09 光の中
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♪こちらのお話は、読了時間:約7分です♪
(Wordcount3300)
――私はこの急な出来事に、まだ状況が把握できず、動けないままでいた。
ザワッ!!
「ちょっと見てぇ!! ロイズ先生よ」
「きゃあ~ん♡ こんな間近に……」
「奇跡だわぁ~」
「お美しい、素敵ですぅ~」
(((はァ~……♡)))
その憧れから漏れ出た大きな溜息は、響くように聞こえてきた。お嬢様方にとってロイズは神的な存在。「遠くからでもお会いできることは奇跡」と、皆一様に頬を赤くメロメロになりながらロイズのことを見つめている。
普段は落ち着き静かな校舎内は「何があったのか?」と、口々にざわめく。そしてカイリたちの周りには、男女問わず上流階級の生徒が、まるで見物するかのようにわいわいと集まってきていた。
「なになに? どうしたの?」
「ロイズ先生の神聖なる魔法を見れるだなんてぇ!!」
「き、貴重な経験過ぎる」
「ていうか、あの生徒さんは誰?!」
「はぁ~嬉しすぎてぇ! 倒れちゃいそう」
魔法科最高責任者に注がれる、生徒からの熱い視線の中。なぜかロイズからの護り魔法を独り占めに受けている三日月。言うまでもないが、彼女に向けられている空気は痛いものであった。
それはもう、まるで可視光線。目に見えるようだ。
(なぜでしょうかぁ? ワタシ、とっても居心地がわるぅございますが……)
キリキリッ――?!
「い、痛ッ」
その時突然、耳に電気が走るような、針が刺さるかのような痛みが襲ってきた。
(えっ?! 痛いよ、耳が切れるように痛い! 人の声が刺さるみたいに)
「ど……して?」
(ツライよぉ?)
その辛さは三日月にとって生まれて初めての経験だった。どれくらいの時間が経ったのかは分からない。が、恐らくほんの数分のことだ。痛みが少し和らぎふと気付くと、自分の周りはさっきにも増して大騒ぎになっていた。
「――……リ! おいっ、カイリッ!! しっかりしろって」
三日月が声のする方を向くと、友人だろうか。親しそうな感じでカイリの背中を叩き、意識を元に戻そうと必死になっている。
(一体何が起こっているの? ロイズ先生も、なんだか様子が)
そう感じながら、もう一度ロイズの顔を見る。その表情は話していた時とは全く異なる冷たい空気感。怒っているような、何だかピリついて見える。
「せ……んせい?」
心配で不安な気持ちが言葉となってしまう。するとその声に気付いたロイズは、三日月の元へふわりと寄り、部屋での打ち合わせ時と同じように、笑顔で笑いかけた。そして、護り(丸い光)の魔法を解くと、新たな魔法をかけるかのように三日月の耳元で囁いた。あの甘~く優しすぎる声で「大丈夫、安心なさい」と。
――そう、耳元で……ほぇ?!
(ロイズ先生! ち、近い、お顔が近すぎますぅ!)
「「きゃああああー」」
――あぁ、これは大変。
この光景を見ていた、お嬢様方の声は悲鳴のようだった。皆からの厳しい無言の圧力に押される三日月。
(うぅ、別の意味で。私、とても危険な状況なのでは?)
