第27話 試作品完成
ギミックの設計に目処がたったのは、ちょうど金型の形状を削る作業が終えたのと、ほぼ同時だった。ギミック挿入部の形状はギミックの稼働部の構造を見てから設計するので、タイミング的にはバッチリだった。
「まず、主軸に当たる部分は弓型の形状であり、主軸が回転するのが基本的動きとなります。主軸カムと各コマの組み合わせがギミックの鍵で、各コマは手動にて主軸のカムと噛み合う事で回転し、各ギミックを稼働させます。
見ての通り、Aコマは波状の凹凸が有り、この凹凸が回転する事により、本体中心部にうねりの様な動きをもたらす事が出来ます。
Bコマは伸縮運動を促しその動きは15mmほどですが、このような製品の使用に際し出入の動きに関しては、ほぼ手動で動かすものと判断し、これで良い、と阿久根さんの了解を得ました。阿久根さんがこの案件において最も適任であると私が判断し、ご指示いただきました。
Bコマにより伸縮した主軸の動きに連動し、Cコマが回転し、Cコマの回転がCギミックを稼働させ、Cギミックが先端部の拡張収縮を生み出します。
これが、今回の設計の概要ですが、ご理解いただけたでしょうか?」
「・・・、た、多分、わかった、と思う。みんなは?」
「・・ええ、私は皆さんがわかっているのでしたら、それで良くてよ・・」
「僕は理解した。ただし、コマとカムの噛み合いについては、図面を見ない事には」
「わたしは、全然わかんないよぉ?ナオのいってる事って、いつだってなーんにもわかんないだけどねぇー」
俺も何一つわからなかったが、とりあえず図面を元に、各部品を手分けして製作に入った。加工は主に巧、美留、中があたったが、ギミックの組立て、仕上げなどには、セツ姉、三日月も手伝って、1週間ほどで1ヶ試作が出来上がった。
未理は・・・何もしなかったが、巧に言われ、不満げながらお茶を入れたり掃除をして、わずかながら貢献した。・・と、まあ本人はそう思っている。
出来上がったソレの電源を入れる時は、流石にドキドキした。設計者の円谷の手でスイッチがオンされると、まずソレはクルクルと回転した。Aのギミックをオンすると、螺旋の歯車のような形状のAコマが回転し、Bのギミックをオンすると、Bコマが回転、すると先端部が伸縮、そして傘のような格好のCギミックが稼働し、それは開いたり閉じたりするように動き、それが拡張収縮の動きとなるのだろう。
「おおっ、う、動いた!」
「す、凄い!」
「こうして見ると、凝った動き、するわねえ」
「手動での操作も、それほど違和感は感じませんが、もう少しカムとコマとのハメ合いをスムースにしたいですね」
このギミックの形状に合わせ、今度はオス型を作るわけだ。
シリコン製の形状部をこのギミックにかぶせるため、オス型はギミックを参考に形状を考えなければならず、肉厚の関係もあるので、ギミック側の形状変更もあるかもしれない、との事だ。
なかなか面倒なもんだ。
ちなみに、生身の男には本来付いていない突起のようなモノ、これは女性のアソコを刺激するためのモノで、この中には小型のバイブレーターを仕込むらしい。
これは、本体とは後付けにするらしい。
これの形状についても、やはり一悶着あったのだ。
「ココ、どうする?」
「やはり、付けたほうが良いんじゃない?」
「どんな形にしよう?特に定義は無いみたいだけど」
「わたし、可愛い形がイイなぁ。例えば・・」
「ミッキーはダメだ!ミッキーは!」
「チェッ」
「でも、未理ちゃんの言う様に、カワイイ形にしましょうよ」
結局、ここまでその形については決まらずじまいだったのだが、ウネウネ動くこのギミックを見て、三日月がボソッと言った。
「Aコマの動きは、まるで波のようだな」
「波?そうね・・・海か・・・」
「ねぇ、形、イルカさんにしないぃ?波の上を飛んでいるみたいだよぉ、きっとぉ!」
「悪くないかも・・・」
「イイんじゃない、イルカ」
「ヨシッ!イルカに決定!未留、イルカの型つくるぞっ!三日月、またクレイモデル作ってくれっ!」
我々の作るバイブのテーマは、ズバリ、海、に決まった。
海といえば男女、男女と言ったら・・・悪くないかも。
それから巧は美留の作った型に、ガイドを入れたりシリコンの注入口を作ったりして成形可能なように加工し、美留はイルカの型を完成させ、それを成形するためにお客へと持ち込み、出来上がってくるのを待つ事、3日。
とりあえず色が着いていない透明な状態でソレは出来上がってきた。
出来たぞっ!と自慢げにソレを手に掲げ登校してきた巧は、そうやって手に持ったまま来たの?という皆の驚きの眼差しを浴び、デリカシーの欠片も無いヤツと改めて俺を失望させた後、全員でソレをシゲシゲと眺めた。
「やっぱり、形はコレで良かったのかもしれないわね」
「うん、女子でも手に取りやすいかも」
「イルカ、可愛いわよねぇ!」
「とにかく、ギミックに被せてみよう!」
ギミックに被せ、ほぼ完成形のソレは、竿部は波の様にうねり、先端部は伸び縮みしながら、大きさが変化しながらウネウネと動いた。
「う、動くと、何か、えげつないな・・・」
「思っていたよりも、エロいかも・・・」
「コレ、未理たちが作ったって、ちょっとパパには言いずらいなぁ」
未理の言う通り、人に胸を張って、これ作りました!と言いづらいモノではある。けれど、自信を持って言おうぜ、世の中に不可欠なモノなんだよコレは!と。
俺は言えないけど。
早速、その出来上がった試作品を、セツ姉がソープのお姉さん方に試してもらうとかで、2~3日持ち出し、それがその結果と共に戻ってきた日の事。
心なしかセツ姉の顔が上気している・・。
「コレ、すごく評判良かったわよ~」
「ホント!良かった!!」
「特に、先端部の膨らんでくる感じ?良かったわ~」
「・・・良かったわ?」
「い、いえ、良かった、らしいわよ」
セツ姉が目を逸らす。も、もしかして、あんた?コレ自分で試してみたんじゃ?そう考えた途端、手に収まるコイツが急に艶かしく思えてきて、俺の未熟な下半身が暴走しそうになってしまった・・・。
試作品を届けた巧は、リアルドリーム社の社長さんに、大層褒められたらしい。この短期間でよくここまで作り上げたと。
あの試作後、竿部にさらに数種の貝殻の模様を入れ、それの量産がGOとなり、俺たちは俄に忙しくなった。
とりあえず最初の50ヶは我々の手で組み上げまで行い、残りの注文はリアルドリーム社のほうで組立てを行う事となった。
最初の50ヶが完成し納品を終えたころには、そろそろ梅雨も開けようかという季節となり、もう1学期も終わりに近づいていた。俺たちは、例えソレが何であろうと、一つモノを創りあげたという充実感のようなものを感じていた。うん、確かにこの感じは悪くない。
しかし、俺はといえば、本来なら高校で学ぶべき勉強を一切していないが、大丈夫なのだろうか?




