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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
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第56話 それぞれのプレゼント

 1番は中、プレゼントは未理の財布。


「クロエ・・・、なんだ、これは?」

「中ちゃん、それ、5万くらいするわよ、スゴーイ」

「ひゃー、ぼ、僕にはもったいないよ、な、何を入れればいいんだ?」


 2番は三日月、プレゼントは直の香水。ランバンの香水?直が?


「直、あなたにしては、なんと言うか、普通ね」

「はい。私はプレゼントに対しての概念が皆無でしたので、ネットで調べ、その中から最も常識的なものを選択したつもりです」

「でも、香りって好みあるからねえ」

「えっ、そうなんですか?」

「いや、拙は気に入った。ありがとう」


 中、セツ姉、三日月、美留は、やはり自作の作品がプレゼントで、もらったみんなも大層喜んでいた。

 美留の作ったのは根付?まあ、ようは携帯ストラップみたいなもので、すごく精巧に彫られた、やっぱりというべきか、仏像だった。それは俺の元へと来た。美留は喜んでくれている。しかも、俺のプレゼント、ヒカリエの店員さんに勧められたバスソルトが美留の手に、これにも感激する美留。

しかし、突き刺さるような中の視線が痛い・・・。すまん、中。


「こ、これ、フライスで作ったの?」

「ん」

「ス、スゴイよ。ありえない・・・。あ、ありがとう、大切にするよ」

「・・・忍に・・・美留の・・・嬉しい」


「木本さん、申し訳ありません。私がこんなに素敵なペンダントヘッド頂いてしまって。本当ならば、穴井さんに差し上げたかったのですね?そうなのですね?」

「い、いや、いいんだ。直が喜んでくれるなら、僕も嬉しいよ。僕の魂の3日間・・・。いや、嬉しいよ・・・」


「わぁ、素敵なナイフだねぇ!嬉しいなぁ!未理、いつもバックに入れて持ち歩こうぉっと!」

「ね、ねえ、み、未理に刃物はヤバイじゃないの?」

「い、いや、拙も、まさか林殿の手にわたるとは・・・」

「人格が変わった時、メイタに変わった時に、もしあのナイフを手にしていたら・・・」

「・・・あまり、考えたくないな・・・」


 そして、なぜか涙を拭くセツ姉の姿。


「う、嬉しい・・・私のプレゼント・・・良かった、本当に」


 どうやら、意中の人に自分のプレゼントが渡ったようだ。勿論、泣くほど嬉しい相手は小白川だった。


「スゴイ、格好良いねこれ。阿久根さんが作ったのかい?嬉しいな!明日、花園に行く時、付けていこうかな」

「ありがとう、小白川くん・・・」


 セツ姉の作ったのは、ずばりラグビーボール型のピンバッジ。ラグビーボールに花が絡んだようなデザインで、彫金の技術もあったんだセツ姉・・・。しかし、ピンポイントでプレゼント用意するとは、何と身勝手な・・・。

 しなを作って小白川に寄り添うセツ姉。その胸板に手を沿え、上目使いに小白川を見つめる、涙の浮かんだ瞳。さすがの小白川にも動揺が見て取れる。誰かがゴクリとつばを飲む・・・。


「い、いやあ、こ、これは良くできてるなあ。で、でも、このプレゼントはユウコの手に渡ってよかったなあ」

「本当ですね。この意匠も素晴らしいですね。まるで小白川くんに絡みつく阿久根さんそのものようです」

「バ、バカッ、直、しっ!」


 ギクッとする小白川。そ、そうだよ。これって、セツ姉の呪いじゃねえ?


「ねえ?付けて見ていいかしら?」

「あ、は、はい・・・」


 プツリと小白川のシャツにピンバッチが刺さる・・・。小白川、これでお前、セツ姉に捕らえられたよ・・・。


 残りのプレゼント、小白川のクッキーはセツ姉、巧のTシャツは堀尾くんにと渡った。

 セツ姉はクッキーの箱を抱きしめて、今にも噛り付きかねない勢い。今日はセツ姉にとって最良の日だろう。家の手伝い、けってまで来た甲斐があったという事だろう。


 そして、巧のプレゼントをもらった堀尾君だったが、これが意外な事に喜んでいる。なにせ、そのプレゼントというのがピンク色のブタの絵の描いてあるTシャツ。

 な、何なんだこれ?その悪意があるとしか思えない醜悪なプレゼントに周囲が固まる。

良かった、あんなもの、もらわなくて。全員の目がそれを語っていた。

あんなもの、もらって喜んでいる堀尾君が、むしろ心配だ・・・。


「ね、ねえ、巧、そのプレゼントって一体、どこで買ったの?」

「え?西商店街の店。何?おまえ、欲しくなった?」

「いらないわよ!真剣にそのプレゼント、選んだの?」

「あたりまえだ。自分の欲しいと思うモノを選んだ。なにかヘンか?見ろ!デブオ、あんなに喜んでいるじゃないか」


 まあ仕方ないな、巧だし。結局、みんな、そんな風に納得するしかなかった。

 

