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ラハティ王国には北辺でアザラシを狩っている部族が居るんだけど、この部族は元々、ラハティ王国の中央に一大勢力を作り上げていたような人達なわけ。
彼らは巨岩信仰という石の神様を信仰しているような人々であり、彼らが祭壇として使用していた場所には大きな石が幾つも置かれていたわけです。
南からやってきたラハティ人はですね、中央に勢力を広げていた部族だけでなく周辺の部族もあらかた追い払って王国を作り上げたわけですが、彼らが信仰に使っていた大きな岩を砕いて神殿の礎として使用することにしたわけです。
今、王家の宮殿がある場所も昔は族長が住み暮らしていた場所というわけで、祭壇なんかもあったわけですね。もちろん大きな岩もゴロゴロ、これを城塞の一部として使用しているんですから追いやられた部族はラハティ人に対する大きな恨みを持つことになったでしょう。
部族が信仰する神聖なる祭壇があった場所にラハティ人は、自分たちが信じる神を祀る神殿を作ったわけですが、そんな神殿の地下から発見された古文書というものが北に追いやられた部族が残したもの。古代文字で記された神聖なるものとなるわけですね。
この古代文字を解読出来るのが友人のマリアーナというわけですが、マリアーナは遺体から取り出した血まみれの紙を見てくらりくらりと足をふらつかせたものの、両足を踏ん張って大きく息を吐き出したのよ。
「おじさん、解読するのにわざわざ遺体がある場所でしなくても良いんじゃないかしら?」
「確かにそうだな」
このまま続行していたら、幾ら気丈なマリアーナでも失神するのは間違いないでしょう。そんな訳で私たちは遺体が置かれた部屋から医師が利用する面談室へと移動することになったのよ。
「うっぷ・・うっぷ」
「マリアーナ、気分が悪かったら別に解読なんかしなくても良いのよ?そもそもあなた、今現在、お仕事をお休み中じゃない!」
「確かに、職場に泥棒が入って職員は自宅待機中になっているけれど、そんな私がわざわざ名探偵について外に出て来たのはこれが理由だったのかもしれないじゃない!」
「え?理由?どういうこと?」
マリアーナはハンカチで自分の口を押し当てながら言い出したのよ。
「名探偵には必ず助手が一人ついているものだけれど、特技を持つ人間が助手となって推理を進める為の助言を与えていくという作品も多いのよ」
「推理小説の話を言っているのね?」
「昨日はメゾンのマダムが後ろからひと突きされて殺されて、今日は今日で花屋のジェニーのお姉様が殺されているのよ!」
「ああ、そうね」
「そこで、私たちは殺されたお姉様の遺体を調査しに行くことになったのよ!全くの赤の他人のご遺体だっていうのに調べに行くことになったのよ!これはもう!小説の展開そのものじゃない!」
「うっ」
「私ったら推理小説を読んでいて思ったのよね。主人公は随分と前に前に出て行くけれど、元々、全然関係ない存在だったよねって。親族でも何でもないのに随分と前に出て行くなって。だけど、だけど、実際にこんなことが起こったら『名探偵』は前に出て行っちゃうものなのよ!」
「ちょっと待って!ちょっと待ってよ!」
私はここで衝撃の事実に気が付いちゃったわ。
昨日、マダムの家に出向いたのは私の意思だし、その次の日には中央広場にある花屋で働く女性店員に会いに行くと決めたのも私の意思だけれど、いつの間にか何だかよく分からないものに後押しされる形で前に、前にと進んで行ってしまったのよ。
「そもそも!マリアーナが私のことを『名探偵』とか言い出すからこんなことになっちゃったんでしょう!考えてみたら殺されたエリーナさんは私の婚約者の恋人であって、私の親族でも何でもないわけよ!だというのに!何故!私はここに居る訳?」
「それは下手な医者にご遺体の検分をされるくらいだったら自分が見た方がまだマシだとリューディアが言い出したわけで」
「私、そんなこと自分から言った?自分から言いましたっけ?名探偵だからまずは遺体を見に行かなくちゃみたいな風に押し切ってなかった?」
「名探偵だったらやっぱり率先して動かないと!」
