141 心が赴くままに
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三日月とセルクの決意を聞いたロイズはおもむろに立ち上がりにっこり微笑むと、右手で水をすくう仕草をする。
――――ポゥゥ……。
その手から生み出されたのは丸く柔らかな、光。
(あったかい光……ロイズ先生の、魔法?)
光は眩しく輝き、思わず目を細めた三日月はふんわりとしたその光を見つめ、思い出していた。今後の魔法授業に関する打ち合わせに特別校舎を訪れたあの日――海偉里との騒動時に優しく包み込まれたロイズからの、丸い光を。
次にロイズはスッと伸ばした右手の指先を天に向け美音なフィンガースナップを、響かせた。それが合図のように会議の部屋にいる皆は静かに立ち上がり椅子の後ろへゆっくりと、下がり始める。
それは会議終盤、議決の時間を意味していた。
「あれ? えっと、んーと」
(皆様、どうしたのでしょうかぁ?)
とても異様な光景に三日月は少し、驚いていた。
しかしメルルとティルだけは変わらず三日月の両腕にギュッとして、離れない。
まるで彼女の事を――“護る”かのように。
一回目のフィンガースナップ音の響いた余韻が微かに残る中、二回目の美音がパチンと鳴らされる。
するとどこまでも真っ直ぐに続いていた通路や視界が真っ白に浮かんでいるような感覚だった会議の部屋は、変化した。
キラキラキラキラ――シュン……ッ。
椅子やテーブル、その他全ての物が一瞬で消えると薄暗く、丸い円柱のような部屋へと形を変えたのである。
「「うっひょー?!」」
その見事なまでの魔法に驚いたメルルとティルは頬をピンク色に染め、無邪気に喜ぶ。
「『うっひょー』って! うふふ」
(あっ、笑っちゃったぁ。お二人さん、こんな時でも……可愛いのねぇ)
二人の何気ない行動にいつも癒される三日月の顔には今も笑みが、零れる。
「ちゅっきぃ~見たぁ?!」「しゅごぉーいのぉ!!」
「うんうん、見たよぉ♪ すごいねぇ!」
――瞬きをするくらいの、時間。
短い時間で目の前にある光景を一変させてしまう魔法――それは誰でも出来る術ではない。
しかしロイズにとっては片手間で行えるような、初歩的な空間魔法である。
「月さん、最後に一つ。よろしいですか?」
「は、はいっ」
ロイズはいつもと変わらぬ表情でその美しく輝く金色の長い髪をサラッと揺らしながら「確認を」と、話す。そして優しく三日月の心情に、問う。
「本日、予定では望月様が月さんにかけている魔法【鍵】を解き、戻すこと。そしてこれからはあなた自身の持つ本当の力――魔力、能力で訓練をしていただけるようにすることが、一番の目的でした」
「あ、それで……」
(さっき受けた、お母様からの強い力は)
それは三日月の心にとって本当に辛く痛い、時間であった。見たことのない母の姿に戸惑いつつもそこから伝わってくる、強大な力と――想い。
それは三日月に記憶を乗り越えるための精神力と力、勇気を与えてくれたのであった。
「えぇ、お察しの通りです。しかし、状況は変化していき……思った以上に月さんの成長が著しく早かった。そして本来の力を解放することよりも先に、失われた“記憶”への干渉が見受けられました」
「……」
聞き入る三日月と見つめ合うロイズは一瞬だけ微笑むとまた真剣な眼差しで、話を続けた。
「二つの魔法、つまり『鍵魔法による力の解放』と『記憶を戻すための想起魔法』を、今この場で同時にすることは体力的・精神的にも、残念ながら不可能と思われます。ですので――」
「どちらかを……ということですね」
三日月の声は強い決意を感じさせる。そして美しい瞳はキラキラと、煌めく。
「そうですね。月さん、大変申し上げにくいのですが……どちらを優先するのか――貴女のお気持ちをお聞きしたいのです」
――どちらを優先させるか?
