第３６話　みんなの作品

　俺と巧は空いた時間を利用して、他の連中の様子を見て回った。進行具合も気になったし、販売する作品の確認と販売方法や値段も決めないといけない。

　

　セツ姉は三条と共に鍛造の作業場にいた。そこで三条とともに、薄板をハンマーで叩いて何かを作っているようだった。

「さすがに三日月ちゃんはハンマーの使い方が上手ね。私はまだまだだから、今教えてもらっているのよ」

「阿久根殿はなかなか筋がいい。ただし、手はタコだらけとなるが、いいのか？」

「いいのよ、私、今は女捨ててるんですもの。ねえ、巧ちゃん、忍君、見て、どうかしら？」

　それはまさに花びらと歯っぱだった。薄板を加工して作ったであろう、その花びらと歯っぱは、今まで咲いていたものを手折っったら鉄に変わってしまった、そんな見事な出来栄えだった。

「スゴイ！素敵だよ、セツ姉！これ、後でくっつけて一輪にするの？」

「そう、そのつもり。売れるかしら？」

「いけるよ、コレ！前に作って見せてもらったものより、数段出来がいいよっ！」

「良かった！」

「後は幾らで売るかだな！で、三日月はやっぱりナイフ？」

「そのつもりだ。以前作ったののもあるからな。実演もナイフの研ぎ工程を見てもらうつもりだ。それと、その切れ味も見せれれば良いと考えている」

「うん、いいね、期待してるよ！」

　二人とも順調に準備は進んでそうだった、ん？しかし、三条なんて言っていた？その切れ味を見せる？何かイヤな予感もするが・・・。

「大丈夫、心配しすぎだって。いくら三日月だって、人前で危険な事なんてしないさ。そのくらい分別はあるよ」

　と、巧は言うが・・・。あいつ、あの不良たちにナイフ向けていた三条を知っている俺には、安心できない。本当に大丈夫か？まあ、俺が心配しても仕方ないか・・・。

　円谷は設計室で、相変わらずＰＣに噛り付いていた。ＣＡＤで、なにやらＣＧのようなモノを作っているようだが、何だかよくわからない。円谷はみんなと違い、実演とか展示といっても、設計という作業上、特別見せ物となりそうなモノは無さそうなので心配していたのだが、本人は考えがある、と言っていたが・・・。

　俺は、例のタイムマシーン、アレを展示しようとしてるんじゃないかと危惧していた。アレは来場者にどう説明するんだ？

「何やってるんだ？」

「これは、私のタイムマシーンの稼動シミレーションのＣＧです」

「えー！、やっぱりお前、あのタイムマシーン展示する気なんだな？」

「はい。私はみなさんと違って、機械等を使うわけではないので、あのタイムマシーンの設計から製作に至る工程、及びタイムマシーンの稼動シュミレーションをＣＧにて映像化し見てもらうつもりです」

　見ると例のタイムマシーンの正面、及び両サイドにモニターが新たに取り付けられていた。

「お二人でどうぞ乗ってみてください」

「あ、ああ」

　巧と二人で腰掛けると、座面が振動したので驚いた。こんな機能、あったのか。

　映像は作図された図面から、部品化、組み立ての流れがＣＧで表現され、やがてタイムマシーンの操作を促すメッセージのようなものが現われた。

　ジュラ紀、戦国時代、江戸時代、の選択肢から選べるようで、俺たちがジュラ紀を選ぶと、座面が振動しながら、怪しい色彩が目まぐるしく混濁するような映像の後、モニターにジュラ紀の恐竜の映像が流れるように映しだされる。

「面白い。遊園地のアトラクションみたいで、面白いと思う。けど、あの途中の色の洪水？あれ、いらないんじゃね？何か、気持ち悪くなるんだけど？」

「ジュラ紀や恐竜の映像はネット上から拾い上げたものを適当に編集しました。まだ試作段階なので最終的にはもう少し良いものにするつもりです。それと、下井さんのいう色の洪水ですが、あれは時間移動の視覚的表現で、映像化するのに苦労しました。極めて実際と近い表現ができたと満足していますので、削る、などという事は論外です」

「ちょっと待て！お前、今、実際と近いと言った？お前、時間移動したって言うの？」

「はい、しましたが？」

「・・・・」

　俺たちは悪酔いしたような気分になって、設計室を後にした。

「だ、大丈夫か？」

「大丈夫って、どっち？タイムマシーンの事？直の頭？」

「両方だよ」

「タイムマシーン、あれはアトラクションと割り切ればアリだよ。ただし、直に真剣に語らせたらダメだ。余計な事は説明させないほうが良いな。後、直の頭・・・まあ、アイツはあれでいい・・・はず」

