11)
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普通の場合だったらよ?
「ミカエルは私の婚約者なのよ!あなたのような平民なんか相手にしたのは単なる気まぐれ!たまには違う味の蜜も食べてみたいという欲求から、気まぐれ程度で手を出したというだけの話なのよ!」
とでも言うのかしら?
「ミカエル様は私のものなのよ!」
「私のミカエル様に手を出さないで!」
言いたくない、そんなことは言いたくない。
私は見るからに庇護欲を掻き立てる、可愛らしいジェニーを噴水近くに置かれたベンチに座らせると、マリアーナに甘いジュースを買って来るように命令したわ。
「なんで私が?」
「この可愛らしい娘さんが今すぐ元気を出すには甘いものが必要だからよ」
「だけど、なんで私が?」
「マリアーナ、あなた、私の助手なのよね?」
「・・・!」
マリアーナは名探偵の助手として走ったわ。
私たちの会話が気になり過ぎてあっという間に帰って来そうだけれども、マリアーナが居ない間に嫌なターンは終わらせてしまおう。
「ジェニー、あなたに質問があるのだけれど・・」
隣に座っているジェニーは俯いたまま、小刻みに震えながら蚊が鳴くような声で、
「はい」
と、答えたわ。
「あのね、あなたがお付き合いしていたミカエル・グドナソンについて質問したいの」
私の言葉に、うん?という感じでジェニーは顔を上げた。
「ジェニー、貴方はミカエルという男と交際をしていたと思うのだけれど?」
「いいえ!交際していません!ミカエル様と私は交際していません!」
ジェニーはブルブルと首を横に振りながら言い出した。
「そういう質問をされる貴族の方が多いのですが、彼の方と交際をしているのは私の姉なんです」
「あなたの姉?だったらあなたの姉は何歳なの?」
「二十歳です!」
セーフ!年齢的にはセーフ!ミカエルの四歳下ならセーフ!倫理的にもセーフ!
すると、近くの露店でジュースを買って来たマリアーナが小走りになって戻って来たのよ。
「木苺と蜂蜜のジュースですって!甘いわよ!美味しいわよ!元気が出るわよ!」
「まあ!ありがとうございます!」
「礼儀だけは正しいみたいだけれど、ミカエル様の愛人としては・・」
「マリアーナ、ミカエルと交際しているのは彼女のお姉様らしいのよ」
「姉?」
一瞬、キョトンとしたマリアーナは、私とマリアーナでジェニーを挟み込むようにして座ると、
「ちょっと、そこのところを詳しく聞かせてもらおうかしら?」
と言って、アンバーの瞳をキラキラさせ始めたのよ。
それはしつこく残り続けていた根雪も太陽の暖かい光を浴びて全てが溶け切ってしまった頃のことだった。小鳥の囀りも軽やかに聞こえる春の訪れを皆が感じている中で、中央広場に並んだ露天の花屋の花の数も目に見えて増えていく。
王都近くで花を作る花農家から仕入れた美しい花々に人々は目を細め、自宅に飾ろうと手に取る中、
「「あっ・・」」
金茶の髪の男と黄金の髪を持つ女が、ほぼ同時に同じ花を手に取っていたのだった。
「ごめんなさい、私は他の花で大丈夫なので、どうぞそのお花を買ってください」
「いいや、僕の方こそ別の花でも問題ないんだ」
金茶の髪の男は嬉しそうに目を細めながら、
「婚約者に春の訪れを教えてあげようと思って買おうとしただけだから、他の花でも問題ない」
と、言い出した。
「まあ!あなたの婚約者さんはとっても幸せ者ですわね?」
「そうかな?」
照れたように笑う二人は、そこから花の種類について会話が弾むことになったのだった。その日、男は婚約者にプレゼントするための花束を購入して行ったのだが、次の日には花束を選んでくれた女性へのプレゼントを持って戻って来た。
婚約者がとっても喜んでくれたから、そのお礼がしたいと彼は言い出したのだ。
「ちょっと待って!ちょっと待って!ストーップ!」
私はミカエルとジェニーの姉の出会いのシーンを聞いていたわけだけれど、思わずストップをかけてしまったわ。