ふと冷たい空気を感じ、そばにいたロイズを見上げると、優しい表情は一変、一瞬で厳しい顔に戻っていた。
「さて、ラウルド君。お話を聞かせてくれるかな?」
「あ、あのロイズ先生。これは、ですね」
言い訳をしようとした友人の言葉を、ロイズは片手で制止し、笑顔を向ける。そして再びカイリに目を向け、改めて答えを待つ。
カイリは怖いのか? 少し震えながら、答えた。
「はい……申し訳ありませんでした」
それを聞いたロイズは「では、授業が終わり次第」と、言葉少なに伝えた。その頃に他の先生や講師が騒ぎを聞きつけてやっと到着した。
「授業が始まります、さぁ皆さん戻って!」
ほらほら皆さん行きますよ~と集まってきていた生徒たちを連れ、先生方は戻っていった。
その列に続いて歩き始めたカイリ。しかし突然立ち止まり、一言。
「転入生くん。いずれまた君とは――」
振り向き顔を見せる事は無く、ただただ意味深に言葉を放った。
「そうですね。あぁ! ラウルド君、一つだけ訂正をしても?」
その言葉にカイリは背を向けたまま機嫌が悪そうに「なんだ?」と、返事をする。
いつの間にか眼鏡をかけ、いつもの表情と落ち着いたトーンで、淡々と彼は続きを話し始めた。
「彼女の髪色のことですが、正確にはホワイトブロンドです。お間違いのないよう」
それを聞いたカイリは、今度は吐き捨てるように「言われなくても分かっている!」と言い、その声は廊下中に響き渡った。
それでも彼は全く動じる様子もなく、にっこりと笑顔で返事をする。
「そうでしたか! それは申し訳ない、足を止めさせてしまって」
その言葉をカイリは、最後まで聞いていたのかどうか? 振り返ることなく、その場を立ち去った。
(ありがたいのですが、私の髪色なんて……)
「どうしてかな。一体私は、どうすればよかったのかな?」
三日月はボソッと呟いた。また私が原因で問題が起こるのでは? 幼い頃の記憶なのか、自分がいることで他人に迷惑をかけるのでは、と。
――人と関わるのを拒ませる、心の中のワタシ。
「さぁ~君たちも授業に遅れてしまいます。早く教室へ戻ってねぇ♪」
ロイズの甘く優しい声で、ハッと我に返る。
「あ、はい! ロイズ先生、ご迷惑をおかけして申し訳ございません、本当に今日はありがとうございました」
三日月は深く頭を下げ、お詫びとお礼を言う。はぁ~いと言いながら、ロイズはゆらゆらと手を振り陽気に部屋へ戻っていった。
パタンッ――。
「さて、戻らないとね。そうだった、可愛い子が一人でこんな所にいたら、今日みたいに連れて行かれるよ?」
「ふえーっ?」
揶揄うように彼は笑い、ハンカチを差し出され「あぁ~そうだ。私、泣き虫だったよぅ」と思いながら、涙で潤んだ瞳を、受け取ったハンカチで隠す。
彼の青く美しい眼差しは『心の中のワタシ』全てを、見透かしているかのようだった。
「ハンカチ申し訳ないです……えっと、励ましてくださってありがたいのですが、可愛いだなんてお世辞は、あと! 助けていただきありがとうございました」
とても動揺してしまい、三日月は自分の言ってることが訳の分からない感じになっていることに、恥ずかしさで頬は真っ赤になっていく。しかし、彼はそんなこと気にもせずに、また柔らかな笑顔で答える。
「僕は何もしていないよ、ちょっとラウルド君に話しかけただけ、なんだ。それより」
少し間があいた後、彼は真面目に真っ直ぐな瞳で三日月に告げた。
――「可愛いは、本当に心から思っているよ」
そう言うと、優しくふわっと微笑む。
「あ、えっと、その。あ、りがとうございます。う、嬉しいです……」
(なぜ? 私はお礼を言っているのぉ?! というよりも、そんなお恥ずかしい言葉……サラッと言わないでくださいー!!)
あたふたと戸惑う三日月の姿を見て、いつものようにふふふっと笑う彼。それでまた、恥ずかしさ倍増。きっとお顔は真っ赤で大変だぁと、両手で頬を抑えていた。
「さて。お迎えも来たことだし、校舎まで気を付けて帰ってね」
「えっ、お迎え? あーっ!」
どういうこと? と後ろを見ると、見覚えのある二人。
「メルル、ティル! どうして?」
「遅いから、心配してお迎えきたにゅ~ん♪」
「雨降ってきたから傘持ってお迎え来たにゅん♪」
(今日はお二人ともにゅんなのネ)
クスッと微笑む三日月。
「二人とも、本当にありがとう」
そして彼にもう一度お礼を言うと、次の授業へと急いで向かった。
あの時、窓の外を眺めていた時の雨音。
三日月が感じていた精霊のいない時間の冷たさ、静かで悲しい気持ちも。不思議と今は感じなくなっていた。
(メル・ティルのおかげかな?)
――そしてまだ……身体の奥で感じる、ロイズ先生の温かい【護り】魔法の余韻。
「護る魔法って、すごい……」
それから三人で仲良く傘を差し、授業のある一般校舎へと、おしゃべりしながら戻るのだった。
◇
――コツ、コツ、コツ……。
ヒールの……革靴の美しい音が、三日月たちの通った後の廊下に、高々と響いている。楽しそうに歩いていく三人の姿を、誰かが見ていた。
「ねぇ、シャル? さっきのあの子は……誰なのかしら? 調べてちょうだい」
「あ、ハイッ! ユイリア様、お任せください。お調べしておきます!」
「ふぅん――よろしくね」
お読みいただきありがとうございます(*´▽`*)
今後ともよろしくお願い致します♪




