第55話 クリスマス会
クリスマス会、料理は何を作ろうかと、近くのスーパーで色々と物色してみた。買い物には未理に付き合ってもらった。どうやら自分では料理は滅多にしないらしいが、なにしろ金持ち、美味しいものはよく知っている。
俺はと言うと、毎年クリスマスはババアの買ってきたケンタッキーとデイリーヤマザキのケーキを一人で食べるだけ。まあ、クリスマスはお水のババアには稼ぎ時だから、子供ながらに納得はしていたが・・・。
だから今回俺は、最高のディナーを用意してやるぞ!という、かつてない程気概が満ちていた。そして未理とあれこれ言いながら、食材を物色していた時。
見た顔のおっさんが近づいてきた。
「よお!オカマ、未理も、ちょうど良かった」
「巧のパパじゃん、どぅしたのぉ!?」
巧の親父は、どうやら俺たちに用がある様だった・・・。
さて、巧の親父の件はさておき、未理の協力もあって、料理の目処はたった。サラダ、オードブル、メインと用意すればいいだろう。
後は、プレゼントか・・・。一体何をあげたら良いのだろう?高価なものはあげられないし、かといって、みんなと違い、俺は自分では人にあげられるようなモノは作れないし。絶対、三日月はナイフだよな。あれ、売り物になるくらいだし・・・。
「なぜ下井さんに教えなければいけないのですか?そもそも、プレゼントとは、中身がわからないから嬉しいものだ、という事を聞いた事があります」
「タイムマシーン搭乗券、とかは無しよ」
「あ、当たり前です。いくら私とて、そのようなものは考えていません!」
「いやだね。君に教える気は無いよ」
「でも、中は自分で作ったものでしょう?」
「よ、余計なお世話だ!き、君と巧に、僕のプレゼントがいかないように、祈るのみだな!」
みんなに聞いてみても、誰も教えてくれない。まあ、教えてくれなくてもわかるけどね。
でも、それほど力入れなくてもいいんじゃないのか?
それで、クリスマス会当日。その日は2学期の登校最終日だったが、俺は特別に朝だけ顔を出しただけで休みをもらい、すぐに準備に入った。クリスマス会、学校より大事だってか?
時間は午後6時からだが、誰か、せめて1人だけでも手伝ってくれるヤツはいないかと声を掛けたが、みんな準備とやらで、良い返事がもらえない。というか、みな料理が苦手なようだ。
それでも唯一料理をするという三日月が、3時過ぎに手伝いに来てくれる事になった。
会場にする巧のウチは、一階が工場になっていてそこに事務所と、台所がある。相変わらず工場スペースには、所狭しと機械が置かれていたので、事務所にテーブルを置いて会場とした。工場の空いた通路も含めれば広さは十分なのだが、なにせ工場。色気がまるで無いので、仕方なく飾りをつけてみようかと思う。飾りは学校の倉庫の過去の遺物から見つけたものだ。
まあ、それは早めに来た誰かにやらせよう。
メニューはカクテルシュリンプサラダ、オードブルが3品。マッシュポテトとサーモンサンド、デビルドエッグ、きのこのキッシュ。メインがローストビーフともちろんローストチキン。牛も鳥も用意した。量は、なにせ小白川が参加するのだ。2mを超える大男の腹を満たすだけの量は用意したつもりだ。普通では考えられない量だと思う。
後から手伝いに来てくれた三日月が、その質と量に驚いていた。ちなみに今日の三日月はちょっとよそ行き風のワンピースで雰囲気が違う。
「よく1人千円で、これだけ用意できたな」
「まあ、肉は例のコロッケの肉屋さんがサービスしてくれたしね。あと、協賛してくれる人がいて」
巧も三日月が来て間もなく帰ってきたので、飾り付けを任せる事にした。時間も間際になって、みんなチラホラと姿を見せ、料理の配膳などやりながらついに本番スタートとなった。
