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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第二章 二学期
34/61

第34話 憂鬱な新学期

9月1日、久しぶりの登校。


今までと変わらないつもりで学校へと向かったものの、さすがに校門の前で俺は足が止まってしまった。俺に落ち度は無い、いや、仮に未理との一件が落ち度とするならば、あんな事態に陥る原因の一端は、つまらない勘繰りで未理を傷つけたヤツらにもある。一方的な停学処分には、到底納得がいかない。しかし、あれから巧とも一言も話していないし、その後俺の誤解が解けたとも考えずらい、考えるとだんだん憂鬱になってきて、このままサボるかと振り向いた目の前に巧がいた。


「うわっ!」

「なんだ、停学明けで早速バックレるつもりかよ!」

「ち、違う!」

「オマエ、借金の事、忘れて無いよな?それに、犯した罪は償わないとな」

「つ、罪って何だよ!結局俺の事信じてないのかよっ!」

「申し開きは学校に行ってからだ」

「未理は?あいつは何をどの程度わかってる?」

「未理には直の件は刺激が強すぎて、きちんと話してない。お前が仕事の件で直とケンカになり殴った、という事にしている。ありがたく思え!」

「何もありがたくねえよっ!直の件って、そもそも円谷殴ったの未理だしっ!」

「それはオマエだけが言ってる事、何の証拠がある?とにかく未理には適当に話合わせておけ。余計な事言ったら殺す!」

「ふざけんな!あ、おい!」


 結局、俺は疑われたままという事か・・・。気が重い・・・。


「お、おはよう・・ございます」


 今まで話していたヤツらも黙り込み、シーンと静まりかえる教室、イヤな空気。みんなから軽蔑したような目で見られるのは正直キツイ、そんな中、円谷がガタンと大きな音をたてて立ち上がると、一言も言わずに教室から出ていった。


「しーくん、ちゃんと謝ってね。どんな理由があってもぉ、女の子殴るのは良くないよぉ。わたしからも、謝ったんだよぉ」


 未理が近づいてきて俺の耳に小声で呟いた。いいよな、お前は当事者のくせに・・・。


「忍!早く行けっ!」


 巧に促され、俺は仕方なく設計室に円谷を尋ね、扉ごしに声をかけた。


「えーと、円谷さん、今回の事は本当にゴメン。実は正直、自分のした事の自覚が無いんだ。ただ円谷さんを傷つけたようで、それは本当にすまなかった」

「私は今まで余り男性と接する機会も少なく、友人と呼べる女性とて無く、この学校での交遊関係は私にとって大切な社会的コミュニケーションを学ぶ場でした。もちろん異性交遊も積極的に学ぶ姿勢で取り組んできたつもりですが、暴力で強引に欲望の捌け口にされる事は望んでいません!」

「ち、ちょっと待って!!暴力、強引って、それ俺がやったって言うのかっ!?」

「惚けるのですか?校内での事件だし強姦も未遂に終わった事だし、みなさんに迷惑もかかるかと思い泣き寝入りしましたが、下井君に反省の色が見えないのであれば、やはり訴えさせてもらいます!良いですね!」

「ち、ちょっと待て!お、覚えてないのかよっ!!お前殴ったの未理だっただろ?あいつの病気の事も前に聞いて知ってるだろ?あの時の未理は、メイタっていう別人格で、俺もお前もその被害者なんだよ!よく、思い出せよっ!」

「私は全裸の下井君に殴られた事しか覚えてなくて・・・」

「た、確かに全裸だった、でもその後、裸の未理も設計室に飛び込んで来たろ?」

「そうでした、か?」

「そうだっ!これは俺の名誉がかかっているんだ、しっかり思い出してくれ!あの時、隣の教室でメイタに襲われ騒いでいたのをお前は不信に思った!違うか?」

「はあ、た、確かに・・・」

「その時、全裸の俺があわててこの部屋に飛び込んで来て、扉を閉め鍵をかけようとした。その時お前は何をした?」

「え、あ・・・はい、止めました」

「そうだ、お前は準備がどうの、とか言って、鍵を閉めるのを止めた、違うか?」

「そうですね、・・・そうしました」

「その後、誰が来た?思い出せるか?」

「・・・そう、林さんが来ました!裸の。私、てっきり三人で交尾をするつもりなのかと思い驚きました。まさか初体験が3Pというのは、いくらなんでも」

「そうだ、いいぞいいぞ!それで、その後は?」

「・・・未理さんが怖い顔をして私を見ていたのが、私の記憶の最後かと・・・」


 俺は今の会話を携帯に録音し、円谷を連れ立って勇んで階下のみんなの元へと急いだ。幸い未理は自室にいるらしい。その会話の一部始終をみんなに聞かせ、再度、円谷にも問うた。


「どうだ、円谷、殴ったのは俺か?」

「・・・多分。違うと・・・思います」

「多分じゃねえよっ!どう考えても、俺じゃ無いだろ?なあ、みんな!?そう思うだろ?」


 一同、なんとなく納得しない顔・・・。なぜ?


