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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
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第47話 突然のテスト

 文化祭が終わり、明けて月曜日、俺は最悪の朝を迎えていた。悪夢にうなされたのだ。


 夢の中で俺は巧に縄で縛りあげられ、ドブ川に投げ入れられようとしていた。助けてくれ、俺の叫びも虚しく、体が宙に舞った瞬間、目が覚めた。目が覚めてた俺は、どうもシーツにくるまれていて、身動きが取れないという事がわかった。

 しばらくもがいて、なんとか抜け出したものの、どうも体が臭い。ドブ川はこの匂いから連想されたのだろう。どうもゲロした後、シーツにくるまれていたようだ。しかも場所は廊下の床に転がされたまま。もう少し思いやりのある方法は無かったのだろうか?


 目が覚めたはみたものの、まだ気持ち悪いし、頭も痛い。周りを伺ってみても誰もいない。みんなは昨日、俺を置いて家へ帰ったのだろう。

 しかし、今日は学校は休みではあるが、片付けがあるので、みんな登校するはずである。昨日の事はよく覚えてないが、どうもイヤな予感がするので先に帰ってしまおうと思ってた矢先、セツ姉がやって来てしまった。


「・・・あら、忍ちゃん、お目覚め?」

「おはよう・・・昨日は、迷惑、掛けちゃた?」

「迷惑?・・・そんな程度の事かしら?」


 えっ?セツ姉の思わせ振りな言葉が不安を煽る。そう、この時点では、俺は、昨晩自分が何をしたか、全くわからなかったのだ。


 そして、みんなが順次登校してきた。


「お、おはよう・・・」

「・・・」


 みんな、俺の挨拶を無視し、冷ややかな視線を送る。そして、最後に登校して来た巧が、無言で冷たい視線を送ってくる。な、何?


「おはようございます、忍さん。お目覚めのようですね?それでは、まずはこの最下位のドブスに、なんなりとご命令を」

「・・・?」


 巧のその言葉を皮切りに、俺はみんなに集中口撃を浴びせられる事となった。


「年増女のエロ話は、もうたくさんなのでしょう?」

「私をエロだけの女との発言、決して看過したわけではありません。場合によっては法的手段に訴える事も考慮しています」

「酔っていたとは言え、あの暴言、絶対忘れないからな」

「あんな屈辱を受けたのは、初めてだ。いいか?次はないぞ?」

「でも、作田さんが受けた迷惑を考えれば、まだ私たちのほうが許容できるかもしれませんね」


みんなの怒りは、どうもマジなようだ。ヤ、ヤバイじゃない?


「わ、私、何をしたの」

「酷い事、無理やり言わせた挙げ句、ゲロ、頭から浴びせたのよ」

「ひぃー!」


 その後、未理から、一連の俺の素行を教えられ、体中から血の気が引いた。いつもより口数の少ない、冷め切った様な巧の態度も恐ろしい。

 ミスの栄光は、一晩の内に失墜してしまったのをヒシと感じた。


 もうアルコールはごめんだ。


 そんな、意気消沈の俺に追い討ちをかけるような事件がおこった。それは、何の前触れも無く、文化祭が終わって2日目の火曜日の事だった。


「えーと、文化祭も終わって落ち着いている時に申し訳ないけど、今日テストやるよ。9月になったら早々にやるように言われていたんだけど、文化祭の件で忘れてたんだよね」


 珍しく校長が朝顔を出したと思ったら、唐突にテストを行う事を発表した。ていうか、今日?


「テ、テストって何ですか?」

「君、テスト知らないの?国語、数学、英語・・・」

「そういう事ではなくて!この学校、授業やらないじゃないですか?なのに、なぜテストを?」

「ここの生徒は、やらないんじゃなくて、やる必要が無い、って聞いてるけど?君たち、優秀なんでしょう?」

「テストって言ったって、実力テストみたいなものでしょうか?」

「違うよ。定期考査。ここは二期制だから、9月と2月にやるんだよ、定期考査。あまり成績が悪いと、落第もあるよ」


 おいおい、聞いてないよっ!冗談じゃない!


 まあ、確かに俺は中学では学年トップを張ったこともある。多少のブランクはあるけれど、まだそこそこの学力は維持できているはずだ。

 でも、巧を見てみろ?未理は?こいつら、どう見ても、勉強、ってタイプじゃないだろう?それを、突然テストだなんて、しかも落第もあるなんて、可哀そうだろう?


