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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第一章 一学期
33/61

第33話 メイタの悪夢

 俺はなんて愚かだったのだろう。すっかり忘れていた、未理の中に潜むその他の人格を、粗暴な広島のチンピラの存在を。そういえば、ナノだっけ?あの忌々しいガキの人格が現れたのも、こんなシュチエーションではなかったか?


「われ、ええ度胸しとるのお?わし、犯そうゆうんか?ぶち痛い目あわせちゃるけえ、覚悟せえ」


 未理は、いやメイタは俺に馬乗りになると、顔面を殴りつけてきた。元は未理とは思われない程の力のパンチを浴び、逃れようと必死で足をメイタの首にからませ、ようやく俺の上からどかす事ができた。


「われ、待たんかい!逃がすかあ!」


 俺はとにかく逃げるだけで必死だった。とてもじゃないが俺では太刀打ちできない。素っ裸で追ってくるのは、姿こそ未理なのだが、形相は鬼のようで、そのは違和感がむしろ恐ろしく、扉で鍵を開けようと戸惑っていると、メイタのドロップキックが炸裂した。


「グゲッ!」


 思い切り背中にキック入れられ、一瞬息が出来なくなったが、メイタがバランスを崩しよろめいている隙に鍵を開いて外へと飛び出した。何事が起きたのかと思ったのだろうか、タイミング良く隣の円谷の設計室の扉が開いたので、俺はあわてて中に入ると扉を閉めて鍵を掛けようとしたが、円谷は俺の手を止めた。


「しっ下井君、い、いくら何でも強引過ぎはしませんか!?た、確かに私も交尾については並々ならぬ興味はありますが、突然全裸の雄に襲われるというシュチエーションは想定していませんでしたので、心の準備が出来ていません!できるのなら、私にも交尾に入るための準備を・・」

「ち、違う!!そうじゃない、お、襲われているのは、俺のほうなんだっ!!」


 すると、押さえていた扉が凄い力で開け放たれ、メイタが飛び込んできた!


「われ、じっとしていんっかいっ!今、殺しちゃっるゆうとうじゃろ!」

「は、林さん!そうですか!下井君と林さんは交尾の最中だったのですね!それになぜ私が参加しなければならないのでしょうか?複数体による交尾というのはあまり自然界ではみられませんが、人類においては日常的に行われるというのは、私の調査においても明らかであり、お二人はそれを望んでいると考えてよろしいでしょうか?」

「なんじゃ?このイカれた姉ちゃんは?」

「林さん、では私も今準備しますので・・」

「姉ちゃん、そこ、のいてくれんかのぉ?」

「そう急がないで下さい、さすがお二人は動物的というか、そう情緒というものに欠けているように思われます。私はヒト種としての・・・」


 ガツッ!キューー。


 一撃顔面にパンチを入れられ、円谷はあっけなくノックアウトされた。円谷が時間を稼いでくれたおかげで俺は階下に逃げるチャンスが生まれ、階段を駆け下りた。すまん!円谷!

 しかし、マズイ事に降りた所にいたのは三条だった。いつもはクールな三条だったが、この時ばかりは目を見張って大慌ての様子が見て取れた。それはそうだろう、全裸の男が全力で階段を駆け下りてくるのだから・・・。


「キャー!!な、なんという破廉恥なっ!!き、気でも狂ったかっ!!」

「ち、違う、説明している余裕はないっ!!逃げろっ、早くっ!!」

「きっ、貴様っ!!触るなっ!汚らわしいっ!!ええい、そのまま刀の藻屑としてやる、そこに直っておれっーー!!」

「んがっ!!」


 三条の刀の背でわき腹をしこたま打たれ、ひっくり返ったところへ階段の踊り場から一気に飛び降りてくるメイタの姿が見えた。横たわる俺の腹へとダイブしようとでもいうのだろう。大開脚でアソコが、そのすべてが丸見えの大ジャンプは、時間にしたら僅かなものだろうが、まるでコマ送りのようにゆっくりとした映像で見えた。