(自分にとって今、必要だと判断した方を選んで)
三日月は自分の手のひらを見つめ、考えていた。
そして数分後、出した答えは――。
「ロイズ先生、私は……」
そう切り出した三日月は、言葉に詰まる。
「ゆっくりで、良いのですよ」
ロイズはいつもと同じ、温かい目で見守りながら三日月の言葉を、待った。
「あ、ありがとうございます……」
深呼吸をする三日月。右手をギュッと握り心の中で「よしっ!」と気合を入れ、続きを話し始めた。
「私は、記憶を取り戻したいのです。全ては――“記憶”から始まり、色んなことに繋がっているような……そんな気がするのです」
眉尻を下げ、物悲しそうな表情の三日月は懸命に声を発する。
「月さん、ありがとうございます。承知しました」
「あ、いえ。よろしくお願いいたします」
――『記憶を戻す想起魔法』
(月さん。貴女の心が、赴くままに)
揺るぎない三日月の決意を感じ取ったロイズはそう心の中で呟き、口元を少しだけ緩め安堵の表情を浮かべた。
そして――。
「それでは、セレネフォス=三日月様同意のもと。これより【想起】魔法を開始いたします。本日お集りの皆様は、二人への守護を願います」
「「「「はい――」」」」
三日月とセルク以外の者たちは一斉にロイズの声にすぐ、返答をする。
「三日月様、お部屋の中央へ」
「は、はいッ!」
まだ光を残したロイズの手が言葉と共に、誘う。その指示で中央へ進んだ三日月はセルクと向き合い立つよう、促された。
コツン、コツン、コツ……。
「星様……」
「うん、月。大丈夫だよ」
三日月の心は動揺し今までに感じたことのない緊張と不安に、ドクドクが止まらない。その気持ちを受け入れ抱きしめるような笑顔で答えるセルクの声に彼女は、救われる。
「皆様、お並びください」
ロイズの言葉で望月、ラフィール、ランス、雷伊都が動く。丸い部屋に星の形が出来るよう均等に周り、並ぶ。
「ありがとうございます。では――」
最後にロイズが定位置へ着いた、その瞬間!!
スッ……ポゥゥー……キラッ――。
光の流れが完成し、輝き始めた。それは中央にいる二人を囲むように創られた、星形の光線。
――その星座に護られる、三日月と星守空。
「星の御加護を……セレネフォス=三日月様への黒闇【忘却】魔法を解除すべく、此処に――アスカリエス=ロイズ=星守空の内なる力を召喚する」
シュウゥゥゥ……ぶわぁぁあ――パァーんッ!!
丸い部屋の壁面は噴水のように湧き上がる。それは天まで伸びるかの如く――上へ、上へと、円を描いていた。
いつも聞く甘い声とは違い今のロイズは重みのある低い、声色。しかしその声は不思議と、三日月の心身をホッとさせ安心感を与える。
そしてその“言葉”は、いつ、どのタイミングで【想起】魔法の展開をセルクが始めたとしても、問題のないよう準備が完了したことを、示していた。
(うぅ、いよいよ? 始まるの……)
その緊張に震える三日月の身体をメルルとティルが、抱きしめる。
「つっきぃ、大丈夫だからにゅ」
「メルルもティルも、ここにいるにゅ」
「二人とも……にゅ、ネ。うふふ、ありがとう!」
メルルとティルのおかげで俯きそうになっていた顔を上げることができた三日月はセルクと目が合い、にっこりと微笑む。
それから数秒後――【想起】魔法展開直前。
三日月の気持ちを憂慮するべき状況にセルクは、優しく問いかける。
「月、心の準備は良いかな?」
「星様」
(頑張って乗り越えて、きっと記憶を取り戻す)
「はい! よろしくお願いします」
煌めく“月の瞳”――輝く“星の瞳”。
見つめ合う二人に流れる空気は、穏やかだ。
――やがて、それは。
ふんわり、ふわりと、丸い部屋に広がっていった。
お読みくださりありがとぉございます♪
『 関連のあるお話 』(◍•ᴗ•◍)
~☆今回はこちら☾~
↓ ↓
第12部分【09 光の中】
こちらのお話ではロイズ先生の
丸い光☆ 【護り魔法】が
描かれていましゅ☆彡
三日月をカイリから? 護った?
うーん(゜-゜) うふふふ♪
やっぱりロイズしぇんしぇーは
素敵なのです♡ 笑
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次話もお楽しみにぃ♪




