02 声の主
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♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪
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予想だにしない出来事だった。
この場所を見つけてからの一年間、誰も来なかったこともあり三日月は「ここはきっと忘れられた場所なんだ」と、ずっと勝手に思い込んでいた。
(まさかここに、人がいるなんてぇ!!)
動揺する気持ちを落ち着かせるために元の方向へ身体を戻すと、階段に敷いた可愛い水玉柄のお気に入りシートに座り直した。それから手に持っていたランチボックスを横に置き、しばらく目を閉じて気持ちを鎮めようとする。
するとある場面が頭の中に、ふわんと浮かぶ。そしてハッと、気付いた。
「うぅ……」
小さい後悔の声がもれる。
(知らない人の前で私、大きなお口で、はむっ! てぇ!!)
三日月は両手で頭を抱えると「あぁぁぅぅ……」と言いながらゆっくり項垂れ始めた。声をかけられたあの瞬間が頭の中でぐるぐると回っている。考えただけで恥ずかしいと身体の体温はみるみる上がり、見なくても自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
(恥ずかしいよぉ! ど、どうしよぅ……)
消したくても消せない「はむっ!」な姿。そう、時間は戻せないのである。この状況をどうやって切り抜けたらいいのか? と逃げたい気持ちを隠すように両手は頬へ。すると、柔らかな声で話しかけられた。
「今日は、優しい陽光だね」
「んぁえっ?! あ、そ、そうですねぇ! あははぁ」
(お願いです、恥ずかしいのです……そっとしておいて下さいー!)
そう思いつつピンク色に染まる頬に手を当てたまま、再度後ろを振り返る。温かな太陽の光が眩しく、目を閉じてしまった彼女が次に見た視界。そこで目に入ったのは――。
「うわぁッ!?」
(こ、声の人がぁ!!)
驚き思わず声を上げた、三日月。その人は屋上扉前の踊り場からこちらへ向かって、階段を下りて来ていたのだ。
「あぁ、ごめんね? また驚かせてしまったね」
今まで屋上扉から差し込む光でよく見えず、声だけ聞いていると女の子なのか、男の子なのか? どちらか分からなかった。しかし近付き目の前まで来たその人影がはっきりと姿形になった今、三日月は認識する。
(なんて綺麗な、男の子なの)
細身でスラッとして姿勢の良い彼の立ち姿はとても好印象。瞳が合えばついつい見つめ、惹き込まれていくようだった。
――出会ったばかりの彼から、なぜか目が離せない。
艶のある綺麗な黒髪は少しだけくせ毛で可愛く、落ち着いたトーンの声は高めで優しい。背は三日月よりも十センチ程高く、深海のような蒼色の瞳と、銀の細フレームの丸眼鏡は白い肌によく似合っている。
何よりその、端整な顔立ちに――。
「…………」
(私、見惚れてしまっているのです)
「ん? どうしたのかな」
その三日月が送る視線に気付いた彼は、優しく声をかけた。平和な気分にさせてくれる安心感のあるその声は彼女の心をゆっくり、現実世界へ引き戻していく。
「ぁ、あぁいーえいえいえ! 見とれ……って! その、すみませんです」
新たな動揺の種を、自分で蒔いてしまったことに後悔をする。しかしもう頭の中はフワフワと浮かぶ雲のように真っ白で、おかしな言葉と動きで答えていた。
あたふたする三日月の姿を見ながらフフッと微笑む彼は今度は囁くような声で、尋ねる。
「ここ、僕も一緒に座っていいかな?」
「え……?」
まだ残る恥ずかしさと、言葉にならないドキドキで彼女の思考は停止。
「嫌……だったかな?」
その表情に眉尻を下げ少し困り顔の彼を見てハッと、我に返る。
「あ、あぁー! どうぞ~と、いいますか。ここは私一人の場所ではないので。あの、お気になさらずご自由に――」
人見知りで緊張して話せない自分を奮起し目を瞑りながら懸命に答えると彼はまた、フフッと笑う。そしてなぜか? 彼女の隣に座ってきた。
(えーっと、なぜだろう? 隣に座っているような気が……。ここの階段広いのに! 座る所はいっぱいあるのですが。あのぉ、お兄さぁーん?)
そんな言葉を心の中で一人、ツッコミながらふと彼を見つめる。その時、気付く。彼は少し距離を取り、座ってくれていることに。
(あぁ……初対面の人が苦手って、気付いてくれたのかな?)
そう思いまた彼の顔を、見てしまう。その柔らかな雰囲気の綺麗な横顔に瞳を奪われていく。
「ん、どうしたの?」
視線に気付かれたのだろう、彼は目を細めフフッと笑いかけてくる。いよいよ恥ずかしさもピークに達し、黙っていると彼は話し始めた。
「君、ここにはよく来るの?」
「え、あ……と」
不意に話しかけられ、また少しビクッとしてしまう。いくら人見知りとはいえ、こんな反応ばかりしていると失礼になると心の中では反省する、三日月。
そう、頭では理解している。
が、しかし。無意識に、口籠ってしまった。
(どうしよう……)
この時、素直に「はい」と答えられたなら。そう思う反面、自分が一人でいる時間を、一人で落ち着ける――“居場所”を。
――誰にも、知られたくなくて。
(とは言え、今こうして知られているのですが)
少し長めの間があいた後やっと「そう、ですね……」と、言葉少なめに返答した。すると彼はまた優しい声で「そっか」と明るく言い、続けて話す。
「僕は、一週間前に転校してきたばかりでね。色々と学内を探検していたんだ。それで今日は、こんなに素敵な場所を見つけて、一人で喜んでいたところだった」
そして彼は三日月へ満面の笑みでニコッ! 優しい表情を向けた。
(探検って!)
なんという可愛い例えなのだろう。しかしそんな言葉、口には出せないと思いながら、気付けば笑みが零れている。それから少しずつ、自分の心が解けていく気がした。
「わ、分かります。私もお気に入りの場所なので。賑やかな所がどうも苦手で……でもここにいるとなぜか、とても落ち着くのです」
やっとの思いで話す彼女の言葉に「僕も静かな所が好きだよ」と、彼は答える。
温かく優しい光が射し込む、屋上扉前の階段で二人。
それから少しずつ言葉を交わし、和やかな雰囲気のまま話は弾んでいた。そしてあっという間に時間は過ぎ、昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴る。
「あ、そろそろ……」
「うん、そうだね」
彼の声色はまるで透き通った水のように、心の奥まで潤す。そしてゆっくりと静かに、心身に沁み入る。
心の奥に眠る、氷のように冷たい感情。その心を溶かすように、不思議な感覚を感じさせる。
――どうしてかな、心がポカポカして温かい。
(そういえば私、普通に話せてた?)
いつもなら初対面の人には挨拶を交わすだけで、精一杯な三日月。
二人でいた時には気付けなかったが彼女は自然と自分の考えや気持ちを、彼に話していたのである。
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