そして、何ももらえない上に洗いモノの罰ゲームは、巧に決定した。当然、不満顔の巧。スカ女の功労者とも言える巧には、ちょっと気の毒な結果だが、心配ご無用。

俺と未理は、巧にとっておきの隠し玉を持っていた。


「あーあ、なんだよー最悪だよ。アタシ、洗いモノやだよ。誰だよ、こんな事考えたやつ!デブオ!お前がプレゼント持ってこないから!お前、食器洗うの手伝えよなっ!」

「ダメよ、堀尾くん、手伝っちゃ。これはルールなんだから」


 そんな巧に、未理がそっとプレゼントの包みを持って、近寄っていく。そして、巧の袖をツイと引っ張ると、声を掛け、その綺麗にラッピングされた包みを渡す。


「巧、メリークリスマス。いつもわたしたちのために、ありがとう。わたし、ううん、わたしたち、かな。みんなとっても感謝してるんだよぉ」

「こ、これっ、未理から?」

「ううん、実は巧のパパからなんだぁ。選んだのは、わたしだけどぉ。前にしーくんと一緒の時に会ってぇ、お金預かっていたんだぁ。実はぁ、その余り、料理にも使わせてもらったんだけどねぇ」

「父ちゃんが?なんだよ、アイツ、ラスベガス行ってるんじゃねーのかよ」

「ちょっと、着てみてぇ」

「何だ、これ?」

「ワンピース」

「えっー!?あたしが、ワンピース!?無理無理、似合わないって!」

「そんな事、言わないでよぉ、わたしが選んだんだからぁ」

「・・・し、しょうがねーなー」


そう、あの日、巧の親父に会った時、巧にプレゼントを買って渡してくれと、お金を預かったのだ。その日のうちに未理とプレゼントを買いに行き、残りは料理に使わせてもらった。しかし、あのワンピース。俺もその場に居たのだが、およそ未理好みの可愛らしいもので、巧にはどーだか。

そして、巧が姿を現した。


「うわー。カワイイ!巧ちゃん、とってもカワイイわよ!」

「作田さんとは思えない可愛さですね。見た目というのは洋服で随分変わるものなのなのですね」


 真っ赤な顔で無言の巧。いや、勿論怒っているんじゃない、照れているのだ。わかりづらいけど。

 こんなに照れている巧は初めて見た。そんな巧は、意外と可愛いかもしれない。


「巧、すごく似合うよ。僕たち、付き合いが長いけど、スカート履いた巧、記憶にないなあ」

「バカッ、ユウコ!中学の制服、スカートだろっ!オマエ、見てるはずだぞ!」

「あっ、そうそう巧に一つお願いがあるんだ」

「な、なんだよ」

「さあ、堀尾、自分からいいなよ」


 堀尾君、ピンクの豚のTシャツを照れくさそうに握りしめながら、相当言いづらそうにしていたが、ようやく口を開いた。


「あ、あの、巧さん。お、俺も明日から全国大会なんですけど、そのー、げ、檄を飛ばして欲しいんです、巧さんに!」

「堀尾は中学の頃から注目されてる選手なんだけど、最近、今一つ精彩を欠いていて。僕が見た限りでは、要は心の問題なんだ。堀尾は優しすぎるんだよ。もう一段上を目指すなら、激しさは不可欠なんだ。巧、堀尾を奮い立たせるような檄、頼むよ」


 何となく予期していない展開に、困惑気味の巧。


「ああ、まあ、そういう事なら、頑張ってこいよ、デブオ!」

「違うよ、巧。いつもの調子で」


少し照れくさそうに、頭をかく巧。


「あー、わかったよ、しょうがねーなー!おいっ!デブオッ!!てめー、グジグジしてんじゃねーよっ!今度の試合では、必ず相手ぶっ潰してこい!絶対舐めたマネさせんなよっ、オマエならできるよ、相手を地面にねじ伏せてこいっ!意気地ねープレー見せやがったら、オマエ、一生ただのデブだぞっ!?二度と顔見せる事も許さねー、わかったかっ!!」

「ハ、ハイッ!必ず、巧さんに、トライ、プレゼントしますっ!それが俺のクリスマスプレゼントです!!」


 おおっ、素晴らしい、格好いいぞ、堀尾くん!でも、これって、もしかして告白、じゃないのか?


 しかし、この出来事で場が大きく盛り上がり、パーティーも最高潮。デザートに小白川のケーキを堪能し、クリスマス会は大円団を迎えた。


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