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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
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第38話 文化祭前日

 この一ヶ月、突然決まった文化祭の準備だけに追われ慌しくはあったが、充実感は存分に味わえたと言える。俺の受験や未来への不安も、一時休止、明日はいよいよ文化祭当日、招待した人たちはどれくらい来てくれるだろう、不安はいっぱいだったが、今は残りの作業に全力を尽くさないといけない。


文化祭当日は、巧は招待客の案内、俺は中庭でテントを張りコロッケサンドを売りながら、焼きそばも作って売るつもり。テントの設営は今日のうちに済ませてある。

未理はというと、どうしてもカフェをやりたいとの事で教室を一室使い、まるでプロ並みの厨房セット、冷蔵庫を持ち込み、内装も壁紙やインテリアにいたるまで手を掛け、テーブルと椅子もやけに高そうなモノを用意した。このまま商売を続けるつもりか?といった懲りようで、いったい費用は幾らしたのだろうか・・・。

「カフェ&パンケーキ ミリーズ」の看板も鮮やかな、元教室の扉をあけると、文化祭レベルじゃない、素敵な空間が現れた。


「す、凄いな・・・」

「素敵でしょう?そうそう、しーくんイイ所に来てくれたねぇ!お店で出す、パンケーキの試作なんだぁ、食べてみてぇ」


 今まで調理の練習でもしていたのだろう、出来立てのパンケーキ、見た目も美味そうだ。


「う、美味いじゃん!」


 これは本当に美味かった。ちょっとカリッとした外側とトロけるような食感の内側が絶妙のバランス、中はブルーベリーがたっぷりと入っているのも、インパクトがある。


「これ、幾らで店に出すの?」

「そうね、材料費から考えて、最低800円はもらわないと。けれど高校の文化祭の模擬店じゃあ500円くらいが限度でしょう。でも、考えてみてよ?たかが2日間のイベントで、設備や内装にコレだけお金を掛けているのよ?常識はずれもイイ所じゃない?これじゃあ、例え売り上げが少々赤字になったって、関係ないんでしょう。本当、お父様は未理に甘いわね」

 

 あ、あれ?未理?顔つきが違うぞ・・・。も、もしかして入れ替わった!?


「あ、あっ!あなた、千知さん!?」

「えー、しーくん、なに言ってるのぉ?」


 い、いや未理だ!でも今一瞬、確かに千知さんが現れたような・・・。

 錯覚だったのか、いや、口調からして違かったぞ。いや、俺も疲れているのかもしれない、深く考えるのはやめよう・・・。


 それから俺は巧にも声を掛け、二人でプライス室に美留と中の様子を見に行った。販売する予定の製品がどうなったかを確認するためだ。途中経過は、気が散るとの理由で見せてもらってなかったのだ。

 中が何かしでかさないか心配だった巧が、一度覗いて確認した限り、中は献身的に働いていたらしい。そもそも、献身的、という点が怪しいのだが・・・。


「どうだい、もう明日は本番だ、出来上がっているなら見せてくれよ」

「結局、何を作ったんだ?」

「スカイツリーさ」


 正直、ひねりが無いというか、当たり障りが無いというか、まぁ、このコンビではこんなもんか、と巧の顔にも表れていた。


「なーんだ、といった顔だな。でも、文句はこれを見てからにしたまえ」


 中はラックの奥に隠していたソイツを作業台の上にそっと置いた。

 素晴らしい、今まで見た、数多あるスカイツリーのディスプレイの中でダントツだった。素材はアルミだろうか、旋盤で作られた本体部分に展望台や脚部はフライスで加工したのだろうか、精密に削られた窓からは人の姿さえ見えそうではないか!


「スゴイ!スゴイよこれ!マジ、よく作ったな、大変だっただろ!」

「大変だったのは、美留さ。美留は本当にスゴイよ。今回、僕もいい勉強になったよ」

「これ、幾らで売る?」

「そうだな、1ケ作るのに丸1日はかかったから、3万円ではどうだろう」

「いや、安い。5万はもらおうよ!だって中と美留がこんなにがんばって使ったんだ。アタシが5万でも売ってやるよ!」

「全部で10ケあるぞ、大丈夫か?」

「大丈夫さ、任せておけ!」


 少し得意げな二人。けど、大丈夫なのか、10ケもあるんだ、もし1ケも売れなかったら、こいつらショックだろう・・・。


「大丈夫さ、あれなら売れる。すでに2ケは売約済みみたいなモノだし。ていうか、あいつらには30万くらい出させるか・・・」


 ああ、きっと自分の親父と未理の親父さんに売りつけるつもりだな。コイツの事だ、本当に30万くらいせびりそうだ・・・。


「巧ちゃんもココにいたのね、ちょうど良かった。美留ちゃんたちの着るアイアンドレス出来たのよ。ちょっと試しに着てみてほしいんだけど、美留ちゃん、今大丈夫?」

「ん」


 セツ姉が浮べた、その満足げな表情を観ると、よっぽどの自信作に違いない。すぐさま俺達はセツ姉の溶接室(というか工房だね)に向かった。


 それはセパレートタイプのヤツと同じ作りではあったが、胸元に花(もちろんこれも鉄製だが)があしらわれ、可愛さがアップしていた。しかも背には羽が有り、頭にはエンジェルリング、これを着た美留は本当に天使のようだった。


「すごい!すごい可愛いよっ!美留!完璧だ!本当の天使かと思ったよ!」


 興奮気味の中は、今にも美留に抱きつかんばかりだったので、巧は美留から引き離すのに必死だった。しかし、美留の無表情さがむしろ透明感を高め、神々しく思えてくるから不思議だ。いや、これは美留、優勝あるよ?


「セツ姉、これはいいよ、可愛いし、美留にすっごく似合ってるよ」

「でしょう?だってコレって美留ちゃんのキャッチフレーズからインスピレーションを得て作ったんですもの」

「でも・・・、ちょっとズルくない?まあ、どっちみちアタシだって美留に勝とうとは思ってないけど・・・。あ、そういえば、アタシの出番って、美留の次だよな?」


 そうか、それはちょっと巧は気の毒だな。この美留のすぐ後ってのは、見劣りしちゃうよなあ。でも、その見劣りした後に俺の番、悪くないかも。巧には頑張って、思いっきりハズして欲しいな。


 俺達は準備を終え、あとは明日の文化祭本番を待つのみ。

 そんな俺に、珍しくババアからメールが入っていた。ババアは逃亡後、3ヶ月ほど音信不通で、俺の生活ももはや破綻寸前といった時、突然メールがあり、口座に生活費が振り込まれるようになった。

 その時のメールは、学校から給与がもらえるようなので、生活費は必要無いかと思ってた、などとふざけたメールだったので、俺はあやうく携帯をブチ壊しそうになってしまった。自分が使いこんだ俺の給金の事など、これっぽっちも憶えて無いのだ。

 ようやく、それ以降、十分とは言えないまでも、生活費は毎月振り込まれるようになったのだが、それ以来の久しぶりのメールに、おや、と思い、あわてて開いてみると、驚く事が書いてあった。


「久しぶり、元気!あんたの女の子っぷり、イケルじゃない!これからずっと、それで通しちゃえば?私も早く生で見てみたいなー。 まあこ」


 ババア、なぜ知ってる?何を見た?誰だ?誰が・・・!?

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