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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第八六話「すべては仕組まれていたことだったというわけか」

「やあ、久しいね聖女リーファ。話はカナフェルから聞いたよ」

猊下(げいか)から……?」


 何故(なぜ)? 何故私たちの話が猊下を通してベリアルへ筒抜(つつぬ)けになっているんだ? どうしてこいつは――


「……猊下を(あやつ)っていたのですね……、シャラのように……」


 すぐにその考えへ(いた)った私に、ベリアルは(かわ)いた拍手(はくしゅ)を送った。(うれ)しくもなんともない。


「ああ、そうさ。僕がこの大教会で大人しくシスターの仕事だけをやっていたと思っていたのかい? 浅はかな考えだよ」


 なんということか。陛下(へいか)にだけ目が行っていたけれども、大司教(だいしきょう)猊下はこの国のカナン教を(まと)める指導者(しどうしゃ)だ。最も操られてはならない人物の一人だったことに今気づいてしまった。


「それにね、昨日あの魔道具(まどうぐ)屋で僕を監視(かんし)していたことは気づいていたんだ。あまり僕を甘く見ないで()しいものだね」


 私たちの行動も(はな)から筒抜けだったわけか。流石(さすが)は二番目に創造(そうぞう)された天使といったところか。


 そう言えば、シャラはどうしたんだろう。猊下に連れて行かれたということは、ベリアルに何かしらされているのだと思うが……。


「……シャラは、どうしましたか?」

「ああ、彼女なら生贄(いけにえ)になって貰う」

「……生贄? 何を言っているのですか? ここは魔宴(サバト)の会場では無く、教会ですよ?」


 理解できていない私に、ベリアルは小さく鼻を鳴らして大手を広げた。


「彼女はこのカナン教にとっては異端(いたん)の存在だからね。教徒たちの前で、見せしめにカナフェルの手で処刑して(もら)おうと思う」

「なっ!?」

「動くな」


 とんでもないことを言い出したベリアルに(おどろ)き、私は(あわ)てて部屋を出るため大悪魔の横を素通(すどお)りしようとしたところ、脇腹(わきばら)に冷たい物が押し当てられて思わず動きを止める。見下(みお)ろしてみるとナイフだった。的確(てきかく)に急所を(ねら)っている。本気だ。


「席に戻れ。お前では僕に勝てないぞ?」

「くっ……」


 ベリアルの言う通りだ。サマエルさんが苦戦(くせん)するような相手と近接戦なんてどう足掻(あが)いても勝てる見込(みこ)みは無い。


 私が大人しく席に戻ると、ベリアルは満足そうに(うなず)く。


「さて、話の続きだ。この国のカナン教にはこれから再び異端の存在を(ゆる)さぬ方向に進んで貰う。そうなればカナン教の混乱は必至(ひっし)だろうね」

「……現代社会の秩序(ちつじょ)破壊(はかい)し、貴方(あなた)は何がしたいのですか?」


 そう、それは気になっていた。秩序を破壊し、そしてこいつは何を()()げようとしているのだろうか。


 仮に秩序を破壊したところで、待っているのは混乱。それは彼にとっても()らしにくいものだと思っている。


「目的か? それはシンプルだ、神を(おとし)めることだ」

「神を、貶める?」

「そうだ。僕という存在を不要として()とした神への復讐(ふくしゅう)、それが目的だよ」


 堕天使というのは二種類居る。(みずか)(のぞ)んで悪魔の道を進み堕天使(だてんし)と成った者と、神に見放(みはな)されて成った者。サマエルさんは自由を望んで悪魔になったので前者だけど、ベリアルは後者だったのか。


明けの明星(ルシファー)が堕ち、天使たちのトップとなった僕だったけれども、僕は神に気に入られていなかったからね。すぐに堕とされてしまった。全く非道(ひど)い話だよ」


 そう言ってから、「さて」とベリアルは(きびす)を返し、(とびら)を開いた。


「君には(こと)が終わるまで大人しくしておいて貰おう。まぁもっとも、何も出来(でき)ないだろうがね」


 小さく不敵(ふてき)に笑ったベリアルは、その表情を(くず)すこと無く扉を閉めた。


◆ひとこと


リーファちゃんが「サバト」と言っていますが、これは黒魔術由来であり、リーファちゃんの使う近代魔術とは毛色が違います。

鶏やら羊やらを生贄にして力を得る魔術で、近代魔術の使い手からはいい顔をされません。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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