「おじさんが知らぬ間にうちのリューディアは『名探偵』になっていたのか!ヨッ!名探偵!名探偵リューディア!」
「ほら!おじさんまでこんなことを言い出しているじゃない!マリアーナ!どうしてくれるのよ!」
「それはもう、名探偵の助手として古代文字を解読するわよ」
「切り替え早すぎな〜い?」
私たちはお医者様が患者さんやその家族に病気や怪我の状態を説明する部屋に移動して来ていたの。椅子とテーブルしかないような部屋だったのだけれど、そのテーブルの上に置かれた膿盆の上には血まみれ状態の紙が広げられていたのよ。
ご遺体の中に詰め込まれた紙は油紙で包まれていたんだけど、その油紙からわざと紙をはみ出させるような形で縫い付けているんだから恐ろしいわよね。その紙自体にも蝋が塗り付けられていて水を弾くようにはしているのだけれど、文字が滲んでいる場所がかなりある。
マリアーナはその紙に書かれた文字を持っていた自分のメモ帳に記し始めたのだけれど、
「これ、血塗れのものをマリアーナに見せずに誰かに書き写させたものを見せた方がよかったんじゃないの?」
と、即座におじさんに文句を言ってしまったわよ。
そんなおじさんは、メモ帳に文字を写し取るマリアーナに釘付け。マリアーナは赤髪の迫力のある美人だけど、メガネを押し上げながらメモを取る姿は鬼気迫るものがあるのよね。おじさんたら惚れちゃったのかしら?
「リューディア、これは今この時に直接見せて貰って良かったのかもしれないわ」
「どういうこと?」
「紙を広げたことによってインクの滲みが広がっているのだもの。古代文字は非常に複雑なつくりをしているから、細かい部分を観察するには鮮度が大事なの」
「鮮度が大事って・・」
いくら鮮度が大事でも遺体から引っ張り出した直後の紙を広げて眺めるのもどうかと思うわよ。もっと落ち着いた状態で解読した方が良いかと思うんだけど、名探偵の助手としてのプライドを賭けてメモ帳とペンを手に取ったマリアーナは、人差し指で何度も眼鏡を押し上げながら必死に解読を進めている。
私とおじさんは黙ってそんなマリアーナの姿を見守り続けていたのだけれど、そのうち、大きなため息を吐き出したマリアーナが、
「何よこれ、文法がめちゃくちゃじゃない。古代文字舐めてるの?なんて書こうとした?古の文化を舐めている系の人の犯行ってやつ?」
と、憎々しげに言い出したのよ。
「マリアーナ嬢、ここには一体、何が書かれているんだい?」
固唾を呑んで見守り続けていたおじさんが問いかけると、マリアーナはチッと舌打ちをした後に、憎々しげに血塗れの文章を見下ろしたの。
「文字の書き間違いは多いですし、四歳児が文字を習い始めて書いたばかりのようなものですわね」
「それで?何が書いてあったの?」
「文字の間違いが多いからあくまで想定の部分も多いけれど、現代語に書き直すのなら・・『私 お前 花 橋 喜び?出会い 七色 幸せ こら のら のら のら』という感じかしら?」
「えーっと・・」
私とおじさんは思わず目と目を見合わせてしまったわよ。
たて5センチ、横20センチの紙は血で塗れているんだけど、そこに浮かび上がる文字が花で橋で出会って七色って・・
「やっぱり殺しを続けているのはミカエルじゃないかしら?」
私の発言におじさんの目がスッと細められた。
「そのこころは?」
「付き合い始めはいつだって楽しいものだもの。花屋で知り合ったミカエルはエリーナさんとデートをするのにターレス川に掛かる橋を渡ったりしたでしょう。七色の幸せが二人に訪れたけれど、時が経つうちに二人の間には隙間風が吹くようになってしまった。そうしてエリーナさんを邪魔に思ったミカエルがグイッ」
私がそう答えながら首を絞めるそぶりを見せると、おじさんは長い、長いため息を吐き出したのだった。
新年明けましておめでとうございます!
リューディアは本年も推理を頑張っていきますので、最後までお付き合い頂けたら幸いです!!
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
モチベーションの維持にも繋がります。
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