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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第三章 三学期
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第57話 怪しい魂胆

 クリスマス会も終わり、あっという間に新年を迎え、本来なら一人きりの正月も、今年は巧たちと過ごす賑やかなものとなった。

 例年のババアと過ごすだけの正月を思えば、おせち作りなどの労働を伴うものの、何とマシな事か。スカ女のみんなも顔を出してくれ、俺のおせちに舌鼓をうち、そんなみんなを見て、俺も満足だった。


「この黒豆、ふっくらして美味しいわー!」

「煮物も味が染みてて、美味しい!」

「ウチもしーくんに作ってもらえばよかったぁ!」


 ちなみに巧の親父も顔を出し、俺のおせちを食べていった。味は満更でもなかったようで、酒を飲み満足そうに食べてくれたので、素直に嬉しかった。


「おじさん、美味しい?なら良かった!作った甲斐があるわー!」

「おい、忍っていったっけな、お前、オカマのままでいいから、ウチに嫁に来いよ。ウチには女をわすれちまったガキがいるから、ちょうど良いんじゃねえか?」

「何言ってんだよっ!アホかっ、おめー」


 そんな俺たちの見守る中、堀尾くんは一試合目から大活躍を続け、決勝戦で逆転のトライを決めた時、明らかに、巧ー、やったー、と叫んでいた。


「今、言ったよね。巧、やったー、って?」

「言った、言った、巧、どうする?」

「し、知らねーよ。あのヤロー、アタシを呼び捨てするとはいい度胸じゃねーか!」


 まあ、蓋を開けてみれば、小白川たちの皇国大付属の圧勝だったわけだが、堀尾くんは一皮むけたのではないだろうか。

 悪態を付きつつも、照れまくる巧をネタにみんなで盛り上がったりと、楽しい正月だった。

 親父さん、巧も女、捨ててるわけでもなさそうだよ。


 正月が明けてしまえば、3学期の始まりである。何度となくサプライズな仕事をこなしてきた俺たちだったが、3学期最初のサプライズは、お客さんからの1本の電話から始まった。


「セツ姉、ちょっと新しい仕事の件で相談したい事があるから、アタシたちに顔出して欲しいって連絡があったんだけど、今日の午後、時間大丈夫?」

「私は大丈夫よ」

「じゃあ、午後よろしく」


 早速、巧とセツ姉、それと直の3人は打ち合わせに行ったのだが、帰ってきた時の様子がちょっと怪しい。

 俺が、どこの会社?仕事の話どうだった?と話しかけても、何か上の空で、3人でコソコソと小声で相談すると、すぐに皆に集合がかかった。


「作業中に悪い、みんな。ちょっと相談したい案件があるんだ。ちっと手を休めて、カフェミリーズに集合してくれ。あ、忍はいい。作業を続けてろ」

「え、なんで私だけ?」

「ちょっと、女子だけで相談したいんだ。男子は遠慮してくれ。あ、オマエはオカマか。オカマもダメだ」


 何か解せない。未理や美留、中なんかも訝しげにカフェミリーズへ向かった。ちなみに、カフェミリーズは文化祭後、俺たちの憩いの場となり、ミーティング、昼食、打ち上げなど、有効に利用されている。

 

 絶対に近づくなと言われ、1人で作業するのも癪に障るので、久しぶりに校長の顔でも拝んでやろうと、校長室へ行くと、いつもの通りうたた寝をする校長の姿があった。


「あれ、下井さん、珍しいね、どうしたの」

「ちょっと、のけ者にされちゃって、オカマは遠慮しろって。オカマじゃないのに、ヒドイ言い方でしょう?」

「それはヒドイね、何だってこんな可愛い女の子にそんな事言ったんだろう?」

「・・・?え、まあ、おそらく私が男だから・・・」

「えっ、君、男の子なのかい!?まさか!?」

「ちょっとお!先生、ひどいですよ、生徒の性別忘れるなんて!」

「あー、そうか!そういえば、いたよな、確か1学期には男の子。どうしたかと思ってたんだ!そうか、君がそうだったのか!でも、何だって女の子の格好してるのかは知らないけど、君、自分でも男の子だって事、忘れてないかい?言葉もそうだが、仕草も雰囲気も、女の子そのものだよ」