「確かに・・確かにあの男は春先に花束を購入して私のところへとやって来たわよ。春の訪れを君に教えたくてなんて寝ぼけたことを言っていたのも間違いないわよ。だけどあの男、その後にまんまとナンパに成功したってわけなのね?しかもその女も、相手に婚約者がいるってわかった上で交際を開始しているということになるんでしょう?」
「リューディア!落ち着いて!ここで重要な証言が取れたということになるじゃない!あなたの未来は明るいってことになるのよ!」
「それにしたって、珍しく花束なんて買ってきたな〜と思ったらソレなわけ?本気で引くし萎えるわ〜」
「わ・・私は丁度、その時に店番をしていたので、姉と一緒に花束を作ってあげたんですけれど、その時からミカエルさんは姉しか見えていないって感じでした。だから、私と交際しているというのはデマなんです!」
「ジェニー、あなたがミカエルとは関係ないんだってことは分かったわ!そしてあの男とあなたのお姉様がラブラブだという事実も理解したわ!」
「ラブラブ?かどうかは分かりませんが」
「とにかく状況は理解したわ!だったら、そのお姉様に話を聞きに行きたいわ。お姉様はどこにお勤めなの?今から会いに行ったらまずいかしら?」
「それが・・それが・・」
ジェニーの瞳からは涙がポロポロこぼれ落ちていったのだった。
よくよく見れば、ジェニーの目の下のクマは真っ黒で、顔色もとっても悪いように見えたのよ。
「姉のエリーナは優秀な針子で、元々はメゾンで雇われるような形で働いていたのですが、今は独り立ちしてお客様の要望に合わせて室内着や外出着の製作を行っているんです」
「あらまあ、貴方のお姉様は針子をしていたのね!」
マリアーナは気が付いていないみたいだけど、私の胸の中には嫌な予感だけが渦を巻くように広がっていくわ。
「それで、時々、メゾンのマダムが姉のところへ仕事を持ってくることがあって、そうなると姉は何日も泊まり込みの仕事になるので帰ってこなくなるんです」
ますます嫌な予感が大きくなっていくわ。
「泊まり込みの仕事はお給金は良くても体がキツイらしくって、姉はマダムの仕事はもう辞めたいって言っていたんです」
「そのマダムっていうのは何処のメゾンのマダムだったの?」
私の質問に、ジェニーはハンカチで涙を拭いながら答えたのよ。
「ナザレノ・ティコリのマダムです、名前はエルマさん。とっても綺麗な方なんですが、私のことをいつでも品定めするような眼差しで見てくるのが本当に嫌で・・」
ここでマリアーナは気が付いた様子で目を白黒させているんだけど、マリアーナ、あなたはまだ気が付いていないことがあるみたいよ?
「ねえ、ジェニー、あなたのお姉様のエリーナさんなのだけれど髪の毛はあなたと同じように金髪で痩せ型の美人だったのかしら?」
「そう・・ですね。姉は私よりも背が高くてスタイルもとっても良い人です。メゾンで働いていた時には衣装のモデルのようなこともやらされたって聞いていますし」
「エリーナさんはいつから帰っていないの?」
「昨夜からです、両親もすでに亡くなっているので、何も言わないで帰って来なかったことは今回が初めてで」
「メゾンのマダムのところへ行ってくるとは言っていなかったの?」
「いいえ、そんなことは言っていませんでした」
「だけどエリーナさん、マダムのところに行ったみたいなのよ」
串焼き屋のおじさんが近隣に聞き込みをしてくれたところ、女性が一人、マダムのメゾンの勝手口の方から入る姿を見ているのよ。その女性は一目見て目につくような金髪の女性で、前に針子としてメゾンで働いていた女性だという話だったのよ。
「そのマダムなのだけれど、昨日、殺されたの」
「え?」
ジェニーは目を見開いて固まってしまったわ。
何もかも信じられないといった様子でジェニーは自分の顔を両手で覆うと、
「やっぱりミカエルさんが言っていたことは本当だったんだ!ああ!なんてことかしら!お姉ちゃん!エリーナお姉ちゃん!」
と、言ってわーっと泣き出してしまったの。
私とマリアーナは目と目を見合わせたわ。
なんでここでミカエルの名前が出て来ることになるのよ?
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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