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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
42/61

第42話 文化祭1日目その4

 懸念していたよりも来場者もたくさん来てくれ、俺が用意していたサンドイッチ類も焼きソバも無事完売した。未理もなんとか今日を乗り切ったようだった。傍から見ると、それほど混んでいたようには見えなかったのだが、あのパンケーキは調理に手間がかかりそうなので、まあ良くやったほうだろう。普段、遊んでばかりの未理には、良い経験になったのではと思う。

 

 みんなも、来場者は結構来てくれたようで、例のスカイツリーも5ケ売れたらしい。もっともその内3ケは巧と未理の親父の購入ではあるが。しかも、巧は定価よりも遥かに高額な金をせしめたらしい。


 また、懸念だった円谷の件だが、あの後、巧がなにやら作っていたようだったが、ようやく夕方頃になって、新たに入り口の看板を用意してきた。


「MSなお ついに発明!夢のタイムマシーン!! 君も時空を超えタイムトラベルを体験してみよう!」


 な、なんだよこれ・・・?


「直、いいか?明日はいつも通りの格好で登校してこいよ。それで、いつも通りにお客の応対していればいいから」

「はあ、でも」

「ミスコンの時はメイクしてやるから、言う通りにしな」

「はい、わかりました」


 どういう事?との俺の質問に、巧は答えた。


「いや、アタシたちが悪かったんだよ。直の魅力ってなんだ?あの、奇天烈さじゃないのか?素のままの直は、そのままで面白いじゃん。何も、お上品にしてる必要あるのか?それに、文化祭だぜ?きっと、直の素のキャラは、受け狙いで通っちゃうよ」

 

 これについては俺もまったく同感だった。綺麗に済まして椅子に腰掛けていた、どこか淋しげな円谷の姿に比べたら、まったく不似合いなヤンキー姿のあの写真の方がずっと、魅力的だったくらいだ。無理はいけない。ありのままで、という事か。


 怒涛の一日目もようやく終わり、みんな集まっての反省会の席で、投票箱を開いてみようという事になった。成績如何では明日の対応も違ってくる。みんな緊張の中、投票箱が開かれた。強制では無いので、全来場者が投票してくれたかは不明だが、有効票は全部で168票だった。結構来てくれたんだなあ、お客さん。たった8人の学校なのに。


 その内訳は、1位俺44票 2位美留41票 3位セツ姉30票 4位未理28票 5位三日月17票 6位直5票 7位中3票 8位巧0票


「ふっざけんなっーーー!!!」


 巧はもう一回よく見ろ、といって、票をくまなく見ていたが、どこにも7番の数字も作田巧の名前もなかった。いや、何と言っていいか、0票はないよな・・・。家族も友人も来てたの、巧だけなのに・・・。


 巧は人目も憚らず、携帯を取り出すと、あわててどこかへ電話した。


「お、おいっ!今日、投票ちゃんとしたかっ!違うよ!ミスコンの投票だよっ!アタシに入れろって言ったろっ!!・・えっ、美留に入れた?ふざけんなよっ!娘に入れろよっ!え?・・カワイイし、フライスが・・何考えてんだよ、馬鹿だろオマエっ!!娘がピンチなの、わかんないのかよっ!!じゃ、じゃあ、カレンはどうした?あの女、アタシに入れてないのか!?・・え?入れた?入ってねーよ!・・え、8番に間違いなく入れた?ば、馬鹿やろーー!!アタシは7番だろっ!良く見て入れろっ!!土人がっ!!」


「こ、こんばんわ、今日はありがとうございました。い、いえっ、そう言ってもらえると、あ、はい、ありがとうございます。えーと、それで、ちょっと聞きづらいんですが、ミスコンの投票、あれ、アタシに入れてくれましたよね?えっ!直に!あっ・・・は、はい、そうですね・・・。で、あの、社員さんも・・・、い、いえ結構です・・。き、今日は本当にありがとうございました・・・」


 携帯を空しくポケットにしまい、巧はガックリと椅子に沈みこんだ。


「巧ちゃん、そうガッカリしないで。明日もあるし・・・」

「そうだよぉ、わたしだってしーくんに負けちゃってぇ、ちょっとショックなんだからぁ」

「そうです、そんなに落ち込むなんて作田さんらしくありません。例え誰からも評価されなくたって、それが作田さんの人としての価値を下げるわけではありません。幾ら評価がゼロだから・・」