「え・・・そ、そんな事」

「無いって、言えるのかい?」


 ボケてるのかよ、校長!でも、そう思われても仕方ない面もある・・・。思考では男なのだが、周りを気にする余り、学校でも自宅でも女子を意識して振る舞い続けたせいで、今では無意識のうちに女子化しているんだ。

 そういえば最近独り言で、あら、これ素敵ね、とか、普通に口をつく事があったり、男子の格好をすると、むしろ違和感を強く感じたりと、懸念は抱いていたのだ。

 もしかして、このまま自分でも気付かないうちに女子化してしまったりして。いや、それは無い!だって、男に興味あるか、無いぞ、それは。でも、最近女に対して興奮するとか、あったけ・・・?それも・・・無い。いや、多分それは、原因はあいつらだ。あの残念な女子連中のせいで、俺の女子に対する本質的な興味が削がれてしまっているじゃないのか!そうに違いない!!


 どうも、女子だけのミーティングが終わったようで、俺はやるせない怒りを抱きながら、連中の元へと向かった。


「巧!それで、何だったの?仕事の話なら、少しくらい話してくれてもイイんじゃない?」

「あ、ああ、まあな」

「セツ姉!どんな話だったの!」

「えっーと、あ、ごめんなさい、私、三日月ちゃんと話があるんだ」

「なによー!!」


 おかしい!みんな明らかに変だ。未理も直も、美留に至っては恥ずかしそうに下を向く始末。

 到底納得がいかない俺は、巧を捕まえた。


「のけ者にされて説明も無しでは、納得いかないわよ?一体何の話をしていたの?私には話せないような事?私に関係があるの、それとも他の誰か?いいから話してよ。どんな話でも驚かないから」

「うーん、何て話したらいいかなー。オマエはこの学校の仕事に対してどう思ってる?」

「何よ、いまさら。それは最初の頃は学校で仕事って何?って反発してたけど、今じゃ借金返しながらでも、少し報酬がもらえたりして、やりがいは感じてるわ。まあ、私ができる事はまだまだだけど」

「みんなの役に立ちたいとか思う?」

「それは、そうよ!私だって少しはお金を稼ぐ力になりたいと思っているわ」

「それなら話は早いよ!実は今回の新しい仕事には、オマエの協力が不可欠なんだ。何も言わずに協力してくれないか?」

「何も言わずに?」


 ち、ちょっと待てよ!今回の新しい仕事って何なんだ?俺が不可欠って、いかにも怪しいだろう?


「イヤよ!何の説明も無しなんて!」

「じゃあ、イイよっ!アタシは、これはみんなにとって大きなステップになると思う。特に、将来に対してのビジョンとか探る意味でも、良い体験になると思うし。実は、今回の仕事はコーモン先生の所の設備、利用させてもらうつもりなんだ。最新の設備を利用して、最新の技術を体験する。楽しいだろうなー。でも、オマエが協力したくないのなら、結局諦めるしかないのかー」

「何も協力したくない、なんて言ってないじゃない」

「じゃあ、やってくれよっ!」

「ちゃんと説明してくれたらね!」

「わかったっ!オマエには頼まねーよっ!!美留かわいそうにっ!せっかくの機会なのに!」


 わけもわからず逆ギレされ、俺はうやむやの内に、とりあえずトーキオ大研究室には行く事を了承させられた。

 怪しい魂胆が丸見えなのだが、なぜか巧のみならず、みんなの異様な、期待?不安?悲哀?歓喜?その複雑な眼差しに押し切られたのだ。

 最もそれは、大きな代償を生む事となるのが・・・。


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