言い出したのよ。
「ミカエルが売春をやらされているエリーナ嬢に惚れて足抜けさせようとしたとして、それじゃあ何でエリーナ嬢はマダムをひと突きにして殺そうとしたのかね?」
「それはあれよ!ミカエルは甘ったるい男だから、あっちの女性、こっちの女性と声をかけるのはいつものことじゃない?そもそも、最初はマダムと付き合っていたというのに、エリーナさんにすぐに気移りしちゃうし、そんな調子だから他の針子の女の子にも惚れちゃっていたのかもしれない。そんな多情なミカエルが原因で騒動が起こり、そこでスパイ活動が明るみになったら困ると判断した上の人間が、まずはマダムとエリーナさんを排除した」
私はぴたりと足を止めて、自分の唇に指先を当てながら瞳を細めたわ!
「そういえば、最近、ミカエルの姿を私は全然見ていないもの。もしかしたら彼は、すでに死んでいるのかもしれない!」
すると、おじさんだけでなく、今まで黙って私の推理を聞いていたオリヴェル氏まで噴き出すようにして笑い出したのよ。
「ちょっ・・ちょっと〜!笑うなんて失礼じゃないですか〜!」
すると、何かのツボに入ったのか、ひたすら大笑いするおじさんが、目尻の涙を拭いながら言い出したのよ。
「ほらみろ、ちょっと会わないだけでこんな推理を披露されてしまうものなんだ。お前は自分の妻とどれだけ顔を合わせていないんだ?相当な日数になるだろう?なあ?」
俯きながら笑っていたオリヴェル氏がおじさんの言葉でギクリといった感じで体を硬直させているわ!
「私は一妻多夫を応援します。面白えことを言い出すものだと思ったが、今のリューディアの推理を聞いていて思ったわ。女は放置しておくと、何を言い出すか分からねえ生き物だっていうことをさ!」
落ち込んでいるわ。本当に、見ず知らずの人間でもすぐに分かっちゃうほどオリヴェル氏が落ち込んでいるわ。
「一妻多夫とは言いますが・・母上やユリアナは何かの誤解だと言っておりますし、花嫁の面倒はきちんとみるから何の心配もないと送り出してくれたわけで・・」
おじさんが私の方を振り返って、人差し指で自分の頭の横をくるくる回して瞳を細める。こいつは頭おかしい、と、言いたいのでしょうけれど、おじさん、これが公爵家の男性の特徴らしいですわよ。サラ様も言っておりましたもの。公爵家の男性たちは盲目的にパウラ夫人やユリアナ嬢を信じ込んでいるって。
思わずおじさんとほぼ同じタイミングでため息を吐き出すと、扉をノックしたおじさんの部下が顔を覗かせて言い出したのよ。
「ハーク男爵御夫妻が到着いたしました」
「ハーク男爵夫妻ですって?」
私は思わずおじさんの方を振り返りながら問いかけちゃったわよ。
「ハーク男爵夫妻って、あのハーク男爵夫妻?」
ソファから身を乗り出すようにしてこちらを見るおじさんを見ながら、思わず声が震えてしまったわ!
「鉄鋼の天才と言われるイザベル夫人と、夫人のためだけに商会を立ち上げ、あっという間に富豪と言われるまでにのしあがったダビト・ハーク氏が、何故いらっしゃっているのかしら?」
今では天才と言われるイザベル夫人を見出したのがカステヘルミなのだけれど、機密がどうのでなかなか話を聞くことも出来なかった人物なのよ。そんなカステヘルミは最近まで、ハーク夫妻と一緒に帝国まで行っていたのよね!
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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