「いい・・のか？」

　中は、何か容器？みたいなモノを作っていた。

「これ、何かの容器？」

「違う！容器じゃない。これは昨年の技能五輪の旋盤の課題だ。まず、各部品を作り最終的に組み立てて完成させる。各部品制度は±０．０２を要求され・・・」

「ち、ちょっと待て、俺に言ってもわからない。で、当日、それを？」

「当日、僕はそれを実演で加工するつもりだ。確か本番の大会も制限時間が５時間くらいだったはずだ」

「そ、そうなのか。で、何か販売するモノは、考えてる？」

「いや、考えてない」

「考えろよ！」

「僕は売りモノになる、というその発想が嫌なんだ。優れた技術で要求された寸法、精度を満たす、そういう物を作る事ができれば、正しく評価されるはずだ。人に媚びる様な物は作りたくない」

「中、お前、前に自分が作ったもの自慢してたじゃん？」

「あれは売るために作ったんじゃない。自己満足のためにつくったものさ、いわば自分の美意識には媚びていたいのさ」

　相変わらず、面倒くさいヤツだ。

「じゃあさ、アタシ考えたんだけど、美留が作ったパーツと中の作ったパーツを合わせて製品にするとか、旋盤加工後のパーツを一部フライス仕上げするとかして、販売する製品を作る、それならどうだ？」

「えっ、み、美留と！？」

「ああ、何かオブジェというか、置物にできそうな造形物を考えているけど、オマエらで最終的には決めてもいいよ。まあ、人に媚びたモノになるかもしれないけど・・・」

「み、美留がやるというなら、ぼ、僕もやってもいいが・・・」

「わかった。実留にはアタシから言っておく」

「む！！」

　巧のナイスなアイデア、しかし、案の定、美留の返事はＮＯだった。まだ盗撮された事を許してないんだろう、無理も無いが。

「なあ、美留、そろそろ許してやってもイイんじゃないか？アイツも相当懲りてるようだし、ずっとこのまま、というワケにもいかないだろ？」

「む！」

「うーん」

　美留との共同製作と聞いた時の中の喜びよう、中があんなにも嬉しそうな笑みを漏らしたのは初めてみた気がする。嫌なヤツではあるが、このままでは可哀相な気もする。

「美留、じゃあ、こういうのはどう？今回だけでいい、アイツと仕事をしてほしい。このままじゃ、今後の作業工程とかにも影響が出かねないだろう？もし、それでも不愉快な思いをしたのなら、もう今後はいっさいアイツとは顔を合わせなくてもいい。その代り、今回一緒に良いモノが作れたのなら、美留の望みを一つだけ叶えてあげる。それはもちろんアタシたちに出来る範囲内ではあるが？忍も、いいだろう？」

「うん、いいけど、それで美留が納得するなら」

「・・・・」

「どう、美留？」

「・・・ん」

「よしっ！！ありがとう、美留！うまくいったら、どうしてほしい？新しい機械、はちょっと難しいかな？でも、美味しいモノだったら幾らでも食べさせてあげるぞ（未理に頼んで）！」

「・・・・・」

「えっ？」

　俺に伝わらなかったからか、美留は巧に向かい、囁くように告げた。驚く巧、こちらをジッと見る美留、なんなんだ、望みって？

「巧、美留、なんだって？」

「・・・オマエと、デートしたいって」

「・・・俺と？デート？美留が？」

　そういえば、未理が言ってたっけ。三条も美留も俺の事が好きだって。美留に関しては、何かヘンだな、とは思っていた。でも、あまりに子供っぽい美留からは、恋愛って文字は浮かばなかったのだが・・・。確かに嬉しくないと言えば嘘になる。しかし、俺は今、未理という、とんでもなく重い荷物を背負っているのだ。あいつのご機嫌損ねないかが、心配だ。

「巧、未理は大丈夫か？俺が美留とデートするって事」

「うーん、相手が美留だし、デートくらいは大丈夫じゃないかなー。まあ、慎重に話して説得してみよーか」

　俺は巧と小声で相談し、美留のその要望を承諾する事にした。

「でも、美留、いいのか、せっかくの望みがそんな事で？」

「ん。・・・・」

「え？美留、今・・・」

「・・・女装・・・やだ・・・前のほうが・・・好き」

「！」

　美留は駆け出して実習室を出て行った。

　

　し、しゃべった！！美留が！お、驚いた・・・。美留の声、初めて聞いた。

「美留、しゃべった・・・ぞ？」

「ああ、アタシも・・・久しぶりに、声聞いた。なあ、美留、なんて言ってた？」

「いや・・・俺もちょっとよく聞こえなかった」

　それは俺の胸にだけ、仕舞っておくよ。美留にとっても大事な言葉だったんだろうから。