表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
55/61

第55話 クリスマス会

クリスマス会、料理は何を作ろうかと、近くのスーパーで色々と物色してみた。買い物には未理に付き合ってもらった。どうやら自分では料理は滅多にしないらしいが、なにしろ金持ち、美味しいものはよく知っている。

俺はと言うと、毎年クリスマスはババアの買ってきたケンタッキーとデイリーヤマザキのケーキを一人で食べるだけ。まあ、クリスマスはお水のババアには稼ぎ時だから、子供ながらに納得はしていたが・・・。


 だから今回俺は、最高のディナーを用意してやるぞ!という、かつてない程気概が満ちていた。そして未理とあれこれ言いながら、食材を物色していた時。

 見た顔のおっさんが近づいてきた。


「よお!オカマ、未理も、ちょうど良かった」

「巧のパパじゃん、どぅしたのぉ!?」


 巧の親父は、どうやら俺たちに用がある様だった・・・。


 さて、巧の親父の件はさておき、未理の協力もあって、料理の目処はたった。サラダ、オードブル、メインと用意すればいいだろう。

 後は、プレゼントか・・・。一体何をあげたら良いのだろう?高価なものはあげられないし、かといって、みんなと違い、俺は自分では人にあげられるようなモノは作れないし。絶対、三日月はナイフだよな。あれ、売り物になるくらいだし・・・。


「なぜ下井さんに教えなければいけないのですか?そもそも、プレゼントとは、中身がわからないから嬉しいものだ、という事を聞いた事があります」

「タイムマシーン搭乗券、とかは無しよ」

「あ、当たり前です。いくら私とて、そのようなものは考えていません!」


「いやだね。君に教える気は無いよ」

「でも、中は自分で作ったものでしょう?」

「よ、余計なお世話だ!き、君と巧に、僕のプレゼントがいかないように、祈るのみだな!」


 みんなに聞いてみても、誰も教えてくれない。まあ、教えてくれなくてもわかるけどね。

 でも、それほど力入れなくてもいいんじゃないのか?

 

 それで、クリスマス会当日。その日は2学期の登校最終日だったが、俺は特別に朝だけ顔を出しただけで休みをもらい、すぐに準備に入った。クリスマス会、学校より大事だってか?

 時間は午後6時からだが、誰か、せめて1人だけでも手伝ってくれるヤツはいないかと声を掛けたが、みんな準備とやらで、良い返事がもらえない。というか、みな料理が苦手なようだ。

 それでも唯一料理をするという三日月が、3時過ぎに手伝いに来てくれる事になった。

 

 会場にする巧のウチは、一階が工場になっていてそこに事務所と、台所がある。相変わらず工場スペースには、所狭しと機械が置かれていたので、事務所にテーブルを置いて会場とした。工場の空いた通路も含めれば広さは十分なのだが、なにせ工場。色気がまるで無いので、仕方なく飾りをつけてみようかと思う。飾りは学校の倉庫の過去の遺物から見つけたものだ。

 まあ、それは早めに来た誰かにやらせよう。


 メニューはカクテルシュリンプサラダ、オードブルが3品。マッシュポテトとサーモンサンド、デビルドエッグ、きのこのキッシュ。メインがローストビーフともちろんローストチキン。牛も鳥も用意した。量は、なにせ小白川が参加するのだ。2mを超える大男の腹を満たすだけの量は用意したつもりだ。普通では考えられない量だと思う。

 後から手伝いに来てくれた三日月が、その質と量に驚いていた。ちなみに今日の三日月はちょっとよそ行き風のワンピースで雰囲気が違う。


「よく1人千円で、これだけ用意できたな」

「まあ、肉は例のコロッケの肉屋さんがサービスしてくれたしね。あと、協賛してくれる人がいて」


 巧も三日月が来て間もなく帰ってきたので、飾り付けを任せる事にした。時間も間際になって、みんなチラホラと姿を見せ、料理の配膳などやりながらついに本番スタートとなった。