セツ姉はなんと和服を着てやってきた。家業が家業だけに実に良く似合っていて、結い上げた髪も、そこから見えるうなじも、セツ姉の魅力を存分に表現していた。
巧はセツ姉の手を取って、小指を確認する。
「大丈夫よ、巧ちゃん。あれは、冗談なんだってば」
「セツ姉、やりかねないからなー」
直も文化祭で見せた秘書スタイルでやってきたというのに、中はジーンズにパーカーとまるで普段着。
「パーティーに普段着というのは如何なものでしょうか?木本さんはパーティーを楽しもうという気持ちが感じられませんね」
「い、いや、そうか?これでも僕としては、最高にファッショナブルなつもりだったのだが・・・」
小白川も少し遅れてやって来た。ケーキの準備に時間がかかったらしい。
明日から関西行きで、今日は休みで朝からケーキ作りに没頭していたらしい。隣にいたというのに、一度も顔を見なかった位だから、相当な気合の入れようだ。あいつのスイーツの長年の消費者としては、これは期待できる。
ちなみにプレゼントも手焼きのクッキーらしい。まさか、ラグビー日本代表、柔道でも次回オリンピックの金メダル候補の、あの小白川が、クリスマスにケ-キとクッキーを焼いていたなんて知られたら、日本のスポーツ界に衝撃が走るだろう。
あと、小白川は、以前の事があるのでセツ姉を警戒しているようだったが、セツ姉が和服で拍子抜けするほどおしとやかなので、少し安堵したようだった。これはセツ姉の作戦なのかもしれない。なぜならセツ姉の視線は常にそのターゲットに絞られているのに、俺は気付いていた。
あとサプライズで、小白川のチームメイトの堀尾くんが急遽参加となった。堀尾くんは無理やり小白川に連れて来られたようで、しきりに恐縮していた。
「すいません!突然こんな身内のパーティーに部外者が、プ、プレゼントの事も全然聞いてなくて・・・」
「いいよ、気にするなよデブオ。オマエも屋台手伝ったんだ、身内みたいなものさ」
乾杯はシャンパン風飲料。お酒じゃ無いの?との文句もでたが、聞く耳は持たない。もうアルコールはコリゴリだ。
「いやあ、料理スゴイな。よくこれだけ用意できたな」
「本当、大したものね。確かに忍ちゃん、女子力は高いわー」
「大変おいしいですね。下井さんは、料理の才能があると思います」
「いーえ、経験よ。幼い頃から鍛えられてきたからね」
「いいお母さんだったんだな」
「とっ、とんでもないっ!やらなければ自分が飢るからやっただけよっ!強制的にやらされてたのっ!いいお母さん!?とんでもないっ!」
クリスマス会は、ワイワイと楽しかった。特に共通の話題も友人も無く、ましてや自分の事にしか興味が無いような連中だったが、スカ女という、一つの旗の下に集ってる、という思いと、今までこなしてきた仕事の苦労とか、話す事がいっぱいあるのだろう。
そして、ついにプレゼント交換の時間がやって来た。それに合わせるように未理も到着。派手なパーティードレス、さすがはお嬢様、でも、一体その格好で、どこで食事してきたんだ?
「わぁ、しーくんの作った料理、全部売切れになっちゃたんだぁ、わたしも食べたかったなぁ。ユーコちゃんたちがいたんじゃぁ、しょうがないかぁ」
そう、驚いたことに小白川は、俺の用意した、家畜が食うような料理をペロッと平らげやがった。まあ、堀尾くんもいたしな。
プレゼント交換は、みんなが持ちよったプレゼントに番号を振り、やはり番号を記した紙を箱の中から選ぶというシステム。ちなみに堀尾くんがプレゼント無しだったので、1人だけプレゼント無しの者が出る。その者は使った食器の片付けと洗いモノをするという、徳を積む事がプレゼントという、いわば罰ゲームが待っていた。
これでけは避けたいという緊張感が走る。
俺だって、これだけ作った挙句、プレゼントも貰えず、しかも1人で後片付けなんて、ゴメンだ。




