2)
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「ねえ、マリアーナ、今日、私の家に泊まりに来ない?」
「いいわね、私もリューディアの家に泊まりに行きたいと思っていたの」
「今日は心ゆくまで語り合いたいわ」
「そうね、今日は心ゆくまで語り合いたいもの」
「私も語り合いたいんだけど〜!」
カステヘルミの結婚式には多くの友人が参列していたわけなのだけれど、私とマリアーナの隣で、クリスティナ・カネルヴァ伯爵夫人が悔しそうに拳を握り締めている。
「残念ね、今日の女子会に既婚者の参加は出来ないの」
クールにマリアーナが言い放つと、
「いや!いや!私も参加したい〜!私だって参加したい〜!」
クリスティナは体をくねくねさせながら文句を言い出した。
私とマリアーナとクリスティナとカステヘルミの四人は、親が同じ派閥に所属しているということもあって、子供の時から大の仲良しだったのよ。この四人の中で一番年上になるクリスティナが一年前に恋愛結婚した幸せ者で、
「クリスティナ、お腹の中に子供もいるんだから、お泊まりは無理だよ」
と、彼女の夫のドグラス氏がダメ出しをしている。
クリスティナの夫は眼鏡をかけた、見るからに真面目そうな人なのだけれど、鉄道事業に深く関わっていることからも分かる通りの策士タイプの人間なのよ。
絶対にドグラス氏からの一目惚れで始まった恋だというのに、クリスティナが自分にベタ惚れしているから結婚するみたいなスタンスをアピール。だけど、愛する僕の妻(子犬ちゃん)は絶対に離さない。何故なら妻(子犬ちゃん)が可愛すぎるから。みたいな雰囲気をこの眼鏡野郎は全身から醸し出しているのよね。
「でもドグラス!たまには息抜きも必要よ〜!」
「クリスティナ、ダメだよ」
ご主人様がワンちゃんに、ダメ!ステイ!と命令しているように見えるのよ。
「仕方ないわよ、クリスティナ」
マリアーナが赤縁の眼鏡を指先で押し上げながら言い出した。
「お喋りの続きは新婚のカステヘルミを招いて、あなたのお茶会で存分にやりましょう」
「まあ!それは素敵なアイデアね!」
喜びを満面に押し出すクリスティナが、私には幻の小さな尻尾が左右にビュンビュンゆれているように見えるわ。ワンちゃんで例えるならクリスティナはポメラニアンね、絶対に憎めないタイプよ。
迎えに来た馬車へと向かっていくクリスティナ夫妻を見送っていると、マリアーナが、
「ラウタヴァーラ公爵夫人はクセがあるっていう噂を聞いたから、クリスティナからの招待の方がカステヘルミも応じやすいと思ったのよ」
と、言い出した。
「ああ〜、未婚の友人より鉄道事業で二枚も三枚も噛んでいるカネルヴァ伯爵の妻の方が印象良さそうだもんね〜」
「私なんて婚約者も居ないのよ?」
マリアーナは悔しそうに言っているけれど、彼女自身、それほど婚約者が欲しいわけじゃないのよね。リンドホルム子爵家は代々学者を輩出しているような家であり、マリアーナ自身も研究員として大学に勤めているのよ。
「マリアーナは婚約よりも仕事だって言っていたじゃない?」
「確かにそうだけど、この年になったら恋人くらいは欲しいと思うじゃない?」
マリアーナは私よりも二歳年上の二十歳、確かに恋人は欲しくなってくる年齢よね。
「研究所には良い人いないの?」
「無理、研究オタクばっかりで恋人になれそうな人なんていないわよ」
「だけどさ、マリアーナだったらその気になればすぐに恋人なんて出来そうなのに!」
「あらま、嬉しいことを言ってくれるじゃない」
マリアーナは私の頬をぐりぐりつねくりながら、
「栗色の髪にヘーゼルの瞳がキュルンとして可愛らしい、子リスちゃんみたいなあなたに言われるなんて光栄だわ!」
と、言い出したの。
それってつまり、私は相当に子供っぽいってこと?
仲良し四人組の中では一番見かけが子供っぽいのが私だというのは分かるのだけれど、子リスちゃんって!小さくて可愛すぎるじゃない!
「あら、あれってミカエルじゃないかしら?」
公爵家の庭園に設えた結婚を祝うガーデンパーティーは宴もたけなわ状態だったのだけれど、未婚の男女がそれは楽しそうにお喋りしている姿が至るところで見えるのよ。マリアーナがワイングラス片手に指差す方向を見れば、ああ、なるほど、ふわふわとした金茶の髪の背が高い男性が、ピンクブロンドの女と、それはそれは楽しそうに話をしている姿が見えるわ。
「うわ〜お、一緒にお喋りしている女ってピンクじゃん」
「そうね、ピンク頭と楽しそうにお喋りをしているみたいね」
よくよく見てみると、ピンク頭の周囲には、私の(一応、親が決めた)婚約者以外にも、若い男性が八人くらい集まっているの。年若い男どもに取り囲まれているような状態なんだけど、それをラウタヴァーラ家の長男次男が苛立ちを露わにして睨みつけているわ!
「あっ・・カステヘルミったら一人で自分の親族に挨拶しているじゃない!」
視線をちょっと移動させてみると、新婦がたった一人で挨拶回りをしているのを親族たちが温かい眼差しで受け入れているわ!
「なんなのよ、この結婚式は・・」
「最高の結婚式ね!」
私とマリアーナはお互いの目と目で見つめ合うと、思わず同時に頷き合ってしまったわ。
「この結婚式のネタだけで一ヶ月は職場で盛り上がることが出来るわよ」
「本当に!格好の噂のネタよ!」
北方に位置するラハティ王国は、夏ともなれば太陽が沈まない日々が続き、冬ともなれば太陽が姿を現さない日も続く。人が生きていくには厳しいとも言えるような環境で生活をしているというのに十分に満たされていると感じる人の割合が多いのは、互いが支え合って生きていかなければならず、親密な関係を築いているから。
夏ともなれば太陽が沈まないので、女たちは遅くまで外に出て井戸端での会議に花を咲かせ、男たちは外にテーブルと椅子を出してはカードを使った遊戯に夢中となりながらも、度数の高いアルコールをちびちびと飲み、女たちと同じ程度とまではいかないまでも、最近聞いた面白い話とやらをしてまわる。
冬ともなれば家族や親族が集まって、身を寄せ合うようにして生活を送り、皆で暖炉の前に集まってはくだらない話で盛り上がるの。要するにめっちゃくちゃ噂話が大好きな国民性ってことなのよ!
「そういえば、何でこの結婚式にリューディアの婚約者であるミカエルが居るの?」
「知らないわよ、新郎側から招待されたとかじゃないの?」
「普通、婚約者だったらリューディアをエスコートしてしかるべきじゃないの?あ、まさか私が未だに未婚で婚約者も居ないから、今日だけは私にリューディアを貸してあげよう的な感じとか?」
「そんなわけがないでしょう?私は彼がこの結婚式に参加するなんて知らなかったんだから」
「あちゃ〜、それまずくな〜い?」
まずいわよ、本当の本当にまずいわよ。
友人の結婚式に参列するっていうのに、お互いバラバラで出席している上に、披露宴会場でもバラバラで顔を合わせることもなく行動しているのよ?
「うわー、明日にはリューディアたちの婚約もどうなっているんだって取り沙汰されそう〜」
「噂になって流れるでしょうね!」
この国の人間は誰しも噂話が大好きなのだもの。
カステヘルミだけでなく私のこともまた、多くの人の口にのぼることになりそうよね。
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!