「でも、先生!それじゃ、あんまり・・・」

「じゃあ、始めるよー」


 じじい!人の話聞けよ!巧も少し何とか言えばいいんだ!落第してもいいのか?


 仕方なく俺は問題用紙に目をやった。最初は数学か・・・。えっ!こ、これ、難しくない?数列、漸化式と数学的帰納法・・・わ、わからないよ・・・。


「せ、先生・・・、これって数学Bですか?高校数学ですよね?私、習ってないんですが・・・」

「だって、ここ高校だよ?数学Bは当然範囲に入るよ」

「いや、だって、授業もろくすっぽ・・・」


 他の科目もまったく同様だった。習ってないものはできない。どうしろって言うんだ?他の連中ときたら、一心不乱に答案用紙に向かって、とりあえずやってる体ではあるが、実際はどうだか。

 俺も、わかる所は懸命に考え、何とか白紙は避けたが、正直5割に届いたとは思えない。本当に落第なんてあるのか?そもそも落第したって、来年以降、生徒募集する気ないだろう、この学校?

 多くの不安や疑問を抱えながら、5科目をなんとか終えたが、その、突然のテストの結果に俺は戦慄する事となる。


 結果は3日後にわかった。俺は国語62点、数学25点、理科28点、社会70点、英語65点、数理は仕方がない。全く知識のない問題は解けない。他の教科に関しては、何の準備も無い割には上出来だろう。


 まいったね、どうだった?と、何気なく覗いた巧の数学の点数に、俺は目を見張った。


「えっーー!!98点!?う、嘘!?」

「うーん、計算ミスさえなければ満点だったのに。オマエ、どうだった?・・・えっーーー!!25点!?こんな問題で25点って、オマエ、アホか!?」


 みんな、わらわらと集まってきた。


「うわー、これは酷い点だな、特に数理は酷い、こえは落第だな。他も、テストの内容考えれば、最低80%はできてないと」

「まあー、忍ちゃんて、お馬鹿さんだったのねー、意外」

「む!・・・」

「なーんだぁ、しーくんってぇ、頭、パーだったんだねぇ。なんかぁ、未理、ガッカリだよぉ・・・」

「オマエさー、最初偉そうに、自分は頭イイ、とかほざいてなかったっけ?見ろよ、最下位!成績は、オマエ、最下位だよ?サイテーの脳みその、見た目だけのうすっぺらじゃねーか!?ケケッ」


 くっーーー!何という屈辱!三日月は確かにモノが違うのはわかっていた。直も仕方ない、勉強ができる脳みそくらい、神が与えてくれてもいいだろう。

 しかし、巧や未理や美留、あんな、残念そうな連中にも負けるなんて、俺が孤独で辛い中学時代に、必死でしがみついていた勉強で、負けるなんて・・・。


「下井さん。泣いたってダメだよ。数理は赤点。追試するからね。それも成績悪かったら、前期落第しになっちゃうよ?追試は1週間後にしてあげるから、がんばってね」


 失意に打ちひしがれる俺の肩を、巧は、ポン、と叩き、思えば久しぶりに見る、巧得意の不敵な笑みを浮べながら言った。


「まあ、正直オマエに落第されると、アタシたちも何かと不便だ。それでだ、毎朝1時間早く登校して、9時までの2時間を勉強の時間に充てたいと思う。三日月は毎朝勉強してるみたいだし、みんなも多少なりともそんな時間があっても良いかと思うが、どうだろう?」


「いいんじゃない、それくらいの時間」

「僕は正直無駄な気はするな、そんな事は自宅でやるべきだと思う」

「む・・・」

「ま、まあ、美留がそう言うなら、そこのミススカ女さんは自宅では勉強ができないようだし、付き合わないでも無いな」


「いいか?みんな、オマエの頭があまりにお粗末だから、仕方なく面倒見てやろうというんだ。ありがたく思えよ。数学はアタシが教えてやるよ、ったく世話のかかるパーだぜ」


 う、嬉しくて涙がでるよ・・・。俺が、まさか、俺が、こんなヤンキー女に勉強を教わる事になろうとは・・・。

 ここの所、何かとディスられる事が多かった巧は、今はまさに復活、といった様子で、鼻の穴を膨らませている。


 確かに勉強がしたい、とは思っていたが、まさかこんな形で実現しようとは。

 思えば入学当時、頭の悪い連中を教えてやってハーレムを形成する、そんな妄想を描いてもいたのだが・・・。 

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