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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
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第49話 美留とのデート

 東大からの依頼に取り組み始めた矢先ではあるが、俺は厄介な案件がある事を忘れてはいなかった。美留とのデートである。未理は巧に、デート許すまじ、と文句を言ったらしく、巧もどうしたら良いかの結論が出ないまま、先送りにしていたのだ。

 

 しかし、美留と約束した、中との共同作業が無事成功した以上、約束は守らないといけないだろう。実際、あのスカイツリーだけで売上が50万を越えているのだから、美留の貢献度は高い。

 大体、デートと言っても、美留相手だぞ?せいぜい遊園地に行って、ソフトクリーム食べるくらいだろう?未理も、それくらい暖かい目で容認してほしいものである。

 しかし、事はそう簡単ではなく、俺と巧は未理に散々脅かされていたらしい。


「巧ぃー!しーくんと美留のデート、わたし、ぜーったい、イヤー!しーくんは、モノじゃあ、ないんだからぁ!」

「恋人を裏切ったりしたらぁ、そんなやつ、死なないと、駄目なんだからぁ!わたしぃ、目、光らせてるんだからねぇ!」


 こ、怖いよ、未理。


「うーん、困ったな、思っていたより未理、強情だよ。オマエがデートの事ばらすからだぞ。オマエ、自分で何とかしろよ!たとえば、三人でデートするとか」

「それは提案してみたわよ。でも、二人とも、聞く耳持たなくて」


 三人デート、一見すると両手に花である。それに、スカ女ミスコン上位3人揃い踏みではないか!しかし、その実は、だんまり少女と豹変娘と女装のオカマとは、なんとも嘆かわしい限りだが。


「しょうがない、秘密裏に決行しよう。当日は、アタシが未理を買い物にでも誘ってみる」


 デート前日。美留には絶対誰にも言わないよう口止めしておいたので、いつもと変わらない金曜日の放課後を迎えたはずだったが、そんな日に限って未理が土曜日の予定を聞いてきた。


 俺と未理は、付き合ってるといっても、それは未理の思い込みというか、実際には毎週末デートをするわけでもなく、せいぜいメールのやり取りをするくらいである。例のナノ事件以来、俺が避けていた事もあり、二人だけで出掛けた事が無かったくらいなのに、なぜ?


「ごめんなさい!明日は、叔母が京都から来るから・・・」

「そっかぁ、久しぶりに、買い物付き合って欲しかったのになぁ・・・それじゃぁ、仕方ないねぇ・・・」


 そんな未理の行動にイヤな予感はしたが、美留が楽しみにしてる様子なので、巧と相談した結果、決行を決めた。


 デート当日、美留の、男子の格好で来てほしい、との希望があり、俺は久しぶりにジーンズにカジュアルシャツという、ラフなスタイルで鏡の前に立ってみた。

 しかし、そこに写ったのは、ボーイッシュな少女か美形のオカマ?まずい!ついつい、いつもの習慣でメイクしてしまった!

 それでも、メイクを落としても、どうしても男らしくは見えない。

 一体、男らしいとは、なんなんだろう?どうしたら男らしく見える?ああ、俺は、そんな事すらわからなくなってしまったのか・・・。


 悩んでいても仕方ないので、出掛ける事にしたが、近所の人に見つからないよう、ヒヤヒヤしながら表へと出た。表へ出たら出たで、ノーメイクでいるのが妙に恥ずかしく、客観的に見ると、モジモジとした変なオカマだ。

 男子として行動するにあたり、こんなに苦労を伴うとは!


 結局、オカマに見えようが仕方が無い。時間も迫ったので約束の場所へ向かった。

 待ち合わせの場所は、地元だと危険なので、あえて隅田川を超えた二つ先の駅にしていた。上り進行方向側のベンチ、まだ待ち合わせ時間の15分前だというのに、そこに美留の姿があった。

 いつもは制服か作業着の姿しか見ていないので、白いワンピースを着た美留は、とても可愛く、そしていつも以上に幼く見えた。

 

「早かったわね?私、時間、間違えてしまったかしら?」

「む・・・言葉・・・女!」


 あっ、まずい。俺は最近ほとんど会話は女言葉なので、下手をすると1人でいる時ですら、女言葉になってしまっているのだ。一応、今は見た目は男なのだ、言葉に気をつけないと、本当にオカマだよ。


「ごめんなさい。気をつけるわ、いやいや、気をつける・・よ」

「ん」

「それで、今日、どこへ行く?好きな所へ行こうよ、今日は美留へのご褒美なんだから。ドームシティでもいいし、としまえんでもいいよ」

「・・・目黒」

「め、目黒?遊園地とか無いよ?ああ、スイーツの店とか?」

「・・・目黒不動尊・・・五百羅漢寺・・・」

「目黒不動尊?まじで?そんな所でいいの?」

「ん」


 よくわからないが、目黒に行きたいらしい。不動尊とか寺って、やけにジジくさいな。寺と美留の組み合わせに違和感を感じはしたが、なにしろ本人の希望だ、俺たちは目黒に向かった。

 そんな時、巧からメールが入った。


=未理が家にいない。気をつけて行動しろ。常に見られていると思い、自覚を持った行動を取るように!=


 一体何の指令だよ!なんで監視されながらデートしなければならないんだ?途中で未理の姿なんて見なかったし、巧が気にし過ぎじゃないか?