「直っ!しっ!」

「しかし、0票とは見事だな。あれだけの人数が来てくれて、ゼロというのはそうそう有り得ないと思うよ。あれ、でもお客の多くはキャサリンの知り合いのはずだよな?自分に投票するはずだって、豪語してなかったっけ?」

「う、うるせーっ!!オマエだって、たった3票じゃねーかっ!偉そうにほざくなっ!」

「3と0では天と地はどの開きがある。なにせ0というのは無という事で・・」

「む!・・・むむむ!」

「わーーー!!ち、違うんだ!美留!こ、これは、ぼ、僕なりの、愛情表現というのか、・・そ、そう、キャサリン、い、いや巧とのコミュニケーションというか・・・」


 いや、しかし実際、仕事関係のお客さんはほとんど今日招いていたので、今日に票が入らないというのは、その票田をアテにしていた巧にとって相当マズイのでは?とりあえず、俺の最下位は無いだろうから、まあ、いいのだが。


「そ、そうよ!そろそろケーブルテレビのニュース、始まるんじゃない。多分巧ちゃんバッチリ映っているから、明日は放送を見た人もきっと来てくれるはずだし、巧ちゃんの票もたくさん入るわよ」

「そ、そうね、見ましょうよ」


 何とか誤魔化そうと、俺たちはテレビがある校長室へ向かった。当然さっさと校長は帰ってしまいっているので、俺たちは無遠慮に机に腰掛けたりし、放映を待つ事にした。

 6時の時報とともにスタートした番組は、かなりローカルな話題に終始する(今日のトップニュースは商店のボヤだった)、ニュースというにはあまりにも身近すぎるモノだったが、よく考えれば俺たちの文化祭程度が放映されるんだ、それも当たり前か。そしてついにスカ女文化祭の放映が始まった。


 先ほど来ていたインタビュアーの女性が出てきて、学校の全景、そして校門のアーチが文化祭である事をアピールする。アーチを手がけた者として感無量である。

 そして、ここで巧の学校紹介のスピーチが流れるものの、映像は美留と、セツ姉の作業風景、焼きソバを作る俺、旋盤を使う中などの映像が流れ、最後のワンショットは俺の、みんな頑張っているので、是非見に来てください!とのアピール映像・・・。

 お、おかしい・・・。確か、この時は巧と2人のシーンのはずが・・・。


 俺は恐る恐る巧のほうをチラ見してみると・・・。あ、ヤ、ヤバイ?


「ア、アタシ・・・声だけ?ぜ、全然映んないじゃん・・・」


 俯いてる巧・・・。な、泣いてる?だ、大丈夫か?さすがの俺も心配になってきた。これには、さすがに誰も口を聞けず、非常に気まずい空気が充満していた。だ、誰かーー、何か一言でもいい、しゃべってくれーー。


「・・・なあ、未理。オマエ、明日1人じゃ辛いってこぼしてたよな?」

「えっ!?ウ、ウン。だってぇ、1人でコーヒーも入れてぇ、パンケーキ作ってぇ、お客さんに出すなんてぇ無理だよぉ」

「未理がやるって言ったんでしょう!」

「じゃあ、明日、忍を貸してやる。2人でカフェやりな。焼きソバと売店はアタシがやる。明日は幸い招待客はいないし。あと、セツ姉、明日アタシにもメイクしてくれないかな?」

「それは、いいけど」

「ありがとう、よろしく頼む。このままじゃヤバイから、アタシも本気でやるよ。思うに、忍の票が多かったのは、屋台の効果もあったと思うんだ。それ、明日はアタシにやらせてもらう。これで、言い訳は無しにする」

「うん、それでこそ作田殿、拙も明日は気持ちを切り替えて、三条の名に恥じぬよう頑張る所存だ」

「・・・巧・・・がんばれ・・・」

「み、美留!?うん、がんばるよ」


「というか、みんな、そんなに片意地張らずにリラックスしてやろうよ。所詮ミスコンっていったって遊びみたいなモノだし、結果よりもその過程を楽しめばいいんじゃないか?」


 俺の大正義のセリフに、みんなが凍りつく。あれ?何かヘンな事言ったか、俺?


「テメー、1位になったと思っていい気になりやがって、余裕かましてんじゃねーよっ!オマエだけは1位にさせねーからなっ!なあ、みんな!」

「おーーー!!」


 な、何だか変なノリになってきたな・・・。まあ、いいか、未理の件も解決したし、俺ももう焼きそば焼くの、イヤだったんだよね、本当は。

 まあ、みんな、せいぜい頑張ってくれ。と言っても、何を頑張るんだ?






 

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