160 それぞれの旅立ち
「学園編」最終話です(*´▽`*)
「さてさて~今日は! くまちゃんチョコクリーム入り♡ ふわふわパンと……いつものカフェオレ!」
夏の風が少しだけ涼しさを感じ始めた頃、三日月はいつものようにランチ時間を楽しんでいた。
「ん~美味しい……」
大きく開けたお口で「はむっ!」と、頬ばる。此処にはもう絶対に人は来ないと心底思っている彼女の表情はもうゆるゆる、笑顔にしかならない。
「はぁぅ♡ 幸せだぁ……」
と、一人時間を満喫していたその時――。
コツ、コツン、コッコッ……コツーン!
(え? 靴音……まさかッ!?)
「星様――ッ!?」
「ん? おや、月さん。御機嫌よう」
とてつもなく甘く優しい、そして柔らかい口調。思わず手や足が止まる程、聞き惚れるその声に三日月はとても聞き覚えがあった。
その人物とは――。
「ぅ、ぁ……ロイズ、先生」
(し、しまったぁ! そうですよねぇ~……此処に星様が来るはずないじゃん。それなのに私ってば)
大声でセルクの名を呼んでしまった口をグッと両手で抑えながら、恥ずかしさで真っ赤っかな顔を隠すように、ぺこぺこりとロイズへ頭を下げる。
「んふふ、どうしたのです? そんなに頭を下げなくてもよろしいですよ」
「んあ、ハイ。えーっと、す゛みまじぇ」
(んあー、緊張のあまり! 噛んでしまったぁぁぁ)
「んっフフフフ。本当に可愛らしく、そして素敵な御方だ。やはり、若かりし望月様によく似ていますね」
「お、お母様……似てるでしょおか」
「えぇ! とっても」
嬉しいような恥ずかしいような、よく分からない感情になった彼女の気持ちは少し落ち着き、頬はピンク色でロイズから目を逸らす。
「……星守空が心惹かれても無理はなかった、か」
「ふぇっ?」
「いいえ~何でもありません。月さん、お食事が終わってからで良いのですが、少しだけお時間いただけますか?」
「んにゃ――ッ!」
パタパタパタ……パタン、カチャん!
「ん~?」
(月さん、急にどうしたのでしょうねぇ)
「ハイッ! お片付け終わりましたので、どうぞ!! よろしくお願いいたします」
「エッ? あらあら……フフフ」
突然現れたロイズに戸惑いながらも、先生からの言葉に瞬時に対応。三日月は準備万端と言わんばかりに、階段で正座をして話を待つ。その健気な姿に思わず吹き出しそうになると、柔和な顔でロイズは微笑んだ。
「……?」
「ふふ……いえ、コホン。では――月さん。やはり、貴女にはお伝えしておくべきかと思いましたので」
「えっと、はい……」
「星守空の事です」
「あ……ほ、しさまの……ですか?」
そこからは、一気に空気が変化する。
ロイズの表情や雰囲気全てが、三日月の全身を痺れさせるようであった。
「彼は今――【end】にいます」
「え、あの……」
+
学園について――。
【end】とは、最後の学びの場所とされているが、未だ詳細不明である。
ただ王国が管理しており、何処かにあると言われている“竜星域”。そこは秘密裏に訓練が行われるとだけ伝わっている。
様々な力を持つ合格ラインを超えた者で、王国に認められた者のみが選ばれるらしいが、しかし。
此処については謎が多く、一般には公開されていない。
+
「えぇ。皆、【スカイスクール】へ入学した時点で、聞くとは思いますが」
「はい。とても厳しい訓練があると聞いています」
(誰でも選ばれるわけではない、そんな場所へ。そっか、星様はお強いから、認められて……頑張ってるんだ)
「そうですね。まぁ『厳しい』と言えば、聞こえは良いのですが」
「えっ? それは、どういう……」
「その【end】へ行く者、生きて還らぬ者も多くいるのです」
「――?!」
「“竜星域”のある【end】へ入る許可は、国王様の権限です。その先へ挑むことを認められる者は、この国でも恐らくごく少数でしょう。そこがなぜ、謎多き場所とされているのか……それは選ばれし人物には、極秘で声がかかるからです。危険についての説明も、気が滅入る程にありますので、その後【end】へ行くのかを決断するのは本人次第――」
「つまり……星様は、命の危険がある場所へ行くことを、ご自分で決められた、と」
涼し気な表情を変えず、ゆっくりと頷いたロイズは屋上扉から差す輝く陽光に手を伸ばした。そして、続きを三日月へと話す。
「星守空は、生まれた時から“役目”とされていたことがあります。その一つを先日解決しましたが、それは貴女のおかげでもある。理由は何にせよ、貴女へ記憶を戻す際に彼が自身で創り上げることの出来た魔法具――『星座光』の存在が証でしょう……そう、全てに意味がある」
「意味……」
「今日は、その事をお伝えしに来ました。どうか彼の選んだ道を、星守空の事を許してあげて下さい」
「許すだなんて! 私はずっと、星様を想っています!! って、アッ」
――う゛ぁぁぁあ!
(は、恥ずかしいよぉぉ……)
「ふっふふふ! 私の心配は、いらなかったようですね。それでは月さん、お邪魔しました」
(月さん、貴女の為に行ったとは、やはり私の口からは言えません)
にこやかに笑うロイズは心の中で切なく、呟く。
「い、いえ! こちらこそ、ありがとうございました……」
深々とお辞儀をする三日月に笑顔を送るロイズの靴音は、まるでセルクと似ているなと感じた彼女は、彼の姿をふと思い出し、頬を染めたのだった。
◆
あれから数ヶ月が経った。
学園内ではしばらく、星様が急に転校したことが話題になっていたが、行先や本当の理由も、誰一人知らない。もちろんお気に入りの場所――屋上扉前にも、彼が現れることはなかった。
太陽君、メルルとティルは相変わらず追いかけごっこをしていて楽しそうな毎日を送っている。しかし、王子様としてイレクトルム王国へ帰る時も日に日に近付いているので、たまに心細さを感じてしまうのだ。
屋上へ向かう階段の六階、屋上扉前。
今日も一人、静かで穏やかな時間が流れる。
それでも、寂しさはない。
いや、寂しがっている場合ではない。
あの日、星様は初めて手を握ってくれて。
別れの言葉ではなく、お守りのブレスレットに心を込めて『貴女の傍に生きています』と、言ってくれたから。その想いと力を胸に、私も強く……強くなっていかなきゃ。
◆
「いつか必ず。この月世界に、安寧を取り戻してみせる」
ーTo be continued...♡ー
拙作『月世界の願いごと~奇跡の花は煌めく三日月の夜に咲いて~』(旧題:『星と月の願いごと』)
こちらのお話で学園編として、一度完結となります。
最後までお読み下さり本当にありがとうございましたぁ。
次話は菜乃ひめ可の今後に関する【あとがき】となります( ..)φ