 とはいうものの、俺はキョロキョロと落ち着かない様子だったらしく、美留から袖を引っ張られ、怒られた。


「む!」


 けれど、俺はそんな心配をいつまでも続ける必要が無くなった。目黒の駅を降りたらすぐに未理に声を掛けられたからだ。


「あれぇ、しーくん!美留もぉ!どうしたのぉ!?そっかぁー、前言ってたぁ、デートって今日だったんだぁ!あれぇ?でもぉ、しーくんの叔母さんってぇ、美留ってことぉ?」

「い、いや、ち、違うんだ、あ、あの、お、叔母さんが、きゅ、急に来れなくなって・・・そ、それで急遽、今日デートする事に、なったんだ!な、なあ、美留?」

「・・・ん」

「へぇーー?そうなんだぁーー?でもぉわたしぃ、嘘って嫌いなんだよねぇー」


 や、やべえよーー!!どうしたらいい?未理、ちょっと目、怖えーよ!人格が急変したらどうしよう?メイタとか出てきたらどうする?美留置いて逃げられないし、まずいよーー!


「む!」

「なあにぃ?わたしは偶然目黒に来ただけだよぉ?そぉしたら、そこに自分の彼氏が他の女の子といたんだよぉ、そんなの、美留だってイヤでしょう?しかもぉ、わたしには、今日は叔母さんが来るってぇ、嘘ついてたんだよぉ!?」


「ごめんっ!!嘘ついて本当にゴメン!嘘なんてつきたくなんて無かったんだけど、未理を傷つけたくなかったんだ。美留へのお礼は、巧が約束したものだし、美留の希望でもあったので、何とは叶えてあげたかったんだ。巧が構わないと言ったとはいえ、嘘をついた事は謝る!俺と巧が悪い。だから美留に文句をいうのはやめてくれ!」

「・・・未理ごめん・・・でも・・・今日・・・デート・・・楽しみに・・・」


「いいわよぉ!今日のデート、許してあげるぅ。でもぉ、わたしも一緒に行くからねぇ!」

「えっ、し、しかし、未理・・・」

「せっかく目黒来たんだからぁ、カカオエットパリに行こうよぉ!シュークリーム可愛いんだからぁ!」


 俺と美留の困惑もお構いなく、未理はついて来る気満々。俺はそっと巧にヘルプメールを送った。


 =未理が現われた!俺たちは目黒にいる!至急向かってくれ!=


「目黒不動尊・・・行く・・・」

「えっーー!!ケーキ食べたいぃーー!!」

「大日如来・・・」


 正直、ケーキも大日如来もどうでもいい、ていうか、巧、早く来てくれーー!


「しーくん、美留、目黒不動尊行きたいって言うんだけどぉ、しーくんはさぁ、ケーキ食べたいでしょうぅ?」

「ケ、ケーキは大日如来見てからにしようか?ね、そうしようよ!そのほうが、ご利益があって、ケーキもおいしく感じられるよ!」

「そおーかなぁー?」


 そんなわけねーよっ!もう、わけわかんないけど、とにかく事を進めるしかない!


 どうも、美留は仏像マニアらしく、休日はあちこち見に行っているらしい。

 美留が言うには、不動明王の元は大日如来、その二つ同時に見られるのが嬉しいとの事・・・?。

 不動明王の前でも、大日如来の前でも、未理は、早くケーキが食べられますように、とか、ケーキがおいしいように、とか、全く罰当たりなお願いをしていて、周りに聞かれやしないかと、ヒヤヒヤした。


 目黒不動尊の後は、五百羅漢寺、ここには三百を越えるらかんさんがあるらしく、それぞれ違うお顔のらかんさんは、美留の大のお気に入りらしい。

そのらかんさんを拝んでる時、そいつは急に現れた。やっぱ、罰が当たったんだ!


「でも、なんだって私まで、こう仏像ばかり見せられなきゃいけないのさ?」

「えっ?未理・・・?」

「大体、あんたガキみたいなナリして、何が仏像だい?素直にミッキーマウスでも拝んでりゃ良いのさ!ガキは浦安に行きな」

「む!」

「なーにが、む!だよ!赤ん坊じゃあるまいし、言ってる事がわかんないよ!その可愛いお口は、オッパイ飲むだけにあるのかい?」

「・・・仏さま・・・好き・・・悪いっ?」

「悪いなんて言ってないよ。お子様には相応しい場所があるって言ってるんだよ」

「・・・美留・・・お子様・・・じゃないっ!」

「お子様だよ!ちゃんと人の目見て話しな!自分の意見、ちゃんと言えないなんて、お子様じゃなきゃ赤ん坊かい?」

「・・・未理だって・・・自分の事・・・何も・・・わかって無い!」

「赤ん坊のくせに、わかったような事、言うんじゃないよ!」


「ち、ちょっと、二人とも・・・」

「なんだいあんた?ん?もしかして、あんたかい?未理が好きな男って?なんだ、オカマじゃないか!なんだって未理、オカマなんて好きになったんだか・・・」

「忍・・・オカマ・・・違う!」

「へー、あんたも、このオカマが好きなのかい?こんな女々しい男がモテルなんて、世も末だねえ」


 か、かなり酷い事、言ってくれるよな・・・。

 でも、この悲惨な状況に陥りそうな時になり、ようやく巧から連絡があった。


「今、どこ?」

「遅せーよ!今、五百羅漢寺、二人、今揉めてて、ヤバいよ!」

「わかった!すぐ行く!」


 巧ー、何とかしてくれよ!これ、もう未理じゃないよな?ナノでもメイタでもないし、誰なんだよー、もう、勘弁してくれよー!

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