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我が国ラハティ王国は北方に位置するとっても寒い国なんだけど、そんな寒い国の更に北には、海にぷかぷか頭を出す形でアザラシが泳いでいる。我が国の中央から北に追いやられた部族は海でアザラシを狩猟したり、渡り鳥なんかを捕まえたりして食料としているんだけど、このアザラシを使った加工製品を我が国は作って売っていたりするわけです。
そんな北の部族が、
「こんな生活やってやれるかー!」
と言って武器を持って立ち上がりまして、これを鎮圧するために王国軍が動きました。北の部族は非常に伝統的な暮らしをしている人々なので、武装蜂起したと言っても、
「奴らが持っているものなんて、弓とか槍とか、そんな程度のものなんだろう?余裕!余裕!」
と、かなり舐めた状態で北に向かったわけなのですが、
「あれ、これ、思ってたのと違うか〜」
と、当時の司令官は思ったわけですね。
北の部族が武装蜂起したけれど、弓とか槍とかナイフとかだけでなく、彼らはきちんとライフル銃なんかを装備していたわけですね。
しかも、北方の複雑な地形を熟知している彼らの奇襲作戦は王国軍を苦しませる形となった為、
「あれ・・これ・・思ってたのと違うな〜」
と、みんながみんな、思いだしたわけです。
パッと行ってパッと制圧出来るはずだったのに意外なほどに思うようにいかず、そうこうしている間に、殺された兵士たちの内臓が抜き取られるようなことが続くようになり、
「蛮族どもが!」
「絶対に許せない!」
「皆殺しだー!」
と、大騒ぎになったんですね。
何十年も前であれば、皆殺し、ああ、ある、ある。くらいの反応を周辺諸国はしていたとも思うのですが、今の時代にそんなことをやったらば、
「民族弾圧!」
「人権侵害!」
「ラハティ王国って野蛮な国じゃな〜い!最低〜!」
と、言われちゃうでしょう。
皆殺しにしろと主張する兵士たちと、世論を考えた末に自分の進退も絡んでくる案件に悩んでしまった司令官は、
「これも経験だから、お前に差配を任せよう!」
と、最年少の将校様に丸投げすることにしたわけです。
今、目の前に座っているオリヴェル氏は、将校の中では一番最年少だったんだけど、上官に責任を丸投げされた人でもあるのよ。まあ、私はこの人と直接顔を合わせたのはカステヘルミの結婚式が初めてだったのだけれど、戦地で噂は色々と聞いてはおりました。
「当時の関係者が限られている中で、君の意見は非常に貴重だということを言っておこう」
オリヴェル氏はそう言って、何でも気が付いたことがあれば言ってくれと言い出したのだけれど、この人、また誰かに押し付けられる形でこの事件の責任者にでもなっちゃったのかしら?
「リューディア、参考までに意見を聞きたいだけなんだ。お前は十年前の遺体も実際に見ているから何か引っ掛かるものがあるんじゃないかと思っただけだから、あんまり気負わずに答えて欲しいんだ」
おじさんが懇願するように言い出すので、私は思わず、咳払いを二度ほどしてしまったわ。
「私、医者でも何でもないので、あくまで気が付いたという点でしか言えないのですが・・」
オリヴェル氏の部下がメモ帳とペンを取り出して構えているわ。はあ〜、本当の本当にうんざりする〜。
「北の部族が巨岩信仰を信奉していたというのは有名な話ですし、遺体に石を詰め込むのは儀式みたいなものなのだそうです。だからこそ私たちは、当時、石を詰め込まれた遺体を見て部族の人たちにやられたのだと思い込むことになったんです」
そんなことは周りの男たちも十分に理解していることなので、私はそのまま話を進めることにする。
「当時、北の部族の族長の家に行くことがあったので、参考までに尋ねてみたんですよ。殺された兵士たちは男ばかりだったので引き抜かれたのは腎臓ばかりだったけれど、女性の場合はどうなるのかって。そうしたら、族長は女性の場合は子宮を取り除いて石を詰め込むようなやり方をするのだと教えてくれました」
彼らは女性の場合、どんな臓器が選ばれるのかは知らなかったみたいね。
だからこそ、エリーナさんが腎臓を引き抜かれるのはおかしいことだと気が付かなかったみたい。
「子宮を取り除く場合、下から引っ張り出す方法もあるため、一応確認をしてはみたんですが、子宮はきちんとお腹の中にありました。最大の屈辱を与える行為として、下から石を詰め込むこともあるのだそうですが、そのような形跡も残されてはいませんでした」
エリーナさんは腎臓を抜き取られた上で、石ではなく古代文字を記した紙を詰め込まれていた。
「遺体を傷つけ、内臓を引き抜き、その内臓の代わりに他のものを詰め込むのは北の部族が行う風習のようにも見えるのですが、今回の場合は、腎臓ではなく子宮が引き抜かれるべきだったのです」
向かい側の席に座る二人は深く沈思した後に、
「今回は腎臓が抜かれて紙が詰め込まれていたわけだけど、石は一つも詰め込まれていなかったんだよな?」
オリヴェル氏の質問に、
「ああ、今回の遺体には石の一粒も遺体に突っ込まれていやしなかった」
と、おじさんが答えている。
そこでメモを取っていた、見るからに部下っていう感じの人が、私の方に優しげな笑みを浮かべながら言い出したのよね。
「それで、ご令嬢、どうでしょう?その他にも何か気になることはありましたでしょうか?」
「そうですね〜」
私は思わず自分の顎を指先で撫でながら考えちゃったわよね。
「切り開かれた場所は針と糸で縫い付けられていたわけですけれど、今回は医療用のメスではなく、ナイフを利用されたのだと思います。十年前もなんで医療用メスが使われているんだということで騒ぎになりましたから、今回はそこの部分は配慮したということになるのでしょう」
十年前の兵士たちから臓器が抜き取られるという犯行は、北の部族による犯行ではなかったのよ。北の部族がやったと見せかけてこちらの怒りを煽り、王国軍が大虐殺をするように仕向けたということでしょう。
それが、
「この切り口、医療用ナイフによるものみたい〜」
という私の一言で、大虐殺にストップがかかったのは間違いない事実。
仲間の遺体を損壊されたということで、優秀なおじさんでも頭に血が登って切り口の鋭さに気が付くことが出来なかったのよね。だからこそ、子供の意見が軍を止めるきっかけになったという、歴史的にみてもあり得ない展開になったのよね。
「過去の失敗を反省して、今回はナイフを使ったのかどうかは分からないけれど、やっぱり北の部族が関わっているんだぞと主張したかったのは間違いない事実でしょう。だからこそ、わざわざ遥か昔に北の部族が使用していた古代文字なんてものを利用しているし、縫い口もわざとらしいほど大雑把に縫い付けている。その縫った場所からわざわざ紙をペロンと出しているのも非常に悪質なのだけれど・・そこで糸よ・・糸」
「「「糸?」」」
「そう、糸ですよ!糸!」
私はポカーンとする男たちの顔を悠々と眺め渡してやったわ!
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
モチベーションの維持にも繋がります。
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