「結局、目撃者がいないからな・・・」

「ああ、黒じゃないかもしれない。でも白とは断言できない。灰色、だな」

 

 ・・・。


「でも、オマエが殴ったんじゃないにせよ、直を置いて先に逃げた、って事だよな?しかも、直が殴られるのをわかっていたか、見ていたか・・」

「えっ、あっそれは・・・」

「あらっ、それって、卑怯じゃない?一人だけ逃げようだなんて、サイテーではなくて?」

「しかも、全裸で校内を走り回った罪は決して軽くは無いだろう」

「そ、それは、仕方なく・・・」

「そうだっ!確かに未理を頼むとは言ったが、セックスしろだなんて誰が言った!?」

「そうですね、真昼間から校内でそのような猥褻な行為に及ぼうとした事は弾劾されるべきでしょう」

「お、お前らは、ど、どうしても俺を悪者にしたいのか・・・」


 結局、俺は、未理と校内で不純異性交遊に及んだ罪と、円谷への暴力行為の抑止を怠った罪と、校内を全裸で走りまわった迷惑行為の罪によって裁かれるらしい・・・。


「その罰だけど、アタシ、アイデアがあるんだ、ちょっと聞いてくれる?」


 巧が切り出す。お前、頼むから余計な事言うなよー。


「そもそも、本来、女子高のはずのこの学校で、こんな男女の絡んだ問題が起きたのは忍が男だからだよな。だからと言って、今さら忍を辞めさせるのもちょっと。だったら、罰として忍には、これから学校では女装して女子として過ごしてもらう、どうだろう?それだったら、みんなも男子として忍を意識し過ぎず良いんじゃない?」

「うん、それは面白いアイデアかもしれないわね!」

「おいっ!ち、ちょっと待て!!」

「そうだな、僕も女子高なのに男子である忍がウロウロしているのは、どうかと思っていたんだ」

「私も賛成です。下井君に対しての嫌疑が完全に晴れたわけではない現状、外観だけでも女子として過ごす事で下井君の性衝動が少しでも押さえられたら幸いです」

「おい、ふざけるなよ・・・」


 今まで黙っていた三条が、ちょっといいか?と盛り上がるみんなを制した。


「話がずれるようで申し訳ないが、言いたい事は一緒なので、ちょっと聞いてくれ。林殿の事なんだが、拙も少し調べてみた。林殿の病気についてだが、大概は極度のストレス、例えば身内からの虐待等があって他人格が生まれるケースが多いようだが、林殿はどうだった?」

「虐待は無い、と思う。みんなにはこれからも未理を守って欲しいと思ってるから話すけど・・。あの子、母親死んでから親父さんの愛情を一心に受けながらも、親父さん多忙だから孤独な家庭生活を送り、しかも跡取りとしての過大な期待も背負い勉強漬け、常にパンパンで過ごしてきて、その結果、ある日パンクしちゃったんだ。その時から他の人格がだんだん増えてきて・・・、元々は未理も実はもう少しちゃんとしていたんだ。今の未理はやけに甘ったれで、前とは全然別人」

「そうか。おそらく精神が平静になるに従って、簡単ではないと思うが、人格は統合されていくと思う。そのためにも林殿にストレスやショックをあたえるのは芳しくない。林殿が執拗に下井を求めるのも、性に奔放なのも、寂しさからや愛されたいとの願望が強いからかもしれない。たから、深層の倫理観が林殿の貞操を守るべく他人格が現われる。しかし、あまり他人格が現われるのは、なるべくだったら減らしたい」

「じゃ、じゃあ?」

「下井が女装して女として振舞うのは、林殿の感情を抑えるのに良いのでは、と思う」


 結局、俺は問答無用で女装する事となり、明日からは、女子高生として登校する事となった。とはいっても、突然女装できるわけではないし、髪型をどうするかなどの問題は、今日の放課後、この学校で最もこういった方面に長けている、セツ姉と未理に指導を受ける事となった。未理には、円谷を殴った事の罰ゲームとして女装すると言ったら、すぐに納得し、むしろ面白がっているようだった。


 彼女らは、市販の制服やらウィッグやら化粧品をたくさん携えてウチに乗り込んで来て、ババアの服なんかも、きゃーコレ使えるかもー、とか盛り上がりながら、俺の女装特訓は夜中まで続いた。


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