それでも俺は魅入られたように微動だにできず、メイタのダイブをもろに腹で受け止める事となった。


「うっげーー!!」

 

 腹の上に思い切り飛び乗ったメイタは、狂気の笑顔で俺を殴り続けた。俺は息もできず、腕は痛くてあがらないため、マウントポジションでタコ殴りとなった。

 わけのわからない状況とは言え、三条もあまりの惨状に俺の危険を感じたのだろう、メイタを止めに入ってくれた。


「林殿、もう止めたほうがいい。もう抵抗できまい。これ以上嬲るのは悪趣味」

「われ、なんじゃ?われも、痛い目あいたいんかの」


 メイタは三条にも殴りかかり、その拳は三条の顎を掠めた。


「ま、待て、林殿?乱心されたか?」

「何言うとんじゃ?われもイカレてる口か?」


 メイタがパンチを大きく振るおうとした時、三条の刀がメイタの胴をスッとぬいた瞬間、メイタはうぐっとくぐもった声をもらすと、バタリと床に倒れ気を失った。


「さ、三条・・・、こ、殺しちゃった・・・!?」

「安心しろ、刀の背で打ったのみ、じき目は覚めよう」


 た、助かった、と思った瞬間、俺は腕に激しい痛みを感じ、左腕があらぬ方向にまがっていて骨が折れてる事がわかった。三条にやられた脇も尋常ではない痛みが・・・。そんな状況下で自分が全裸である事にようやく気が付いた時には、わらわらとみんなが集まってきていた。


「あら、まあ、大変!二人とも裸で!まさか忍君、無理やり未理ちゃんを?」

「て、てめー!!未理に何をしやがったーー!!」

「や、やめてくれ、違うんだって。勘弁してくれっ!!いてててててーーー!!や、やめろーーー!!」


 巧が俺にまた馬のりになってきて、俺は激しい痛みに襲われた。


「手がーー!!手がーー!!折れてるんだってばーー、いてえーーよー!!」


 腕を抱えて蹲る俺をみて、何となく理解してきたのか、頭を捻る巧。

 こんなにも苦しむ俺を誰一人気遣い者はいない。冷えたイヤーなく空気が充満するその場から、俺は逃げ出したい気持ちで一杯だった。なにせ全裸だし・・・。

 しかし、救急車よんでくれよー、という俺の必死の助けに誰一人動こうという者もいないまま、しらけた時間だけが過ぎ、俺は痛みが限界に達したのか気を失い、その後目を覚ました時は病院のベッドの上だった。


「目を覚ましたようね」


年配の看護婦さんが様子を見に来てくれたので、俺はハッと思い、知りたい事を矢継ぎ早に聞いた。俺はどうやってここに来たのか?誰か一緒だったか?怪我の具合は?来た時の服装は?


「あなた、救急車で運ばれて来たんだけど、クラスメイトの子が一人一緒に来たわよ。もう帰ったのかな?あなたのご家族が、今海外で連絡とりずらいという事で、その子が事務的な手続きしてたみたい。怪我は左腕の骨折、あと肋骨もヒビいってる、顔も酷いけど、階段から落ちたんですって?えっ?服?着てたわよ、作業着、あなた工業高校の生徒さんなんだってね。まあ、しばらくは退院できないわよ」


 まあ、殺されないだけよかったか・・・。あの勢いじゃあ、マジ、殺されかねないよ、怖えー未理、怖えーよ!!

 服、着てたという事は、誰かが着せてくれたという事か・・・。さ、最悪だ・・・全部見られてるに違いない、しかもつぶさに。ああ、余計な事されてないといいが・・・。いや、あいつらのことだ、絶対何かしたはずだ・・・。さ、最悪だ・・・。


 その後2~3日たっても誰も現れず、一人くらい見舞いに来てくれても良かろう、入院代どうしたらいいのか?携帯は取り上げられたのか、俺の手には無く、誰かにメールする事すらできない。

 そんな折、ようやく巧が姿を現した。

 少しナイーブになっていた俺は、巧でも来てくれた事が嬉しかったのだが、その表情を見てギョッとなった。お、怒っている・・・しかも、相当・・・なんでだ・・・??