 セツ姉はなんと和服を着てやってきた。家業が家業だけに実に良く似合っていて、結い上げた髪も、そこから見えるうなじも、セツ姉の魅力を存分に表現していた。

 巧はセツ姉の手を取って、小指を確認する。


「大丈夫よ、巧ちゃん。あれは、冗談なんだってば」

「セツ姉、やりかねないからなー」


 直も文化祭で見せた秘書スタイルでやってきたというのに、中はジーンズにパーカーとまるで普段着。


「パーティーに普段着というのは如何なものでしょうか?木本さんはパーティーを楽しもうという気持ちが感じられませんね」

「い、いや、そうか?これでも僕としては、最高にファッショナブルなつもりだったのだが・・・」


 小白川も少し遅れてやって来た。ケーキの準備に時間がかかったらしい。

 明日から関西行きで、今日は休みで朝からケーキ作りに没頭していたらしい。隣にいたというのに、一度も顔を見なかった位だから、相当な気合の入れようだ。あいつのスイーツの長年の消費者としては、これは期待できる。

 ちなみにプレゼントも手焼きのクッキーらしい。まさか、ラグビー日本代表、柔道でも次回オリンピックの金メダル候補の、あの小白川が、クリスマスにケ-キとクッキーを焼いていたなんて知られたら、日本のスポーツ界に衝撃が走るだろう。


 あと、小白川は、以前の事があるのでセツ姉を警戒しているようだったが、セツ姉が和服で拍子抜けするほどおしとやかなので、少し安堵したようだった。これはセツ姉の作戦なのかもしれない。なぜならセツ姉の視線は常にそのターゲットに絞られているのに、俺は気付いていた。


 あとサプライズで、小白川のチームメイトの堀尾くんが急遽参加となった。堀尾くんは無理やり小白川に連れて来られたようで、しきりに恐縮していた。


「すいません!突然こんな身内のパーティーに部外者が、プ、プレゼントの事も全然聞いてなくて・・・」

「いいよ、気にするなよデブオ。オマエも屋台手伝ったんだ、身内みたいなものさ」


 乾杯はシャンパン風飲料。お酒じゃ無いの?との文句もでたが、聞く耳は持たない。もうアルコールはコリゴリだ。


「いやあ、料理スゴイな。よくこれだけ用意できたな」

「本当、大したものね。確かに忍ちゃん、女子力は高いわー」

「大変おいしいですね。下井さんは、料理の才能があると思います」

「いーえ、経験よ。幼い頃から鍛えられてきたからね」

「いいお母さんだったんだな」

「とっ、とんでもないっ!やらなければ自分が飢るからやっただけよっ!強制的にやらされてたのっ!いいお母さん!?とんでもないっ!」


 クリスマス会は、ワイワイと楽しかった。特に共通の話題も友人も無く、ましてや自分の事にしか興味が無いような連中だったが、スカ女という、一つの旗の下に集ってる、という思いと、今までこなしてきた仕事の苦労とか、話す事がいっぱいあるのだろう。


 そして、ついにプレゼント交換の時間がやって来た。それに合わせるように未理も到着。派手なパーティードレス、さすがはお嬢様、でも、一体その格好で、どこで食事してきたんだ?


「わぁ、しーくんの作った料理、全部売切れになっちゃたんだぁ、わたしも食べたかったなぁ。ユーコちゃんたちがいたんじゃぁ、しょうがないかぁ」


 そう、驚いたことに小白川は、俺の用意した、家畜が食うような料理をペロッと平らげやがった。まあ、堀尾くんもいたしな。


 プレゼント交換は、みんなが持ちよったプレゼントに番号を振り、やはり番号を記した紙を箱の中から選ぶというシステム。ちなみに堀尾くんがプレゼント無しだったので、1人だけプレゼント無しの者が出る。その者は使った食器の片付けと洗いモノをするという、徳を積む事がプレゼントという、いわば罰ゲームが待っていた。

 これでけは避けたいという緊張感が走る。


 俺だって、これだけ作った挙句、プレゼントも貰えず、しかも1人で後片付けなんて、ゴメンだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