「や、やあ、お見舞い、あ、ありがとう、え、えーと・・・」

「入院代、払いに来たんだよ!見舞いじゃねえ」

「あ、ありがとう、後で返すから・・」

「当たり前だ!!まあ、学校への借金が増えただけだけどな」


 巧はカリカリしながらそう言いうと、おもむろにタバコを吸い始めた。おい、いくら個室とはいえ病院でタバコはマズイだろう・・・。


「直の怪我の件、わかってるな!未理の事もあるから、直には大事にしないようにお願いして、あいつも承諾してくれた。まずは直に感謝しろっ」

「・・・?つ、円谷の怪我の件で、なんで俺が?」

「オマエ、自分のやった事くらい責任もてよっ!!少しだけオマエを見直した自分が恥ずかしいぜっ!」

「俺のやった事?ち、ちょっと、どういう事になってる!?説明しろよ!」」

「オマエが未理とよろしくヤッた後、それじゃ飽き足らず直を犯そうと設計室に浸入し直を襲った。ソレを見た未理が激怒し、オマエを殴打している所を三日月が助けた、違うかっ!!」

「ち、違うに決まってるだろっーー!!!何言ってるんだ、お前っ!?俺が、どんだけ鬼畜だと思ってるんだっ!!!」


 俺は必死に説明した。未理から誘われて裸にされたけど、事には至っていない、事に至る前に未理がメイタに変貌した事、メイタから逃げた設計室で、円谷はメイタに殴られ失神した事、俺はメイタに追われ階下に逃げたものの、三条に勘違いされ刀で打ち倒された所をメイタにボコボコにされ、その後三条を襲ったメイタは三条の手で鎮められた事・・・。


「未理はオマエと良い関係になったと言っていたし、直はオマエに襲われ殴られ強姦されそうになったと訴えたぞ。三日月は全裸のオマエに襲われそうになったのを返り討ちにし、その後オマエが怒った未理にボコボコにされていたのを助けた。そんな証言を総合して考えると、どうだっ、オマエが圧倒的に悪いじゃないか!」

「ち、違う、全部違う!!嘘だ!真実が一つもないっ!巧!お前もそんな話、信じるのか?俺の事、そんなに信じられないのか?俺はそんな鬼畜か?なあ、巧、信じてくれよっ!!」

「うーん」

「未理だって、なんだってそんな嘘いうんだっ!あいつとは何もやってないぞっ!やる前にメイタに変わってたんだ!そもそも、あいつビョウキじゃないかっ!!そんなヤツの言葉を信じるのかっ!?ちきしょーあのキチガイッ!俺はもう許せねーぞ!!あいつの顔なんてっ!!」


ドガッツ!!!!


「うっぎゃぉーーー!!!」


 突然俺は巧にベットごと蹴り上げられ、床に転倒した。俺は骨折してるんだぞっ!痛みにのたうち回る俺を巧は凄い形相で睨み付けた。


「それ以上未理を悪く言ってみろっ!!マジぶっ殺すからなっ!!あと、とにかくオマエは停学だっ!9月になるまで学校にくるなっ!!わかったな!!


 そう吐き捨てると、巧は帰っていった。ただ、最後は押さえきれずポロポロと涙を流す巧は、何かとても悲しそうでもあった。俺はあまりの痛みに涙を流していたが・・・。もちろん、悲しいのもある・・・。


 9月まで停学、といっても、結局巧の狼藉のせいで俺の怪我はさらに悪化し、退院出来たのは8月も終わりになってからだった。あーあ、俺の夏休みって・・・。


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